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仮面を剥がされた義妹 ※ざまぁ展開

 ブリタニー学園の最終学年は社交の学年と呼ばれる。

 これは卒業までの半年で、領主科の生徒は卒業後も仲良くしてくれるビジネスパートナーを見つけ、騎士科は王家や公爵家の騎士団に入団が決まったのも以外は仕える主人を探すために自分を売り込む。

 淑女科も同じで家のため夫のため自分のために人脈を作る令嬢もいれば、侍女として雇ってくれる家を探す。

 婚約者がいない令嬢は卒業までに結婚にこぎ着けようとめぼしい相手を見つけてアプローチをかける。


出来の悪い生徒は追試や補習があるが、他の生徒は学園生活の集大成を飾る論文を提出すれば良いだけなので、既に王族の騎士に内定してるものは見習いとして登城し、論文のために図書室、交流のためにサロンと生徒達は様々な場所にいる

特に学園内に設けられたサロンでは、生徒達は最後の青春を謳歌している。

 ブリタニー王国では学園より上の学校がない。そのためより深く学ぶためには働きながら独学で学ぶしかない。

 働きながらの学問は苦労の連続で挫折する者も多い。

 それは良くないと数年前から「大学」という機関を作ろうとダニエルを筆頭に多くの学者達が大学作りに奔走していた。

 その一環で学ぶ意欲のある生徒のために様々な分野の学者が集まり、学園内で授業をしてくれる。

 驚いたことにこの授業内では、席こそ隣同士にはならないが男女が一緒になって授業を受ける。

 シャーロットは女官教育の合間を学びたい講義を受講し、最後の学園生活を満喫していた。

 講義は王宮で働いている文官も参加するので午後からが多い。

 ドリアンやクレアに会わない日々は平穏で、だからこそ彼らが自分をどれほど痛めつける玩具だと認識しているのかを忘れていた。


 承書の儀のあとの祝賀会には貴族達が集まる。

 公爵や一部の貴族以外、十二月の卒業パーティーが初めての王家主催の舞踏会に参加する形になる。

 いくら楽しんでくれと云っても最低限のマナーはある。

「学園で真面目に勉強しているなら、問題ないだろうが一度リハーサルを行う」とダニエル主催で舞踏会が開かれることとなった。



 王宮の大広間で、当然のようにドリアンとクレアはシャーロットに噛みついてきた。

「お義姉様、どうして一度も家に帰ってこないの、そんなに意地悪したかったの」

 クレアが着ているドレスはあの日シャーロットから奪った薔薇色のドレスだ。

 特例として誕生日前の生徒もローブデコルテが許されたので、クレアは首元のリボンを取り外したてデコルテは露わにしているが、リボンがないと殺風景なドレスだ。

 どうしてドレスを用意することが出来ないか察したシャーロットは、少しだけクレアを哀れに思ったが、恥を掻かない方法は、いくらでもあったはずだと思い直した。

 急なパーティーだからと王太子妃に内定したベルローズは学園に百枚ほどドレスと宮廷着を寄付した。

 シャーロットとマーガレットは、髪飾りや手袋など女官の支度金からいくらか出して、テイラー商会に発注をかけた。


「そうだ! 女官になったからか偉ぶって、婚約者の前に顔を出さないなんて、お前は何を考えてるんだ」

 今までのシャーロットなら謝ってばかりだったが強くなると決意した彼女は二人を前に口を開く。

「すべては王太子妃殿下のためです。そのためにメイベル公爵夫人やハンナ侯爵夫人にご指導頂いているところです」

 シャーロットの好きなクリーム色のドレスは裾の部分を膨らませた甘さと洗練を合わせたデザイン、鈴蘭のような肩掛けは華奢なラインを隠すと同時にギリギリ肌が見えるくらいの薄さで生地を仕上げている。

