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愛の作品

今回からボーイズラブ要素を含みます(所謂カップリングではなく男性を愛する男性が出てきます、後々の展開でそういった描写があるのでタグにも入れました)

ガールズラブ要素はほんのりテイストです(これは次回の予定)


数日後、シャーロットは女官専用のカフェでミカエルを待っていた。

 女官の醜聞はそのまま仕えている王族の醜聞になる。

 そのため身内の不幸を報せ、重篤な病で女官達は王家に忠誠を誓っていることを証明するため、家族や友人と城で会う場合は極力、王宮に設けられたカフェを使う。

 それは王妃付き女官になっても変わらず、メイベル公爵夫人やハンナ侯爵もここをよく利用している。

 カフェの給仕は王族の前にまだ立てない見習いメイドや王家が管理する孤児院を卒業した女子達が立つ。

 勿論、閉じこもってばかりでは流行や貴族の噂話を拾えないので城下で人気のカフェに行くこともある。

 ドリアンは騎士の仕事のため家を出た報告は受けているが、家に帰ればクレアとグロリアに何を云われるか分からない、

 最悪戻って来られない場合もあるとダニエルからの指示で、カフェにいるがシャーロットは落ち着かない。

 その後ろにはジョージと変装したシオンがいるからだ。

 もしもの時の護衛だと二人が付いてきてくれたのは嬉しいが、シャーロットは最初、躊躇った。

 シャーロットが泣いたことは誰も気にせず、彼女が父親に会うためにカフェを使うと話すと、ダニエルは険しい顔をシオンはいつも通り飄々とした態度で同行するといった。

 女官専用のカフェではあるが男子禁制ではない。

 稀に金をせびりにくる家族がいるのでその対処をするために騎士が同行することもある。

「僕も行こうか?」

「流石にシオン様を連れて行く訳にはいかない、ジョージ頼めるか」

「その……父と会うだけですし、女官専用のカフェを使いますので醜聞になることはないと……けれど、きっと、父はクレアのドレス代を間違いなく使っていて、」

 シャーロットが母の形見を売ってまでクレアのドレス代を父親に渡したのはここにいる誰もが知っている。

 妹御のためにシャーロット様がお金を工面する必要がないとベルローズもマーガレットも口にしたが、余計な火種を作りたくないとシャーロットが譲らないでいると信用ある商人を紹介してくれた。

 結果は散々であったが、シャーロットはどこかでこうなることを心の何処かで予感していた。

 同じ瞳をしたクレアになら父親の情はあると思ったが、父はクレアにも情はないようで令嬢にとって一生に一度の卒業ドレスすら買い与えない。

 あの人は女という存在を嫌っていると知ったのは母が亡くなり、親族が訪問してきたと父に伝えようと部屋のドアを開けると、おぞましい光景が広がっていた。

「それは分かるがロイフィリップ伯爵だけが来る保障はない、対応できる人間がいた方が良い。婚約者があの性格である以上、君には王家の護衛騎士を付けようと考えていたところだ」

「護衛騎士、エリザベス王女殿下ならともかく、私は伯爵家の娘なだけで」

 王族には護衛や従僕が付くが、貴婦人の使用人は女性であるのが基本だ。

 家令や執事に指図することはあっても彼らは基本的に当主に仕えている存在である。

 従僕や御者はその中間で、爵位にもよるが基本、女主の客の前やよその家の中まで同行することはない。

 シャーロットは母から屋敷の男使用人にどうしても用があるときは、家政婦長かリリーを通しなさいと云われており、母が亡くなってからはリリーが対応してくれた。

 あの家の男使用人は全て父の管轄で、グロリアもそれをわきまえている。

 クレアだけは理解できないのか見目が良い従僕を父が雇うとアプローチをかけるが父と同じく女嫌いなのかクレアを避ける。

 自分の美貌に組み敷かない平民の男なんて! とヒステリックを起こし、シャーロットのドレスを奪っていくクレアに最初のうちは色々言っていたが、いつもの台詞が飛び出てくるだけなのでシャーロットは諦めた。

