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舞台背景:「黎明の時代」

舞台背景:「黎明の時代」


時は中世末期。

長きにわたり人々の生き方と死に方を決めてきた価値観が、音もなく崩れ始めていた。神の名のもとに振るわれた剣は、すでに戦場で力を失いつつある。代わりに、火薬と弾丸、距離と角度を計算する冷徹な“数式”が、命の重さを決める時代が迫っていた。


騎士は伝統の鎧を脱ぎ、金で雇われた傭兵が戦場を駆ける。名誉は通貨に取って代わられ、戦いは信仰のためではなく、領地と権益のために行われるようになった。宗教の力がまだ支配的ではあるが、人々の心には少しずつ疑いが生まれていた。奇跡よりも論理、祈りよりも証明を重んじる者たちが現れ始めていた。


都市では煙突から煙が立ち上り、工房の中では錬金術師たちが奇妙な器具を並べて“変化”を起こしていた。彼らの研究は、もはや金を生み出す夢物語ではない。鉛を金に変える幻想より、薬品や蒸留によって命を救う現実が価値を持ち始めていた。そして彼らの試みは、いつしか「科学」と呼ばれるようになり、人々の暮らしを静かに、だが確実に変えていく。


街では新たな技術、活版印刷が革命を進めていた。情報が紙に刷られ、人の手から人の手へ、まるで疫病のように広がっていく。真実も嘘も等しく刷られ、誰かの理想が誰かの怒りを煽る時代。言葉が武器となり、思想が火種になる世界の到来だった。


芸術の世界も変わっていた。教会の壁を彩っていた聖なる図像は、やがて「技術」としての絵へと姿を変えていく。画家たちは美しさだけでなく、精密さ、構図、光と影を意識し始めた。人体を解剖し、筋肉の動きを知り、影の落ち方を計算して「より神に近い表現」を求めた。芸術は神の栄光を称えるものから、人間の知性を証明するものへと変質しつつあった。


だが、こうした“表の変化”の裏で、もっと危険な“革命”が胎動していた。


科学や芸術の発展がもたらすのは、常に新たな階級と価値観の衝突だ。知識を持つ者は力を持つようになり、旧来の権威はそれを恐れるようになる。錬金術師の中には、ただ薬を作るだけでなく、人の魂や意志を操ることに執着する者がいた。新しい武器の開発者の中には、王侯貴族の命を脅かすことを楽しむ者もいた。


そして都市の地下、貴族の目の届かぬ場所では、“新しい人間”を生み出そうとする動きさえ始まっていた。機械の身体を持つ兵士、薬で死を拒む者、異端の術で天候を操る者。彼らは時代の「異常」として処刑されるか、あるいは秘密裏に雇われ、国家の影を支える存在となっていった。


この時代は、黎明であると同時に黄昏でもあった。古き秩序が崩れ、新たな秩序がまだ定まらぬ混沌の時代。誰もが変化の波に飲まれ、抗いながらもその中で生き抜こうとしていた。


剣が銃に負け、祈りが数式に変わり、神が「不在」とされる時代。

だが、その“空白”には、もっと別の何かが入り込もうとしていた。

それは、理性の皮をかぶった狂気か。あるいは、真に新しい人類の姿か。


――この物語は、そんな「黎明の時代」に生きた者たちの記録である。

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