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12.さよなら






 あ"〜〜〜〜〜……



 離れないとなのになぁ



 まーた月日経ってるの…


 

 1ヶ月くらいかなー。多分



 で、今日が何の日かって言ったら…



「行きましょう!薫さん!」


「…おう」



 水族館なんだよなぁ



 …つまり、デート…



 このデートまでの期間すらも、俺は何でもかんでも与えられて、甘やかされた…



 多分こいつにとっては楽しみな日なんだろうけど、俺にとってはこの家を出ていく日だ。



 もう帰ってくることもないだろうな



 これは俺の独断だし、こいつにも言ってない。



 ただこのままだと、俺は間違いなくこいつに執着する



 執着なんて、俺が1番したらダメなことだ



 だから、今日はこいつの好きにさせて、最後は別れる



 ……それでいい…



 …にしても、今日のこいつはいつもと違う



 まじまじと見れば、いつもより綺麗めなメイクに、防寒対策のマフラーとコートで華奢な体が隠されてる。


 ハーフアップにされてる髪はツヤがあって、光に当たると漫画によくあるような、ゆるやかな弧を帯びてキラキラしてるように見えた。



「?、薫さん、私の顔に何かついてますか?」


「…っ、何も。早く電車乗るぞ」



 ……決して見惚れてたとかじゃない



 電車に乗って街並みを見ているこいつを見てたら、時折り振り返っては、はにかんだ笑顔を見せてきた。



 いつもとは違った笑顔な気がするのはなんでだ…?



 …こっちの方がいいな


 

 そこまで眩しくなくて、目に優しい



 例えるんだったら、いつもが太陽とか、向日葵みたいな笑顔で、今現在進行形のこいつの笑顔は、なんだろうな…



 朝顔…?…いや、違う…



 なら、紫陽花は…?…違う。もう少し前に咲く…



 あっ



 桜だ



「薫さん、どうかしましたか?」


「…いや、早く入ろう。ここだと寒いだろ」



 チケットを店員に渡して、水族館の中に入った。



 水族館なんか小学校の遠足ぶりだな…



「っ〜…!!薫さん薫さん!見てください…!サメですよ、サメ!かっこいいー!」



 明らかにはしゃいでるけど、コソッと静かに俺に言ってる。

 マナーを守りながらはしゃいでるこいつは、どの魚よりも優美だと思った。



「見たら分かるわ、ていうか意外だな。もっと小さいもん見たいのかと思ってた。それかイルカとか」


「っ…、意外、ですか…?」



 …ん?



 なんだ…?この違和感…。また……



「ああ、意外だけど、別に良いんじゃないか?俺も小っさいの見るよりサメの方が好きだしな」


「…!…薫さんは、女の子らしくないとは思わないんですね」



 何言ってんだ、こいつ



「好きに男らしいも女らしいも関係ねーだろ」


「…っ、そっか…。ふふっ、そうですね」


「何だお前…」



 急にテンション上がったり下がったり、やっぱどれだけ経ってもこいつの考えは読めねぇもんだな



「何でもありません。ただ、薫さんは優しい人だって、再認識してただけですから」


「…はぁ、何度言っても納得しないんだろうが、俺は優しくない」



 あと少ししたら、実際に優しくないことするわけだしな



 まあ普通に見て回った後は、イルカショーだったりペンギンショーだったり。



 後はツーショも撮ったっけか?

 …ペンギンとあいつと3人か…?いや、2人か?

 よく分からん…



 それから帰る前、誰にあげるわけでもないお土産を見に行った。



 お土産コーナーに多分一緒に写真撮ったペンギンのぬいぐるみとキーホルダーがあって、あいつが目を輝かせてたのには笑った。



「薫さん、このペンギンのキーホルダー、お揃いにしませんか!?」



 余程ペンギンを見つけて嬉しかったんだろうな。



 …後少しで消える男に『お揃いしよう』なんて聞くこいつもダメだが、「…好きにしてくれ」って言う俺が、多分1番ダメなんだろうな。



 …隣にいる女はルンルン気分だ。



 キーホルダーはさっそくかばんにつけてるし、途中で見つけた厳ついサメと、なぞチョイスの小判鮫のぬいぐるみを両手に抱えてる。



 …ああ、まだ見てたいな



 …だって俺は、まだこいつの笑顔を直視出来てない…。でも、俺が出ていかないと、こいつはきっと、本気で俺をこれからも養うと思う



 俺も、こいつに執着しちまう



 人の気持ちには期限があるのに、その期限が、こいつなら来ないんじゃないか、ずっと変わらないんじゃねーかって、頭のどっかで考えてる



 最低なことしかしてない俺が、強欲にもそんなこと考えるなんて、流石に度を越してる



 だから、尚のこと俺は…



「あっ、忘れ物したわ。どこ置いたか覚えてないから多分時間かかるし、先帰っててくれ」


「えっ?いくらでも待ちますよ?なんなら一緒に探した方が早く見つかるんじゃ…」


「まあ…、それはそうだが、今日はもう疲れてるだろ。早く帰ってお前は休め」


「…分かりました。鍵、渡しておきますね!」


「……おう」



 曖昧な返事で鍵だけ受け取って、どこにも忘れていない忘れ物を探すふりを、あいつを視界に映してる間だけした。


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