「君は伯爵家の娘だが王家の血を引いている、それに今は王太子妃の私室付き女官だ、分かるな」

 ダニエルの言葉にシャーロットは頷くしかないが、自分の愚かな行いでジョージやマーガレットを巻き込んでしまうと思うと、心が痛い。

 父を信じず、テイラー紹介の職人を家に呼べば問題は起こらなかったはずだ。

「はい、ですが父はその、」

 男を愛する人間と伝えたいが適切な言葉が見つからない。

 貴族の主従が深い愛になる事はよくあることで、そのロマンスを楽しむ令嬢もいる。

 だが王族の前で口にするのはどの言葉がいいかシャーロットが悩んでいるとマーガレットがすっと手を握ってきた。

「ジョージは完璧な騎士です、どんな相手であれシャリーを守ってくれるわ」

「メグ、違うのです、貴女の婚約者が素晴らしいのは知っていますが、その」

「ジョージ、どうやらロイフィリップ伯爵は両刀のようだ、比率は分からないけどね」

ひょいっと話に乗り込んできた前髪を九対一に分けて、聞き慣れない言葉を口にする。

「シャーロット伯爵令嬢。心配しなくていい。騎士はどんな人間でも対応できるように訓練している」

「でしょ、ところで両刀とはなんですの?」

「……雄しべと雄しべ、いや雌しべにも反応するから」

「お花の話?」

「あ、その、これ以上はシャーロット伯爵令嬢の名誉に関わるから話すことは出来ない、それとシャーロット伯爵令嬢」

 どうやらシオンは父の行いにぴったりな言葉をジョージに伝えてくれたようでシャーロットがほっとしていると、ジョージは話を続けてきた。

「これからは今まで以上に、貴女とお話しする機会が増える。ジョージ卿で結構です。公の場でしたら卒業後、子爵を継ぎますのでそちらを。私も貴女を令嬢ではなく、シャーロット女史と呼ぶようにしたいと思っております」

 キャスリントン侯爵家は王家の姫君が降嫁するほど歴史が古い家なので当然、爵位は幾つもあるが、ジョージは婚約者の親友であるシャーロットには親しい呼び方でも呼んで良いと許可してきた。

 そしてシャーロットへの呼び方は令嬢という庇護されるだけの存在ではなく、王家を支える地位のある女性として扱うと話してきた。

「はい……ジョージ卿」

「ジョージでも良かったのに、シャーリーなら私、焼き餅焼かないわ」

「火種は増やしたくない、それでシャーロット女史、私が付き添っていいのですね」

「お願いいたします」

「たぶん、十中八九、妹さんも来るだろうから。ジョージは伯爵を、僕は妹を担当するよ」

「どうしても行く気なのですね」

「何、喧嘩しに行くわけじゃないんだし。心配性だな、変装していけばいいだろ」

「でもシオン様は他国の方でこれ以上迷惑は、」

「迷惑じゃないよ、世話焼きは僕の趣味なの、大丈夫、誰にも漏らしたりはしないから。ね、」

 シオンがパチンと黒い瞳をウィンクするとシャーロットは何も云えない。

 涙を流し、シオンの瞳を見て以来、シオンがそばにいてシャーロットを気に掛けてくれると胸の奥が温かくなるのだった。


 そうしてミカエルに手紙を出すと、「分かった」だけ返事があった。

「呼び出した理由は何だ?」

 相変わらず天使が下りてきたほどの美貌を持つ父は夢見がちな瞳で、こちらを見ているか見てないか分からない表情でシャーロットに挨拶する。

「ご足労おかけしました、ですが我が家の醜聞をこれ以上拡げたくないと思い、お呼びしました」

 今日のシャーロットの装いは、濃紺色の裾の広がりが少ないドレスだ。

 上着にはレースの襟も付いており、まるで家庭教師のような格好であるが家庭教師とは違い、ちゃんと流行のバッスルスタイルを取り上げ同色の薄い生地を重ねた瀟洒なデザインに仕上がっている。