 オリーブの髪飾りを付け、妖精の羽のようなドレスの袖によってシャーロットに、二人は気迫で負けそうになる。

「けど、でも帰ることくらいは出来たでしょ、」

「時間が惜しかったのです、それと同時に私は花嫁の付添人にも選ばれたので婚約者とはいえ殿方のいる家に住むことなど出来ません、」

「俺を馬鹿にするのか、別にお前なんてどうとも思ってなんか……ない」

 二人の前に素早く前に出たせいで少し肩掛けが少し崩れてしまった。

 胸元がはだけてしまうと直していれば反撃のチャンスとばかりにクレアが罵る。

「時間が足りないというのは、それはお義姉さまには女官の地位が重すぎるからよ、いくら親友だからといっていつまでもベルローズ様のそばにいるなんて」

「クレア、王太子妃殿下です、」

「う、ここは学園よ、平等の精神だから身分は関係ない」

「そうね。ねぇ、シャーリー、久しぶりに妹に会えたのは分かるけど私たちよりそのお話は楽しいかしら」

 ふふっと扇を押さえながらシャーロットの隣に立ったのはマーガレットだ。

 今日は希少なオレンジダダイアモンド髪飾りに使い、大胆に深く襟ぐりの開いたドレスを纏っている。

 中に何かを纏うのではなく、フリルで隠すことで長身で大人びた彼女でも可愛らしく見せたいという彼女の願いで作られたデザインだが、淑女としての気高さが強いとベルローズの母親が最後まで悩み抜いて作ったドレスだ。

 斬新なデザインは婚約者が自分のそばを離れないという信頼があるから出来る装いだ。

 残念ながらジョージは今そばに居ないが、代わりに扇とマーガレットのファンが注目しているので腰に手を伸ばそうとする思う男子生徒はいない。

「しっかり教えなければ、メグ、私なら平気です。私、自分の力で二人と」

「シャーリーにメグ、今更仲良しごっこですか~大変ですね、お友達が少ない人は」

「あら二人とも、私だけ呼ばれてないの寂しいわ」

「ローザ様……」

「愛称で呼ぶようになったぞ、やはりあの二人が女官長と私室付き女官に選ばれた話は本当だったか」

「そういえば、父から聞いたのですシャーロット様はハンナ侯爵夫人と、マーガレット様はメイベル公爵夫人と一緒にいることが多いと聞いていますわ」

「しかもお茶を一緒に飲んでいると、公爵夫人達はマナーは勿論、ただのお喋り好きとは茶をしないという厳しい方々ですから、シャーロット様達の完璧な令嬢と認められたようなもの」

 周りの生徒がざわめき出すと、形勢が不利と思ったのかクレアは泣き出した。

「お義姉様、私はただお義姉様に帰ってきてほしくて、だってずっと一緒にいたでしょ」

「住んではいましたね、そういえばクレア貴女、ドレスはどうしたの?」

「ヒドいわお義姉様! お義姉様が帰ってこないのにドレスなんて用意できるはずがないわ」

「そうだぞ! なんてヒドいことを」

「でも貴女、お義母様に毎月ドレスを仕立てて貰えるでしょ、それなのに」

「お母様が呼ぶ商会は三流よ、そんなドレスで舞踏会に出ろっと云うの! だから仕方がなく、お義姉さまのお古で我慢しているのに!」

「それなら私が用意したドレスを着れば良かったのに、最も貴女のためのドレスではありませんが。これでも我が家は王妃殿下が愛用しているドレスを作っておりますので、安っぽいではないと思いますが」

