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南国からの使者

「シャーロット・ロイフィリップ伯爵令嬢、よく来てくれた」

「王国の勇ましい鷹にご挨拶申し上げます、本日もお健やかにお過ごしのこととお慶び申し上げます」

「ああ、楽にしていい、まったく畏まった挨拶というのも難儀だ」

 翌日、王宮に呼ばれたシャーロットは薔薇色のスカーフと王族だけに許された深緑色のジュストコール纏ったダニエル王太子に挨拶をした。

 帝国の血を引いてほとんど黒に近い鳶色の髪と翡翠色の瞳を持っている。

 シャーロット達よりも二歳だけ年が上なだけだが、落ち着いた雰囲気を持ち精悍な顔つきで常に髪を上げて政務に励んでいるため一部からは黒い鷹と呼ばれている。


 性格同様部屋も質実剛健ではあるが、優雅さもある。

 王太子の部屋にしては少々質素な執務机だが紫檀使っており、クッションと客人用のソファーはベルベットで座り心地が目でも分かる。

 所々で使われている装飾品、特に布関係はすべてテイラー商会の品で一介の貴族ではマネできない瀟洒な部屋だ。

「シャーロット様。今日の髪型、とても素敵。さすがはリリーよく分かっているわ」

「ありがとうございます、ベルローズ様の薄緑色のフィチューもよくお似合いです」

 オリエンタルドレスに似合うようにポニーテール結い上げ、控えめに黄ダリアの花飾りを飾っている。

「私の服には何も云わないくせに、まぁ男は婦人ほど着飾れないからな」

 王族のファッションはエチケットだらけである。

 私的な訪問であってもダニエルは必ずジュストコールとスカーフを外すことはない。

 そのスカーフは夏からずっと薔薇色だ。

 それに合わせてベルローズもずっと翠色の何かを纏っている。

「あら、殿下? 焼き餅ですか、ふふ、シャーロット様の愛と殿下への愛は違いますわよ」

 薄緑色のフィチューに合わせてベルローズのドレスは、彼女の赤毛を連想させる紅いローブに差し色にややくすんだ白茶のスカートを合わせた、ダニエルの婚約者に相応し装いだ。

 徐々にスカートの色が黒い鳶色になるのをシャーロットは楽しみにしている。

「手厳しいな、私の可愛い姫は」

「まぁ」

 時には軍人相手に檄を飛ばす。ダニエルであるが、ベルローズに対しては兎に角甘い。

「お二人ともそろそろ、お控えになったら。私もジョージも火傷してしまいそう」

 先に到着していたマーガレットが扇を持ち出し、茶化す。

 ブルーサファイアに合わせた濃紺色のドレスは漏斗型の袖、その袖に控えめだが優美な琥珀のリボンを身につけている。

 リボンはトレードマークであるオレンジ色だ。

 その様子を隣で見守っているのは彼女の婚約者である琥珀色の髪を短く刈り上げ、赤みを帯びたブルーの瞳を持つジョージだ。

 長身のマーガレットよりもさらに背が高い彼は、近衛騎士の菖蒲色のドルマン姿だ。

 けれど、彼はまだ学生なので肩章はないシンプルな装いだ。

 騎士の耳には有事の際に誰と識別出来るよう耳飾りを付けることを許可されているので、ジョージは常にオレンジ色のダイアを身につけている。

「キャリントン侯爵令嬢……」

 マーガレットがダニエルに親しい言葉を掛けるのは、彼女の母がダニエルの叔母、国王の姉に当たるからだ。

 隣にいるジョージもいつもと同じ寡黙な表情をしているが、マーガレットに同調しコクリと頷いている。

「いずれキャリントンに入るから」と入学した当初からジョージは、キャスリントンの家名を名乗っていたため、シャーロットはジョージの家名を知らない。

「ダニエル殿下、」

「ああ、すまない。君たちに集まって貰ったのは私とベルローズの婚約発表についてだ。ベルローズが卒業する五月に発表、そのあと承書の儀となる予定だったが、発表を今月、また承書の儀も十二月に行う」

