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15.ヒーロー



「薫さん…?本当にもう動いて大丈夫なんですか…?もう少し安静にしていた方が…」


「もう大丈夫だって何回も言ってる。昨日も行ったけどなんともなかっただろ。じゃあな…。行ってくる」


「…はいっ、行ってらっしゃい。薫さん…」



 いつもより少しだけ覇気がない気がするけど、まあ大丈夫か

 誰にだってそんな日くらいあるしな



 あの日、つむぎの家に戻ってきてから、浮気も賭けもタバコも全部やめた。



 お金はつむぎが受け取って欲しいと何言っても渡してくるから、口座作って貯金してる。



 …あの日、俺に何も望まないあいつに、腹が立った。



 俺に近づくやつは誰だって、何か望みを持ってるのに、目の前にいたつむぎという女は、これでもかってくらいに無頓着で、理解し難かった。



 それとは裏腹に、どんな人生を送ってきたんだろうとも思った。



 これだけ一緒にいると、流石に疑問に思う。



 自分が愛した男の浮気も賭けもニートも暴言も全部許すような人間。



 まあ普通に考えて、そうそういないだろうな…

 本当に許せる意味が分からん



 今日外出したのは、俺のバイト先に行くため。



 バーでも良かったけど、それはつむぎに示しがつかない気がして、個人営業のカフェにした。



 能はないものの、営業スマイルと周りを見る力のおかげで、店長からはできる人間認定された。



 俺が中卒って言っても雇ってくれたカフェの穏やかな店長には感謝しかない。



「お疲れ様でした」


「うん、お疲れ様。薫くん。君がいると仕事が捗って助かるよ。正規雇用してほしかったらいつでも言ってくれて良いからね。ちゃんとお給料も弾むよ」

 


 個人店とは言え、このカフェ周辺に住んでいる人たちの間では少し有名らしい。



 もちろんメニュー内容の料理も美味しいけど、店長の人柄が好きで常連と化する人が多いとのこと。



 確かに、縁のないメガネをかけていて、タレ目で、たくさん笑ってきたと思われる目元のシワ、上がっている口角、黒と白がまばらにある髪色でさえも、この人の人柄を連想させた。



 そして想像通りの穏やかで優しい人だ。



 加えて、天気の話から始まっても、いつのまにか別の話で盛り上がるくらい、店長は話上手。それも、常連が多くいる理由だと思う。



「はい、ありがとうございます。店長」



 徒歩で30分くらい歩くバイト先は、ちょうどいい運動にもなった。



 途中で、あいつらのいるバーに寄ろうと、家までの帰路を変更した。



 そしたら、なんの悪縁か。



 かつての彼女とも呼べないくらい薄っぺらい関係で体だけの関係を持っていた女の1人と出会ってしまった。



 まあ、今までの俺の行動からして、体だけの関係を持っていたやつは少なくない。



 けど中でも、特段にヤバいやつと出会した。


 

 少し、…いや、大分とヤンデレ気質の強い子だ。



 多分こいつと体の関係を持っていた時は、まだ女慣れしていなくて、適当に引っ掛けてた時だっけな



 あー…本当、なんてことしてんだ。昔の俺よ…



「あー…、その、久しぶり…?」

 

「かおるちゃん…今までどこ行ってたの?私がどれだけ辛い思いしたか分かってる?ねえ、お家帰ろう?もう大丈夫だよ、私が養ってあげる」



 あー、…本当に、何してんだよ…俺ぇ……



「お家はお前のとこじゃねえ。……あの時お前を引っ掛けて悪かった。お前はお前の幸せを見つけてくれ」


「はっ?なんで?なんでそんなこと言うの、かおるちゃん。無責任すぎるよ。あ、分かった。他に女がいるんだね?そんな女、私が消してあげるね?…あ、でも、それじゃ解決にはならないかぁ。だったら、かおるちゃんを殺して、私も死ぬのはどうかな!そうしたら、一緒にあの世で会えるよね」



 1人でぶつくさ言ったかと思えば、なんで持ってるのか不明の携帯ナイフをカバンから取り出して、一歩ずつ俺との間合いを詰めてきた。



 危機的な状況だってのに、何故か酷く冷静な脳でいられた。多分アドレナリンドバドバだろうな



「無責任なのは分かってる。でも俺といたってお前が幸せになれることはない。だから頼む。こんなことはやめて、ちゃんとお前の幸せを見つけてくれ。今ならまだ間に合うから。その手を犯罪で染めるな」


「あーあ、本当に無責任なかおるちゃん。私を幸せにしてくれるのはかおるちゃんだけだって、まだ分からないの?それとも今付き合ってる人に洗脳されてるのかな?まあどっちでもいいよね!これからは私の側にいるわけだし!」



 …あー、最近死にかけてばっかりじゃないか?



 けどそれも全部、俺の自業自得なんだよなぁ…



 親から逃げるためとは言え、やっていいことじゃないことは分かってた。



 それでも、生きる術はこれしか思い浮かばなかった。



 結局、あのクソ親父と一緒だな…



 もう乾いた笑みしか漏れず、ヤンデレ女が間合いを詰めてくるたびに俺も下がるが、それよりも早く女が間合いを詰めてくる。



 ナイフを持ってる以上、迂闊に逃げられない…どうしたら…



「かおるちゃん…どうして逃げるの?早く大人しく捕まってよっ!!!」



 可愛らしい服装にそぐわない凶暴な表情とナイフを俺の頭上に振りやるところで、人生は終わった…。



 そう思った…。





「えっ…なん、で…」


「私、言いましたよ?薫さんを守るって」




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