 女官と侍女、メイドはそれぞれお仕着が用意される。

 メイドは汚れの目立たない紺色のワンピースに胸元まであるエプロン、侍女はパステルカラーのドレスに腰のエプロン。

 女官は給金を貰うがあくまでも貴婦人なので自由な装いであるが、役職のある女官は自分だとどんな使用人にも分かりやすくするため、決まった色のドレスやアイテムを身に纏う

シャーロットはクリーム色が好きだが、十四歳の時一度だけあった帝国の侍女に憧れて濃紺色を、マーガレットは変わらずにオレンジ色の髪飾りを付ける。

「ごきげんよう、お義姉さま……」

「御機嫌よう、クレア、お父様とお話は出来なかったようね」

 手紙にはもしクレアが騒ぐようであれば連れてきても良いと書いていたので、彼女がここにいるのは驚かないが、彼女のドレスはテイラー商会の品ではなく彼女が三流と云っていた商会のドレスで、貴婦人の型に填まっているが面白みのない赤褐色のリボンとプリント柄で誤魔化した野暮ったいドレスだった。

「だって、話そうとしても家にいないのですもの!」

「それがどうした、この後、肖像画のモデルを頼まれている手短に頼む」

 登城する際、貴族の男性は漆黒のジュストコールを纏う。

 ミカエルの上着はすぐとテイラー商会の品だと分かる一流品で、そのせいでクレアが余計に惨めに映る。

「すぐに終わります、ですが飲み物は用意させてください、紅茶、カフェオレ、それとニースバルトで流行しているフルーツジュースもあります」

メイドの給仕練習の場でもあるため、何を頼むか二人に聞けばミカエルはカフェオレ、クレアはフルーツジュースを頼んだ。

「君は……」

メイドと一緒にやってきたのはジョージと赤毛のカツラの前髪で瞳を隠しているシオンだった。

「殿下の命で同席している小間使いのフェリです。ご機嫌麗しゅう、ロイフィリップ伯爵」

「君ではない、そこの騎士、名前は、」

「侯爵家の入り婿、ジョージです。私も同じで後ろに控えさせていただきます」

 ジョージの顔を見るとミカエルは上から下まで嘗め回すように見る。

 その瞳は獣――ドリアンの欲情を帯びた瞳に似ていたため、思わずシャーロットは紅茶のカップを震わせてしまった。

 ソーサーにカップを置く際、カチッと音がしたがミカエルは気にしない。

 クレアも声でシオンの変装と分かったのかあの日のことを思いだし、口を噤んでいる。

「君の知り合いにライマン、もしくはドゴールという名の付く者はいなかったか」

「生憎とそのような名前も、家名も私の紳士辞書には入っておらず、勉強不足で申し訳ない」

「いや良いんだ、そうか、」

 ミカエルはそれからもジョージの顔を堪能するかのように、他の人物が語りかけても視線を合わさず譫言で返事をする。

 それではいけないとシャーロットが話を切り出すと、眉を顰めた。

「お父様、私がクレアのために一千万ギール用意しましたが間違いありませんよね」

「そうだ、そんなことのために呼んだのか、まぁ良い、許す」

「一千万ギールですって、そんなお金、どうやって用意したの!」

 一千万ギールあれば中上流階級の一年間の生活費だ。

 テイラー商会のドレスは上を挙げればキリがないが、ダンスパーティーのオーダーメイドドレスなら五百万ギールが相場だ。

 他の店ならもう少し安いがその代わり、デザインは凡庸で生地も安っぽいものばかりだ。

「母の形見の首飾りを質に入れて。お父様も同席していましたよね」

 商人を呼んだ際、ミカエルを呼び出し彼の前で証文を書いた。