「それは……エリザベス王女の婚姻が決まったからでしょうか」

 エリザベスはダニエルの従姉で一年前までダニエルの婚約者候補でもあった。

 公爵令嬢である彼女はダニエルより一歳年上ではあったが、血筋も王太子妃教育の成績も優秀だったため、エリザベスがダニエルの最有力候補であった。

 しかし、今年の春になり急に他国に嫁ぐことが決まった。

「そうだ、あちらの願いでこの秋にニースバルドに向かうこととなった」

 ダニエルには年の離れた弟しかいない。

 そのため公爵令嬢で有ながら特例で王女の地位を持っていたエリザベスは、南の島国『ニースバルド公国』に輿入れすることが急遽決まった。

 元々ダニエルとは姉弟みたいなものだと笑っていた彼女は、年下の婚約者候補に優しく時に厳しく姉のように接していた。

 時が経つにつれ、貴族たちも形だけの婚約者候補だとエリザベスを見ていたので、もしや帝国に嫁がせるつもりではないかと勘ぐっていた。


 王宮に出入りし、ベルローズが王太子妃に内定したのを知っているシャーロットでもエリザベスの輿入れ先が帝国ではなくかつての同盟国ではあるが、しばらく縁組みをしていないニースバルトであることに少し驚きだった。


 どうやらあちらの公太子だった婚約者が妹を虐める悪役だと罵られ修道院行きとなり、そのあと後釜になった妹を溺愛したと結婚という段階で妹の悪事がバレ、公太子は悪事を見抜けなかった愚か者と烙印を押され廃嫡となった。

 その後継として選ばれたのが弟で第二公子のエドワードだったが、彼は幼い頃病弱であったため婚約者候補すらいなかった。

 それにまだ十六歳と幼い。

 もう一度破棄された令嬢と婚約を結べば良いと、あっけらかんとしていたニースバルトの大公や大臣達であったが修道院行きとなった令嬢はもう俗世と縁を切ったと婚約を結ぶのを拒否してきた。

 令嬢の母は、帝国の公爵家出身だった。

 圧倒的な軍事力を持つ帝国をないがしろにしたと思われては国が危ないとようやく危機感を持ったニースバルトは帝国が良いと思う花嫁が欲しいと皇帝に打診したところ、自分の息子の妻にと考えたことのあるエリザベスはどうかと提案し、これをきっかけに両国が同盟を結び直すことを許可し、ついでに大公の引退も勧めた。

 そんな流れでの結婚ではあったがエドワードはエリザベスのはっきりともの申す姉御肌の性格が良いと、顔合わせの場ですぐさま跪いて婚約を申し込んだという。


 ニースバルド公国とブリタニー王国はかつて帝国に戦を仕掛けた際、同盟を組んだ。

 結果はどちらも圧倒的な軍事力を持つ帝国に敵うはずがなかったが、海を隔てたブリタニー王国は属国にならずそのまま王国を名乗れたが、同じ大陸内にあるニースバルトは帝国の支配下に置かれた。

