2.箱入り娘?
「……へっ?」
この反応…てことは、男と遊ぶことはしてこなかったんだろうなぁ
いいカモになっちゃうね。せっかく面倒くさそうな男から逃げ出せたって言うのに、ただ悪い男から悪い男に移ってきただけだったな
俺が目つけただけだけど
「俺…、つむぎちゃんに一目惚れしちゃってさ。…ダメ…かな」
「っいえ…!ダメなんてそんなことないです…!…その、夜ご飯、カレーなんですけど、食べますか?先のお礼ってことで…」
はっ?
まじ?
マジでカレーなのかよ…いやそれより
俺、出会ってまだ1日も経ってない男なんだけど
ちょろいなー。この子
今まで純粋に真っ直ぐ生きてこれたのが奇跡なんだろうな。箱入り娘ってヤツ?
「いいの…?!嬉しい!さっそくつむぎちゃんの手料理が食べれるなんて、俺は幸せものだね」
この次に見せるべき俺の顔は、多分満面の笑み。
すると、ほらな
つむぎという女の可愛らしさ全開の頬は桃色に染まる。
「えっと、行きますか…?その…」
「薫、薫って呼んでよ、つむぎちゃん」
「…!、はい!じゃあ、その、かおるさんっ…!」
あぁ、多分この子
世の中がどんだけ薄汚いか、分かってないんだ
だから、俺みたいな男に捕まるんだぜ?
「どーぞ!上がってください。あまり広くはないんですけど、ダイニングで座って待っててくださいね。すぐ出来ると思うので!」
スーツも着て、メイクもして、肩掛けのカバン持って、絶対仕事終わりな格好してるのに、めっっちゃ元気だな
この世の元気全部かき集めたんじゃないかってくらい
だって、さぁ
もう多分忘れてんじゃん
路地裏で殴られそうになったこと
まあ、気にしてないなら、俺もそっちの方が都合いいけどね
「うん、ありがとう。つむぎちゃん。お邪魔しちゃうね」
玄関に入って思ったのは、やっぱり俺、金を見る審美眼はあるなって
玄関は整ってて、観葉植物も置いちゃったりなんかして、女の家転々としてる俺とは大違い
惨めになるなぁ
まあ、こんな綺麗な家に住めて、料理もつくってくれる女の子発見しちゃったわけだし、俺の惨めなんてちょっとしたくだらない気持ちくらい、ゴミ箱にでも捨てたら済む話だな
そっちの方が、美味しい思いが出来るからね
「薫さん?大丈夫ですか?」
「ん?なんともないよ。つむぎちゃんの手料理、楽しみ」
「ふふ、すぐ出来ますよ」
そしたら、本当に5分も経たずに出来ちゃった
なんか超人みたいだなーなんて
…色んな意味で
「ありがとう、つむぎちゃん。美味しそう」
「いえ!先程助けて頂いたお礼です」
ああ、覚えてたんだ
覚えてたのに、ずっとそんな笑顔、浮かべられるこのかよ…
やっぱ肝が据わってんなぁ
普通なら、あの経験で男が怖くなったり、何かしら恐怖抱いてると思ったんだけど
んで、その怖い気持ちを俺が支えて、晴れて女をATMにっ!…って感じのシナリオだったんだけど
この子、恐怖心路地裏に置いて来た?
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
そういえば、カレーに使われてる皿も、スプーンも、全部銀食器なんだな。
服装とか見た感じは普通のところで働いてるとは思うけど、一応聞いといた方がいいか…?
「ねえ、つむぎちゃん。つむぎちゃんの職業って、先みたいに人から付き纏われる職業じゃないよね?彼氏になったばっかりなのに、詮索みたいな感じになってごめんね。でも俺、心配になっちゃってさ」
いかにもなこと言ったけど、ただ闇金とかヤクザ関連だったら面倒だなって
社長の娘とかもイヤだけど
だって、付き合ってることバレたら、どうせ向こうの父親から白い目で見られるの分かってんだから
まあ、つむぎちゃんはそれも無さそう
だってめっちゃキョトンとしてるし
そっから、フフッて笑ってる。
ちょっとツボにハマったらしい。
そういえばこの子、喋る時絶対目ぇ合わすんだよな…
捨てる時めっちゃ執着されそうでちょっと怖っ…
まあ今は考える必要はないな
捨てなくて良さそうな顔してるわ
「大丈夫ですよ。薫さんが心配するような職業はしてないつもりです!私の職業は先生の系統なので!」
「へぇ…!そうなんだ。なんだかつむぎちゃんっぽくていいね」
「ありがとうございます!そう言ってくれたの、薫さんが初めてです!」
えっ、ふつうに向いてそうーって思ってただけなんだけど
そんな先生向いてないのつむぎちゃん
「へぇ、意外だなぁ。もしかして、先生仲間に言われちゃったりするの?」
「いえ、他の先生方とは仲良くさせてもらってるんですけど、…えっと、あの路地裏で会った男性、覚えてますか?」
あっ、イヤな予感
「うん、覚えてるよ」
「あの人、私の元彼で。彼にずっと、『お前は向いてないからさっさとやめろ』って」
あらぁ。つむぎちゃん泣いちゃう?
ちょっとだけ表情浮かない
「d「でも」」
あれ?
『大丈夫、そんなことないよ』って、言おうと思ってたんだけど…?
…おれのしなりおが……
「私はこの仕事かなり好きなので、何言われたってやめないんですけどね!」
ああ、またこの笑顔じゃねーか…
俺、その太陽みたいな笑顔、直視出来ないよ
俺とは正反対の笑顔でほんとイヤだわ