 金の受取人はミカエルで、支払い義務はシャーロットとちぐはぐな証文に商人は不思議そうな顔をしたが、ミカエルは金を受け取るとすぐに帰っていった。

 あの時はメイベル公爵夫人が一緒にいたが彼は誰にも興味を示さなかった。

「ああ、それでクレアのドレスを作れと云ったから用意したがどうやら気に入らなかったようで、学園で問題を起こしたとサロンで噂になっている」

「知っていましたか、」

 普通のサロンなら君の家はドレスを仕立てる金もないのかと縁を切られるが父のいるサロンは父と同じ仲間ばかりいるので、交流は続いているようだ。

「そんな大金なら私が一番高いドレスを着て注目の的に、エリオット様だって私を親に紹介してくれたはずよ、どうしてそんなむごい事をするのですかお義父様!」

「私はお前を引き取ったが父になったつもりはない。お前がライマンの娘だから引き取った、それだけだ、それで金を渡したのに何故私に怒鳴る?」

「だって、」

「お父様、私もミカエル閣下と呼んだ方が良いでしょうか」

 出来れば父と呼びたくないと思っていたシャーロットはこれを機会にとばかりに言葉を口にすれば、シオンが小さく吹き出した。

「……お前は愛の作品だ、父と呼べば良い」

「お義姉様! 私が騎士爵の娘だからってそんな、大体お義姉様の瞳はお義父様に似てませんし、この人の母親は傲慢な黒い瞳をしていたとお母様から聞いております! 一体誰が父親なのかしら」

「あ、」

 それはシャーロットも気にしていた。幾ら王家の血を引くエメラルドグリーンの瞳でも、シャーロットの瞳はどちらにも似てない。

「隔世遺伝ってやつじゃないかな、ほら、たまに死んだ人に瓜二つの子どもが生まれたって話聞くだろ。シャーロット伯爵令嬢の場合、父方のお祖父様はエメラルドグリーンだから、」

 シオンがフォローに入るとミカエルは小間使いの設定であるはずのシオンの態度にも何も感じずただ言葉を続ける。

「そうだ、愛の『作品』である以上、私の血を必ず受け継いでいる」

 父はぞっとする瞳でシャーロットの顔を見るとまたジョージに視線を戻した。

「でも引き取ってくれたなら、私を養育するのは義務で」

「そんな義務はグロリアと契約していない、ただお前を養女にして、家に住まわせてくれれば良いと云ったから結婚しただけだ」

「そんな……」

 ミカエルの言葉に叩きのめされたクレアは顔を俯かせたが、すぐと気を持ち直すとミカエルに問いただす。

「でもお義姉様は私のためにお金を用意してくれたなら、全部私のものでは?」

「シャーロットはお前のドレスを仕立てろと云っただけ、だからドレス代の請求書を見て、金額をグロリアに渡した、もういいだろ」

「よくない! だって、幾らお母様に渡したの」

「三百、お前達が毎月仕立てるドレスの金額だ、問題ないだろ」

「それは既製品だったり、よその商会で作ったドレスだから、兎に角残りは私が貰います」

「使った、そもそも受取人は私なのだから私の金だろ、」

 まるでドレスを作ったのだから、それでいいだろうというミカエルの態度にクレアは顔を真っ赤にし、今にも泣き出しそうな顔をしている。

「クレア……お、ミカエル閣下、貴方は本当にクレアに娘と思う気持ちはないのですか」

「ない、私はヒステリックな女も甲高い声で喋る女も嫌いだ。これが男であればと何度も思ったよ、そうすればライマンにもう一度会えた、いや、いたな、ジョージと云ったな。なかなか見どころのある男だ、サロンに紹介してあげるから、一度来るといい、君のような男は我々は歓迎するよ、そこまで送ってくれ」