 ベルローズがぴしゃりと扇を突きつけるとクレアは声を詰まらせた

「そ……! お義姉様良いわよね、お強請りすればドレスが湧いてくるのだから」

「クレア……貴女、お父様から何も聞いてないのね」

「なんで今、お義父様が関係あるのよ」

「私、貴女の誕生日にも帰れないからせめてプレゼントを用意してほしいと父に、ドレス代を送りました……せめてドレスの足しになれば思って渡したのですが、」

「知らないわ! ……あ、でも」

 クレアの誕生日があるからとシャーロットは隠していた母の形見を質に出し、そのお金をミカエルに渡した。

 テイラー商会でオーダーメイドのドレスを仕立て、新しい靴も手袋を買ってもまだおつりが出るほどの額だったはずだ

ミカエルがきちんとクレアのために使えば、彼女が今シャーロットに攻撃することはない。

 寧ろ感謝を述べるくらいだが、クレアの性格上それは無理だとは思っていたが、まさか知らなかったとは。

 自分と同じ瞳をしているクレアになら情があると思ったがどうやら父はクレアにも無関心だったようだ。

 父らしいと云えば父らしい、シャーロットが攻撃されるのもお構いなしに恐らくは自分のために使ったのだろう。

「新しい服で出掛けることは多かったけど、でも……きっと誰からプレゼントされて」

 俯き爪を噛んでブツブツと父への疑問を口にしているクレアにシャーロットは容赦しない。

「お父様に聞いてみましょうか、そうすればはっきりするはずよ」

「……あ、あ」

 どんな言葉が返ってくるのか、クレアもシャーロットの態度を見て理解したはずだ。

 それに今までのミカエルの行動を思い出せば分かる。

「そんなことはどうでも良い! シャーロット、何故、俺の色に合わせたドレスを着ていない!」

 撃沈したクレアに代わってドリアンの頭は沸騰したのか勢いよく言葉をぶつけてくる。

「ドリアン様の色? そもそもドリアン様からドレスを頂いてないのに、ですがここにさりげなく入れておりますよ」

 シャーロットはそっと髪飾りを撫でる。オリーブの実にはよく見れば鳶の羽が飾り付けられている。

 そもそも鳶色の髪や瞳が多いブリタニー王国では、婚約者の色の装飾品を贈る風習は他国よりも馴染みが薄い。

 それよりもお互い揃いの色を身につけた方が親密さが分かる。

 マーガレットの婚約者ジョージは独特の瞳をしているが彼はそれを嫌っている。

 そこで琥珀色の髪とマーガレットの青い瞳を混ぜ合わせた「オレンジ」をお互いの色にした。

「もっと目立つ色でなければダメだ、蚤色、お前には蚤色が似合う」

 蚤色は何代か前の王妃が愛用した色だが、老婦のような色を婚約者に着せようとするドリアンに周りの生徒は冷たい。

「……ドリアン様、私はクリーム色が好きです。ドリアン様は、」

 そんな色は着たくないとシャーロットがやんわりと否定すれば、ドリアンは怒鳴る。

「煩い! お前は俺の妻になるのだから俺に従え、いいかお前は花嫁衣装以外は全部蚤色を着ていれば良い」

「さっきから痒くなりそうなことばかり、質問にはちゃんと返さなければ会話は成り立ちませんわ」

「ローザ様、ここは私だけで」

「あらごめんなさい、でも痒くて……」

 若い王太子妃らしく正統派の若草色のロマンチックドレスと一見地味な装いだが、ドレスを膨らます何枚ものチュールパニエは、白から深い鳶色と段々と王家の色に染まっていくことを表現している。

「……ストロベリー色、けどただの桃色じゃないぞ、煌びやかで金色でだから……」

 ふと見れば、ドリアンのカフスは桃色をしていた。

「もしかして私の髪の色ですか」

「う、自惚れるな、違う! そしてどうでも良い。良いか、俺はもうすぐ領地に戻る、お前は女官として働くそうすれば困ることがあるだろ」

「確かに領地に顔を出さないのは不便ですね、そこはうまく調整していこうと思います」

 父のようにすべて丸投げにするわけにはいかない。

 亡くなった母は年に二回は必ず領地に顔を出していた。

 シャーロットも幼い頃は一緒に領地を回っていた。

 けれどドリアンの記憶はない、たまたま会わなかっただけなのか幼すぎて忘れたのか、

どうだったかと考えていると、ドリアンは何故かにやりと笑っていた。

「お前も分かってるようだな」

「ええ、ですからメイベル公爵夫人やハンナ侯爵夫人に話を伺って見ようと」

 メイベルの夫は王の弟であるため広い領地を治め、ハンナの夫は王軍の騎士隊長なので普段は、警護のため普色々な師団を回っている。

「お前本当に分かっているのか」

「何をですか、お二人なら良いアドバイスをしてくれると思いますよ、手紙でのやりとりなどを」

 ハンナ侯爵夫人はエチケット辞典と呼ばれているので夫との距離があるように見えるが、相思相愛なのは、ふたりの会話からわかる。

 騎士隊長の愛妻家ぶりは、王軍で知らぬものはいない。

メイベル公爵夫人は、夫と社交界で並んで歩いている間もにこやかで新婚かと思うほど熱い視線を送っている。

 実はハンナ侯爵も彼女に負けずに夫を愛しているが若いシャーロットは気づかない。

「違うそうではない、二人はもう年だから関係ないが俺たちは若い、義務を果たさなければならない、そのためには回数が必要だ」

 ドリアンの言葉に何かを察した男子生徒は止めろと口にするが、ドリアンには聞こえない。

「そうですわねこれからはもう少しお話し出来る回数を増やして、」

「話などどうでも良い! いいか貴族の義務はまず血を残すこと、頭の悪いお前にははっきり云うべきか、俺の子どもを仕込まねばならない。卒業まで時間がない、早く帰って俺の子を作れ」

