4.予定外、予想外
「あっ、ちょっと知り合いと電話して来ていい?」
「うん、着替えて待ってるね」
「分かった。ありがとね」
雅の頭に手を乗せただけで、幸せそうにする。
俺がヒモだって知ってるくせに、人の温もり求めて、みんな俺によってたかる。
俺含めて、そういうやつは、何かが足らない
パズルだったら、もうすぐで完成なのに、チラホラパズルのピースを道中で落としてるから、見つかりもしないし、完成もしない
みたいな…
それを、俺は女と金で
女は、俺の顔とテクニックで
互いに満たしてるだけの存在
本当は、そこに愛なんて存在しないのに、好きだなんだと言い合って、どちらかの都合が悪くなれば、捨てる
本当にくだらないごっこ遊びだと思う
小さい子がするおままごとよりも、よっぽどね
「もしもし、今大丈夫かな」
『薫さん!はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?』
「今日お家行くって言ってたんだけど、急用が入っちゃってさ、行けなくなっちゃったんだ」
『そうなんですか?お仕事、お疲れ様です。無理はしないでくださいね?』
勝手に仕事だって勘違いしてくれたみたい。
やっぱりちょろいよねぇ
「うん、ありがとう。せっかく楽しみにしてくれてたのに、ごめんね。また会おうね」
『はい!楽しみにしてますね!』
よしっ、電話お〜わりっ
名前は出してないし、スピーカーじゃないから電話相手の声も雅には聞こえてない
抜かりはないね
さっさと着替えて、雅とご飯に行くか
俺の好物が出てくるのが楽しみだったとか、そんな感情捨て去ってしまえば終わりだ
身支度を終えると、めっちゃオシャレしてる雅がいた。
これは、褒めてほしいんだろうなーって、すぐ分かる。あからさまだから
「雅、よく似合ってる。服は、新しく買ったの?」
「うん!新調したの!気付いてくれて嬉しいっ」
「当たり前だよ。雅はいつも可愛いけど、少しでもいつもと違ったら、分かるんだ」
「ありがと…」
また照れた
好きでもないのに、あれこれと褒め言葉が出て来たり、身体の関係を持ったり、愛を囁ける
俺には、それしか生きる方法がなかったから。
ある意味生存本能みたいなもんだと思ってる
勉強で特待生を取れば、お金が無くても〜なんて、考えがあったりもした。
だから一時期頑張って、特待生制度で高校に行ったけど、やっぱ人生上手くいかない。
いつのまにかイジメられてたよねー。
ほんの米一粒くらいの希望を持って、先生に相談してみたけど、『お前に原因があるんじゃないのか?それか勘違いだと思うぞ』って言われて、それで終わりだった。
それから、俺の心のどっかの糸が切れて、結び直すことも不可能だった。
もう全部どうでも良くなって、高校は中退した。
だから職を探した。
まあでも、当たり前のようにまともなところは見つからなかった。
「ねえ、どこ行こっか?」
そろそろ、飽きたな
恋愛ごっこ
雅だって、どうせ本命のやつがいるだろうに
軽い愛は、互いにもうすぐ底を尽きると思う
次の女を探すべきだな。頃合いだ
「知り合いの店で良さげなところがあるから、そこ行かない?」
「行く!」
「ハハっ、素直で可愛いね。雅は」
誘導は成功だな
俺と同じような連中が集まるバーに、雅を連れて来た。
「ここっ、カクテルが美味しくてさ。値段もそんなに高くないから、飲んでみて欲しかったんだ」
「そうなんだ、楽しみっ」
俺オススメの度の高いカクテルを手渡す。
「んっ、甘くて美味しいね。これいくらでも飲めちゃうかも」
「でしょっ?俺のオススメなんだぁ」
後は、ここのバーの人たちとは全員知り合いだから、雅を虜にしてもらって、俺は次の女探しに移る。
…はずだった。
「あれっ?薫さん?」
雅の酔いが回って来た頃、女は来た。
俺を呼び捨てにしない女は、1人しかいない。