話は終わったとミカエルは席に立つと、帰り際ジョージの懐にカードを仕込ませて、入口まで送るよう指示する。

「私は殿下の命でここにいるだけ、必要であれば表に従者がいます」

「そうか……」

 残念そうに入口のドアを開けるミカエルは、クレアがいよいよ涙を流しても気にする様子もない。

「う、う……お義姉様、これで満足したかしら」

「クレア……許してとは云わない、けど私は愚かだからあの人が貴女には情があると期待していた、だから」

 姉妹の会話を気にもとめずにいるミカエルにシャーロットは益々幻滅した。

 扉を閉めてここで待てとジョージに触れられて、嬉しそうな顔をするミカエルは黙ってそこにいるだけだ。

「同情なんていらない、謝るならお金を頂戴。母親から遺産貰ってるなら全部寄越しなさいよ!」

「あ……」

「あげる必要ないんじゃない、だってクレア嬢はドレス借りたままなんだろう、返す事も出来ない人間に同情はいらないよ」

「貴方は何なのよ! お義姉様のことが好きならご愁傷様、この人はねあんな奴でも婚約者がいて売却済みよ」

「ふーん、だから、でもシャーロット伯爵令嬢が拒否すればどうかな」

「しないわよ、お優しいお義姉様は貴族の義務だとか理由つけてあいつから離れない、だから、云ってやったの虐めても離れないってそしたらあいつ信じているの、」

「クレア、私ね、ドリアン様と婚約解消しようと思っているの」

 顔を歪ませるクレアを見ていられなかった。

 母親がいて父にも愛されていると思っていた彼女がこんなにも脆い存在だと知らずにいた。

 けど、だからといってドリアンを嗾けたのは許せない。

「はぁ、どうしてよ、あいつが爵位継いで、あんたが財産を貰う、そうすると領民が困るだのなんだの云っていたくせに」

「ドリアン様と結婚することは無理だと悟りました。ミカエル閣下、私は家を出ようと思います、財産は全て放棄します、家名も必要であれば放棄しますがいかがでしょうか」

「そんなことして、王宮に勤めると云っていたではないか小遣いも渡してくれると」

「勤めることは出来ます。一代限りではありますが女男爵を賜ることもできるようですし、問題はないかと」

もしドリアンと婚約解消し、家を出た場合でも女官として出仕できるかハンナ侯爵夫人、それにダニエルにも相談したところ、平民の優秀な女官に一代限りの爵位を与えることは。よくあることだと確認したので問題はない。