 乙女にとって屈辱的な言葉を投げかけられたシャーロットは目を回し、思わず床に崩れそうになる。

「何の騒ぎだ、私が来るまでに何があった」

「ダニエル王太子殿下、」

 王太子の登場にドリアンは一瞬青ざめるが、目線を逸らせばシオンがシャーロットを支えている。

「貴様! 俺の婚約者に触れるな、離せ」

「今にも倒れそうな令嬢を助けただけだよ、シャーロット伯爵令嬢。このまま支えていていい? いや、誰か椅子と水を持ってくれ」

 シャーロットと呼んで良いと云ったのに、余計な噂が立たないようシオンは敬称で呼んでいる。

 感謝の気持ちを伝えたくてもドリアンに云われた言葉がまだ胸を刺し続ける。

「ゆっくりでいいから、」

 椅子に座り、グラスを持ちゆっくりと水を飲んだシャーロットはようやくお礼を云えた。

「ありがとうございます、」

「そんなもっと早くにこればよかった……控えの間に行く?」

 シオンの優しい黒い瞳を見てま母を思い出したは、ふるふると首を振る。

 最後までドリアンに向き合わなければいけない。

「いつまでそうしている! 俺の婚約者だって云ってるだろう、貴様は誰だ」

「初めまして、ニースバルト公国から来たムーア伯爵の息子で、シオンだ。そういう君は?」

「ロイフィリップ伯爵の次期当主、ドリアンだ」

「次期ってことは今は当主じゃないってことだね、男爵家の子息とか」

「……騎士爵の息子だ」

「なんだ、ちなみに息子って名乗ったけど僕は子爵だよ、」

 高位貴族はいくつか爵位を持っている跡取りはその中の一つを名乗るのが普通である。

 ロイフィリップ家は歴史が浅いので爵位は一つしかない。

「だとしてもだ、近づきすぎる」

「王太子の権限を持って皆に言う、この者がロイフィリップ伯爵令嬢の耳におぞましい言葉を投げかけたのは報告を受けている。よってムーア子爵の行いは何ら恥ずべき行為ではない」

 駆け寄ってきたベルローズから話を聞いたダニエルは声を大きくし、生徒達に告げる。

「恐れながら王太子殿下、おぞましい言葉とは、俺はただ事実を云ったまで、そこにいる女が誇張しただけ」

 殿下の前で取り繕うとしているが長年の癖は抜ききれず、ドリアンはダニエルの前で、俺ベルローズを女と蔑んだ言葉を口にした

「我が妃を愚弄するか、よかろう。この場で審議を行うがこの者の口には紳士の欠片も見当たらない、婚約者がいる者は令嬢を愛する騎士ならエスコートし、そうでない者も騎士、紳士であると思うのであれば令嬢たちを控えの間まで送り届けろ、」

