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使用人の雇用と屋敷の修繕

シーン:使用人の雇用と屋敷の修繕


王都アンドラの北端、石畳の坂道を少し上がった先に、古びた屋敷があった。

元は中級貴族・リロフ家の邸宅。だが、その栄光も今は昔。主は十数年前に病死し、跡継ぎもおらず、屋敷は長らく放置されていた。

誰もが「いずれ潰されるか、売られるだろう」と思っていたその屋敷に、ある日突然、動きが生まれた。


リロフ家の名を継いだ“新しい主”――斉藤祐介は、黙々と改修作業を始めた。


まず手をつけたのは建物の構造補強だった。

屋敷の基礎部分にひびが入り、石壁は崩れかけ、雨漏りは日常茶飯事。祐介は王都の中でも評判の良い石工組合に依頼を出し、屋敷全体を一から点検させた。

一週間も経たないうちに、足場が組まれ、大量の石材と職人が出入りするようになった。


祐介が特にこだわったのは**「石材の強化」**だった。

ただ補修するのではない。火や冷気に強い性質を持つ火山岩を輸入し、要所には魔力耐性を付与する加工を施す。

見た目には重厚感を持たせつつ、屋敷全体が“防御の殻”として機能するよう、計算され尽くした設計だった。


そして、屋敷の境界には**「魔力遮断の結界」**が追加された。

これは王都でも上位貴族か、王家関連の施設でしか見られない高度な結界。

外からの魔術干渉を防ぎ、逆に屋敷内の魔力を秘匿できる――まさに「力ある者の象徴」だった。


この改築は、王都の住人たちの注目を集めずにはいられなかった。


「あのリロフ家、何かで当てたらしい」

「裏で錬金術の大成功でもあったんじゃないか?」

「新しい主、顔を見たことがない。異国の商人だとか」


噂は一人歩きし、屋敷の名だけが先に“復活”し始めた。


祐介が次に動いたのは人の配置だった。

屋敷を機能させるには、最低限のスタッフが必要だ。

だが、ただ集めるのではない。彼はそこにも明確な意図を持っていた。


まず執事。

貴族相手にも物怖じせず、礼節を弁えつつ機転が利く――そんな人物を求め、数人と面談。最終的に選ばれたのは、かつて宮廷で働いていた中年の元執事だった。金で雇える限界の“有能な脱落者”を狙った、計算ずくの人選だ。


次に料理人と門番。

料理人には、流行に流されないが基礎がしっかりしている職人肌の男を。門番には、元兵士の兄弟を二人。どちらも忠誠より“待遇”で動く者たち。だからこそ、祐介は給料と待遇をきっちり整えた。


掃除係や洗濯係には、近隣の信頼できる女性たちを数人雇用。屋敷内の清潔さは屋敷の品格に直結する。祐介は「見た目」が持つ力を決して侮らなかった。


さらに、彼が力を入れたのが給仕見習いの採用だった。

祐介は孤児院と契約を結び、識字教育を受けた孤児たちを、屋敷の見習いとして受け入れた。

年齢は10代前半から後半まで。柔軟で学習意欲があり、なおかつ立場をわきまえる者たち。


「今は給仕でも、五年後には屋敷を支える人材になる」


それが祐介の考えだった。


彼は彼らに給仕や掃除だけでなく、金の管理、簡単な読み書き、礼儀作法、記録の書き方なども学ばせた。

この国において、教育を受けた使用人というのは極めて貴重で、かつ政治的にも利用価値が高い。

祐介は屋敷を、ただの住まいではなく「人材育成の場」としても機能させようとしていた。


屋敷の改修が進み、使用人たちが揃い始めた頃、屋敷の雰囲気は一変していた。

かつては薄暗く、埃にまみれていた玄関ホールは、今では整った石の床と磨かれた木製の階段が映える空間に生まれ変わっていた。

食堂には陽の光が差し込み、居室には魔力を拡散する照明石が設置された。


外見だけでなく、屋敷は“動いていた”。

命令が行き届き、報告がまとまり、記録が残される。

使用人たちは徐々に、祐介の“意図”を理解し始めていた。


「この屋敷は、ただの貴族の家じゃない」

「何か、もっと別の……動かすための“拠点”になっている」


街の噂は、ますます熱を帯びていく。


「リロフ家、王宮とつながっているらしい」

「新しい主は異国の魔術師で、金を錬成する方法を持っている」

「屋敷には毎晩、得体の知れない客が出入りしている」


もちろん、そのどれもが正確ではない。だが、祐介にとっては**“注目されること”そのものが狙いの一部**だった。


名を売り、存在を植えつけ、そして裏で動きやすくする。

屋敷は単なる拠点ではない――**「信頼と影響力を育てる舞台」**なのだ。


そして、リロフ家再興の第二幕が、静かに、着実に動き出していた。

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