13.ゆめ
人影も見えなくなって、太陽が沈んだ。
俺の道を照らすのは、街頭と月だけ。
…いつもなら、即座に女を捕まえて、家に居座って過ごしてるのに…。今日だってそうするはずだったのに、なんでこんなにも無気力なんだ…?
帰りの電車にも乗ってないから、当然あいつの家からは遠く離れてる。
水族館からも随分歩いた。
ここで見つかったら元も子もないからな
電車は金がいるから、俺のご飯代とかを電車賃にしたくない。
結局その日はネカフェに泊まって夜を過ごした。
次の日、その次の日も…
無気力なまま、女を捕まえることもせずただ過ごした。
ネカフェからネカフェへと渡り歩いてくうちに、もう貰ってた金も全部使い切った。
財布の中が空っぽになる頃には、もう1週間以上が経過してた。
…少し
ほんの少しだけ、連絡が来るんじゃないかって期待した。
何の期待だよって話だよな
俺が離れたのに
連絡が来ても無視はしてただろうけど
そのうち、充電も無くなった。
どれだけ時間が経とうが、あいつの側を離れた瞬間、他の女のところへ行く気が微塵も無くなった。
むしろ、あいつのことしか頭に無くて、腹が立つ。
もしかして、俺はあいつに他の女と会うなって言って欲しかったのか…?
…いや、気持ち悪すぎるだろ…俺…
人の気持ちもて遊んでそんなこと思うとか…
独りよがりすぎるな…、流石、あの人間との間から生まれて育てられて来ただけあるわ……
そんなことを呆然と考えながら、公園のベンチで寝っ転がる。
めちゃめちゃに寒いが、まあ仕方ないな
金も底を尽きたし、これといった生きる意味もどこにもない。
はぁあ
今までは親から逃れることしか考えてなくて、それがいつからか【楽して生きる】ことしか考えなくなってた。
置いていかれる寂しさも
絶対的な存在に暴力を振られる辛さも
周りの奴らから見て見ぬ振りされる苦しさも
自分の弱さにイラつく日々も
…何より、こんなことで生きる意味すらも見出せない自分がまだ生きていることが、俺にずっと…吐き気と嫌悪感と虚無感を与え続ける
生きることを楽しんでる奴らは、偏見でしかないが、おそらく似たり寄ったりなことを言うだろう
『生きる意味を探すために生きてる』『好きなことをするために生きてる』って
それか、多分そんなことすらも考えてないんじゃないかな
人生でやりたいことがあったから、好きなことがあったから、生きてる人も多いと思う
俺だって探さなかったわけじゃない
ただ見つからなかっただけで
まぁ…、考えたところで、所詮俺はもうクズでしかない
だからここで人1人死のうが、世の中の誰も気に留めない
そんな惨くて優しい世界に、俺はもう耐えたくない
寒いし熱いし、もう疲れた
…人生ずっとハードモードだったんだ。少しくらい、休んでもいいだろ……
人間が誰しも持ってる生存本能を手放して、ゆっくりと眠りに着いた。
…長い夢を見た気がした。
産まれて生を授かってから今までの人生を1人、映画館で見る夢
観客は俺1人
中には、覚えていないものもあった。
【『生まれてきてくれてありがとう』
『…か、おる…おかあ。さんは、ずうっと…かおるのことを、あいして、る…からね』
『ッチ…なんで乞食だけ置いていくんだあのクソ女』
『お前は残飯でも食ってろ!』
『良いって言うまで外に出とけ。言うこと聞かなかったら、分かってるよな?』
『薫くん、君、目障りなの。早く消えてくれる?』
『薫くん、先生は薫くんの味方だから、何かあったらいつでも言ってね』
『ハッ!いい気味だな!特待生だからって調子に乗るなよクソやろう』
『死ねばいいだろ』
『お前に生きてる価値なんかねぇよ』
『被害者ぶんじゃねー!』
(もう、やめろ…やめてくれ…お願いだから…)
『薫さん』
(…?)
『薫さん、大好きです!』
(この、声…はっ…)
『薫さんは優しい人ですよ』
『薫さんの胸の中は温かいですね』
『生きることを楽しんでくれたら良いんです』
『私が守ります』
『ありのままの貴方の方が、もっと好きです』
(あー、…クソッ、夢の中でまで守んなよな)
でもやっぱ、あいつが1番あったかい
あいつが泣いてたら、調子が狂う
___ダメだな…こんなとこでくたばってたら、遠くからつむぎに怒られる気がする__
「んっ…」
なんだ…ここ…?
俺…確か公園で…