「それなら良い、優秀な種も見つけたからこちらとしてもアレと混ぜるよりは全然良い」

「ミカエル閣下恐れながら、ジョージ卿は……」

 種と口にしたミカエルの視線は変わらずジョージであったが、一瞬だけシャーロットの顔を見た。

「あのさ、そろそろ殿下との約束の時間だから二人とも返して貰っていい? シャーロット伯爵令嬢も、これ以上は口にしない方が良い、ね」

「ああ、」

「解消のこと叔父様に手紙で報告しようと思います……子息のことで登城するでしょうから、その時に改めてお話ししましょう」 

シャーロットが震えながら口にすると、ミカエルは既にまた自分の世界に潜り込んでいて、さっさと帰っていった。

「君も帰りな、お嬢さん」

「本当ムカつく奴ね、何様のつもり」

「この前自己紹介したけど? 伯爵じゃ興味はない」

「お義姉様のお古なんて願い下げよ、私はもっと上を目指すわ」

 クレアはそう言うと飲みかけのジューズを飲み干し、メイドを指図しドアを開けさせ、立ち去った。


 ミカエルとクレア、二人を相手したシャーロットは疲れていたが二人にお礼しないといけないと頭を下げた。

「二人には身内の恥をさらしてしまい、特にキャスリントン子爵にはなんと云っていいか、」

「シャーロット女史、何も云わないでください、殿下、妃殿下とマーガレットに伝えます」

「はい、」

 ジョージは伝えるというとそのままダニエルの元に向かった。

「シャーロット令嬢、ちょっとだけ君に触れてもいいかな」

 シオンはにこやかにシャーロットの後ろで言葉を囁いてきた。

「はい? あのどうかしましたか、」

「少しだけ髪に触れるだけだ、はいかいいえで答えてくれれば良い、」

「はい」

 なんだろうとシャーロットが首を傾げるより先に、チャリンと金属の音がシャーロットの胸元で奏でられる。

「これはどうして、」

 淡い紫色の石がはめ込まれた首飾りは見覚えがある。

 シオンが髪に触れ、後ろから飾ってくれたそれは先日、質に入れた母の形見だった。

 母は亡くなる前、パリュールを親友である王妃殿下に託した。

 シャーロットがお嫁に行くとき、もしくは十八歳の誕生日以降で困ったことがあれば渡してほしいと母から頼まれたと、王妃はシャーロットに話してくれた。

 首飾りの他に、大粒のパールイヤリング、ティアラに簪、指輪とどの装飾品も、どこに嫁いでも恥ずかしくないようにとベアトリスは用意してくれていた。

「たまたま見つけて、シャーロット令嬢に似合いそうだからプレゼント」

「頂けません、これはいつかちゃんと自分のお金で返して、そうでないと」

 質に入れたのは首飾りだけだ。

 父への仕送りに、ベルローズは良いと云ってくれたが少しずつでもドレス代を支払おうと決め、リリーのお手当、母を亡くして以来領地の教会へ寄付をしてないので教会の修繕と色々考えていた。

 女官の給料は高額だが、それらに使えば、首飾りはすぐには手元に戻らないと思っていた。それにこれは誰の目にも触れさせないと商人と約束したはずだ。

「実を云うとね外交の手土産でマーガレット侯爵令嬢には先にオレンジパールを送っている、勿論素材だけでデザインなんかはジョージが準備するから問題はない。シャーロット令嬢にも贈ろうと用意していたけど、君に必要なのはこれだと思ってね、だから受け取ってよ」

 受け取れないと首を振ろうとすれば、シオンはシャーロットの髪に触れた。

「でないとさ、こっちもヴァイオレットにダイヤモンドの耳飾り貰ってるから返さないといけないし、ややこしくなるから」

「ありがとうございます。シオン様はお優しいのですね」

 とびっきりの笑顔を見せるとシオンは一瞬固まったがすぐに復活し、シャーロットの髪を離しながら囁いた。

「そうかな、でもね、僕だって怖い面は持っているから」

「分かっております、クレアに対する厳しい態度を見れば、けれどその……」

「何?」

「お兄様がいたらあんな風なのだなと思って。その私元々一人娘だから、兄や姉に憧れていて、お姉様だと思う方はいるのですがお兄様だと思う方はシオン様が初めてです」

「お兄様なの」

「はい、あ、でも王族の方に対して無礼ですよね」

 俯いて、手をもじもじさせるシャーロットの可愛らしさにシオンは目眩がした。

「ううん、お兄様ね、シャーロット令嬢がそう思うなら今は良いよ、少なくとも家族の位置には立てる」

 シオンは叫びたい、抱きしめたい衝動に駆られながら耐えた。

「……あ、でも、シオン様って誕生日はいつですか、私は八月なのですが」

「えっと、あれ、何月だったかな」

 学園は九月始まりなので、その年の九月から翌年八月までの生徒が入学してくる。

 八月生まれの生徒は誕生日を祝って貰えない、女子生徒は良いが男子生徒は成長期の途中なので秋生まれの生徒と差が付きやすい。

 そのため特例として、次の年に入学することも許されている。

「殿方は誕生日を忘れがちですからね、今度よろしければ教えてください。プレゼントします、」

「本当に?」

「はい、」

「思い出したら教えるね、僕らもそろそろ戻ろうか」

 そう言うとシオンは手を差し出してきた。

「エスコート、お兄様なら部屋までエスコートさせてください」

 恭しくお辞儀をしたシオンにシャーロットは微笑みながら、その手を握った。


ミカエルは受けか攻めなら、ある人には絶対に受けだけどそれ以外にはリバーシブルですね

需要はあるようです(お互い貴族だからあくまで遊びの関係)


シオンはこの後また男子会開いて叫んでますね

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