14.生きる
「かおるさん……?」
「?、なんで、おまっ」
「〜〜〜っ___」
喉が掠れてて声も出にくいし体がバカみたいに重たいけど、それよりも、なんで見たくないもんを寝起きに見ないといけねぇんだ。
「なんで泣いてるんだ…」
「あれ…、どうしてでしょう。安心したら勝手に出てきたのかもしれません。お水お持ちするので、少し待っててくださいね」
「待っ…」
俺が全部言う前に、あいつは一旦部屋から出た。
あいつの顔が見たくないんじゃなくて、涙を見たく無かっただけなんだよな…
それでも次に戻ってきたときには、いつものあいつに戻ってた。
無理してるように見えた気がしたけど、仮面を被ってない俺に、そんなこと聞けるわけなかった。
「薫さん、何があったか覚えていますか?」
「いや、何も。気付いたらここで寝てた」
最後の記憶は公園のベンチで寝っ転がるところで終わってる。
それと、記憶の中のこいつと、今目の前にいるこいつは、違うように見えた。
今のこいつは、やつれているような気がする
だってのに、先までの涙は消えて、あっという間にまた向日葵になってる。
そんで、こいつに事の終始を聞いて、驚愕した。
こいつは、俺が朝になっても帰ってこないのが不自然で、探し始めたらしい。
…この1週間とちょっとの間、ずっと探してたって聞いた
警察とかはイヤなんじゃないかなと気遣ってくれたらしい
そうやって俺を見つけた頃には、俺の体は冷え切っていて、急いでタクシー捕まえて病院に向かったそうだ。
急いで見てもらったら、低体温症と呼吸器系が炎症してたから、すぐに治療を始めた。で、俺は助かって、後は目覚めるのを待つだけだから、退院してこいつの部屋に移動した。…とのこと
「…なんで、俺を探したんだよ……。俺は…、いなくなった方が良かっただろうが…!!」
助けてくれたことには感謝してる。
もう一度こいつの顔を見られたのも。
けどな…
俺は誰から見たって、他人と一緒にいて、相手の人間が幸せになれるような人間じゃない
だから…
こいつには幸せになってほしいから、だから離れたのに
なのにまたこいつは、俺を家に戻して
放っておいたら、俺は死んでたのに
…なあ、俺は今、酷いことを言ってるよな。
分かってるんだ…。助けてくれたやつに言うべき言葉じゃないことくらい…
なのに、なんで笑うんだって…
あの時も、今も、ずっとこいつは、笑ってる
「薫さんからの愛は、望んでません」
「…は?」
「お金も、誠実さも、何もいらないです。…だから、お願いですから、生きてくださいっ…」
眉間にシワを寄せて涙を堪えながら、それでも微笑を浮かべて言うこいつを見て。俺はやっと、気がついた。
こいつだけが、俺が笑って生きることを願ってる。
…もう、お手上げだな
「…悪かった」
「え、…」
「お前から離れて、悪かったって言ってんだよ。ちゃんと生きるから。なっ」
『死ね』だの『消えろ』だの、罵詈雑言ばっか言われてきた俺からしたら、『生きてください』なんて言葉は、不思議な言葉だ。
でも、他人に生を望まれるのは、こんなにも温かいことだったんだな…
「はいっ…!」
俺の弱いとこやクズみたいなところを見せても、涙一つ見せなかったこいつが、俺の生死に関わると泣くなんて、おかしなやつ……
…ああ、でも…好きだな…
?、あ、え、…そうか
_____好きなんだ
どうしようもなく惹かれてる
太陽みたいに笑ってるのに、時折り顔を出す虚無でさえも
多分本当は、ずっと前から好きだった。…気付かないフリを、ずっとしてた……
まあ今は、こいつを…つむぎの涙を拭わないとな…
◇
あれからまた、1週間くらい経った日曜日のある日
季節は1月に突入した。