プロローグ
生まれてすぐに捨てられた。
誰も迎えに来なかった。
名もなき赤子は、「ヤクザの子」という噂を着せられ、里親たちの名簿からもすぐ消された。
だが、彼の両親はただのサラリーマンだった。事故で突然亡くなっただけだ。
事実は関係なかった。噂だけが現実だった。
斉藤祐介。
彼は養い親のもとで育ち、必死に働いた。
汚名を振り払い、信頼を勝ち取るまでに九年かかった。
ようやく「普通の人間」として認められたその年。
彼は宝くじに当たった──十億円。
金運を使い果たしたその月、暴走トラックに轢かれ、人生は幕を閉じた。
家族はいない。愛した女とは続かなかった。
だが、高校を出たばかりの息子が一人だけ残った。
斉藤祐介、四十八歳。
それがこの世界での最期だった。
目を覚ますと、まるでゲームのように「選択」が始まった。
「お前に、六つのスキルを授ける」
目の前には、高位の存在。
努力の仕方を理解する力
変身能力
考えが論理的に正しいとわかる力
考えが論理的に誤っているとわかる力
思考を人格と精神に刻みこむ力(仁義・礼・智・信・敬・恕・積徳の精神)
習得スピード+30%の勤勉力
この六つを持って、祐介は新たな世界に生まれ落ちた。
だがその世界でも、運命は皮肉だった。
通りすがった道端で、盗賊に殺された貧乏騎士の亡骸が転がっていた。
──アレクサンドル・リロフ。
小国の末端騎士。金も力もないが、誇りだけはあった男。
祐介はその亡骸に、変身する。
彼として生きる決意をした。
そして誓う。
「この世界こそ、俺が真っ当に成り上がる場所だ」