「誘導は私が行います、」

 ジョージが先頭に立ち、生徒達と一旦外に出るとすぐと戻ってきた。

 彼の婚約者マーガレットとまだ足に力の入らないシャーロット、それにダニエルのそばを離れないベルローズがいるからだ。

「君も退室しなさい、君がいてはマーガレット侯爵令嬢もここから退出できない」

「ダニエル殿下、私はこの愚か者に云いたいことが沢山あります、けれどメグは、」

「ローザ様、私も云いたいことがあるのです、どうか残る許可を」

 マーガレットは花嫁の付添人の話で言葉を詰まらせたように、この手の話が苦手だ。

 ジョージがいないから気丈に振る舞い、耐えていたが彼女も目眩を起こしたはずだ。

「マーガレット……君は僕が守る、」

「お二人ともありがとうございます、」

 申し訳ないという言葉は彼女たちに失礼だと思い、シャーロットは涙を流しながら言葉を口にした。

「君はどうする? 女性側の証人も欲しいから、このままでいいよね?」

 シャーロットにあれこれと口にする姿を見た男子生徒に幻滅されたクレアも残っていた。

「私は……男子生徒もみんな何処かに行ったから審議なんて、それに私は」

「男子生徒側の証人ね、もう来たみたいだけど」

 令嬢を贈ったうちの何人かが部屋に入ってきた。

「でもみんな王族が怖くて、嘘を言うかもしれない、だってドリアン様はただ子作りがしたいと云っただけでしょ、それは貴族の義務だわ。お義姉様が幼すぎるのよ」

「そういう君は随分と大人だね……確かに義務だけど言い方があるでしょ。これなら分かる?」

 相変わらず飄々としたシオンがクレアに皮肉を込めた言葉を投げかけるが理解できなかったので言葉を続けた。

「でも、だって」

「でもだって何、」

 云いたいことがあるのなら最後までいいなと笑っているがシオンは云わせる気はない。

 笑っているのにこの男、怖いとクレアは初めて男性に恐怖を感じだ。

「シャーロット伯爵令嬢が花嫁の付添人と知っていて純潔を奪うようなことを口にしたの事実か否か、この場に限り何を言っても不敬としない。思っていることを全て話せ」

「それは……別にシャーロットが付添人でなくても良いではないですか、だって俺たちは婚約者で、俺はもうすぐ領地に帰る、そうしたら」

「新婚でも離れるということはよくあること、それに離れたくない事情があるならまずは、親にでも相談するべきだったはずだ」

「相談しましたよ、王都を離れたくないと、けど帰ってこいと云われて」

「シャーロット伯爵令嬢とのことを話してその返事だったのか」

「でもだって、まさか殿下があの女を選ぶなんて」

「不敬は許したが我が妃を女と呼ぶ許可はしてない。王太子妃殿下だ」

「そんな、」

「君は私の妃選びにも不満があると……もしもだ、私がシャーロット伯爵令嬢を選んだら君はどう思った」

「そんな! シャーロットは俺の婚約者です、俺と結婚しないと爵位は継げないからただのシャーロットに」

「貴族や王族と結婚すればそんなの問題ないよね、寧ろ君の方が困るのでしょ」

「はっ、さっきから貴様なんだ、俺は殿下と話してる」

「これが噂の瞬間湯沸かし器ね、ただウザい。あのさ爵位は君が継ぐかもしれないけど、財産はシャーロットが継ぐ、領地は他国のことだから分からないけど持参金代わりに何割か」

「結婚したら領地が幾らか貰えるの」

 シオンの言葉を遮るようにクレアが急に生き生きと話し出す。

「あくまで推測だけどね、土地なら租税も入るから、毎年決まったお金が入ってくる」

「なるほど、」

 シオンの言葉にクレアは嬉しそうに微笑む。

「なるほどじゃない! いいかクレア、お前が誰と結婚しようと俺は領地の一パーセントもお前にはやらん」

「そんなヒドいわ、ドリアン様! 私はロイフィリップ伯爵の娘になったから貴方よりも上よ、言葉を考えて口にするのね」

「騎士爵の娘なら俺と同じだろ! お前のせいで、」

「話がややこしくなる、君たちはどう思う、発言を許す」

 戻ってきた男子生徒達にダニエルに促され順番に発言する。

「スコット子爵の長男、アーサーです。厳重な処罰が必要だと思います。私にも婚約者がいますが、あのような言葉を投げかけるなんて、無礼な男だ、虫唾が走る」

「ドーン侯爵の次男、エリオットです。私も同じ意見です、婚約者もダンスで手を握る相手もいませんがね」

「エリオット様、貴方……」

「クレア伯爵令嬢、貴女のダンスパートナーを頼まれましたが、辞退します。それから二度と私の名前を呼ばないように」

 どうやらエリオットはクレアのパートナーだったようだが、今日の態度を見て恋の夢から覚めたようだ。

「処罰はこちらで決める、君たちは帰って良い」

 男子生徒は一礼をすると部屋を後にした。

「ドリアン士爵子息、聞けば貴殿は騎士になりたいと云っているようだな」

「その通りです、田舎暮らしなど俺には似合いません」

「それでどうだろか、反省として騎士の仕事の一部を貴殿にやらせよう。貴殿が騎士に目覚めればこのまま、騎士として王都にいられるよう君の父上を説得する」

「殿下!」

「ベルローズ、ここは私の采配を信じてくれ、期限は卒業まででどうだろうか」

「はい!」

「決まりだ、早速、先輩騎士に話を聞くといい、それからクレア伯爵令嬢、君も一緒に退出しなさい」

 ダニエルがジョージと呼ぶとジョージも何か言いたげであったが、ドリアンを外へ連れ出そうとした。

「あの……ドリアン様」

「何だ、シャーロット」

「クレアのこと好きではなかったのですか……」

 シャーロットは自分でもおかしな事を口にしてしまったと思ってる。

 謝って欲しい、王族への不敬を正したい。何より罵倒されて哀しかった気持ちをドリアンに伝えたいが、心がドリアンを拒絶するのか。

「はぁ~~~~! 君はどこまで愚かな女だ、」

 大きなため息をついたドリアンにジョージは思わず拳をドリアンの頭に振り落とし、騎士とはなんたるかを分からせた。

「良いね、シャーロット伯爵令嬢、凄く良い」

「笑ってるんじゃない」

「そうよこんな見世物扱い耐えられない!」」

 腹を抱えて笑うシオンにつかみかかりそうになるドリアンを取り押さえ、床に突き落とすとずるずると引きずる

クレアはその隙に勢いよく飛び出していったが、離してと声が聞こえる。

 どうやら外にジャンゴとヴァイオレットがいたようで二人仲良くどこかへ連れて行かれた。


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