 王家の血筋こそ断絶されなかったが帝国の地方領主としてしか認められない時期が合った。

 ようやく国として認められてもかつてのような王国は戻れず、帝国から大公の位と尊い姫君をもらい、親戚筋になることでようやくニースバルド公国と名乗るようになった。

 そんな過去を持つ国にエリザベスは嫁ぐ。

 エドワードに一目ぼれたとはいえ年上の花嫁でかつては王太子妃候補であったのであれば、ニースバルトでどんなことを云われるか分からない。

 せめて憂いがないよう、ダニエルは先にベルローズと正式に婚約したと国内外に発表することにした。

「成婚の儀は既に六月だと諸外国に招待状を送っているので変更は出来ないが、承書の儀は少し早めても構わないと、国王と大司祭からの許可も得ている」

 王族の結婚式は二回行われる。

 まず神に結婚したことを報告する承書の儀。

 教皇から頂いた結婚証明書にサイン、それを大司祭が預かり聖都に送り証明書を聖都で保管する。

 これは安易に離婚をしないための措置と共に、この儀式を持って二人は夫婦となるので国によってはそのまま初夜の儀が行われる

厳かに行われるため式に参列するのは花婿と花嫁、それに付随する付添人。

 あとはそれぞれの親族と証明者となる五人の司祭だ。

 そのあとは自国の貴族を呼んで祝賀会を開く。

 王都では国主催で祭りを、地方では国民には皆で祝福するようにと国家から食料を用意され、領主の館、もしくは教会で盛大に二人の結婚を祝う。

 さらに王太子なら三分の一、他の王族なら五分の一ほどその年の租税が免除される。

 国の一大イベントでもある


 成婚の儀は、ダニエルが云ったように諸外国の王侯貴族を呼んで二人が夫婦になったことを報せる儀式で、直系の王族だけが行う一種の外交だ。

「話が長くなって済まない。そこでシャーロット嬢とマーガレット嬢は夏休暇と同様に王宮でベルローズを支えてほしい」

「私からもお願いいたします」

「何かと至らぬ点があるとは思いますが、王太子妃殿下のため尽くす所存です」

 二人の言葉にシャーロットは最上級のお辞儀をし返答した。

「我らが二人、力を合わせ王太子妃殿下をお支えしていくことを誓います」

 マーガレットも同様に誓いを述べると、後ろで控えていたジョージも王太子とベルローズの前に跪き、臣従することを誓った。

「ありがとう皆さん……ねぇ殿下、」

「どうした、ベルローズ」

「お二人に王太子妃殿下と呼ばれるのは、恥ずかしいような、少し寂しい気持ちになりますね」

「公の場でなければ以前と同様してもいい、私もジョージもそうしている」

「ふふ、ありがとうございます、ダニエル殿下」

 可愛いベルローズのお願いにダニエルは快く許可したが、エチケットの範囲内である。

 恐らくは小言を云ってくる貴族達を牽制するための、やりとりなのだろう。

「あとで母上の女官長であるメイベル公爵夫人から詳細を聞くと思うが、ベルローズ」

「二人に私を支えて貰うために役職を与えます。まずマーガレット・キャリントン侯爵令嬢には、王太子妃付き女官長、シャーロット・ロイフィリップ伯爵令嬢は私室付き女官の地位を」

「承ります」

 女官長は女官を全て統括する者で多くの権限を持っている。さらに王太子妃が即位すれば王妃付き女官長となるので花形の役職だ。

 私室付き女官は訪問者の対応、代筆、王太子妃の話し相手などで夫人のそばにいる腰元に近い存在だ。

「衣装係は私の従姉であるデイジー・テイラー子爵夫人、王太子妃家庭教師にはハンナ侯爵夫人を任命しました」

 ベルローズの身内や親友で固めた人事ではあるが、指導係であるハンナ侯爵夫人は歩くエチケット辞典と言われるほど礼儀作法に厳しい。

 その彼女に礼儀作法を教え込まれたローザやシャーロット達にはその厳しさは自分たちを思う故だと知っていた。

 意外にも甘党な一面もあり、母を亡くしたシャーロットを度々茶会に誘い、手製の甘いクッキーでもてなしてくれた。

「ジョージ、貴殿には卒業後、正式に近衛騎士としてそばで存分に働いて貰う」

 ダニエルが学園に在籍中は学友、その後は授業の一環でダニエルの騎士として仕えていたジョージは頷いたが何か言いたげのようだ。

「どうした、何か云いたいことがあるのか」

「どうかマーガレットとの時間を与えてください……」

「私からもお願いいたします」

 女官長と近衛騎士、仕事で接する頻度は高いが愛を紡ぐ時間がないと二人は頭を下げた。

「勿論だ、私だってベルローズと二人っきりになりたい時があるからな」

「まぁ、ふふ、殿下ったら」

 普段言葉を発しないジョージがマーガレットに対する熱い気持ちを告白したのを見て、シャーロットは心が温かくなったが、同時に婚約者のことを思い出し気持ちが沈んでいく。

「シャーロット様」

「何でもありません……」

「ありますと顔に書いてあります。さぁ、お話になって私の親友をこんな顔にするなんて一体何があったのかしら」

 ベルローズに察しされたシャーロットは言葉を詰まらせたが、やがてドリアンが家にいることを口にした。


「瞬間湯沸かし器が家にいるなんて、学園だけでもあの態度なのに、この後どうするつもり?」

 話しているうちに涙を流すシャーロットにダニエルはソファーに座るよう促した。

 ソファーの両サイドにはベルローズとマーガレット、もう一つのソファーにダニエルとジョージが座っている。

「……父にだけは報告するために家に帰ります、そうすればは今まで通りですし」

 侍女が用意してくれたミルクティーを飲んだシャーロットは少しだけ、気持ちが楽になったので大丈夫だと口にする

「報告なら私の従者を出す、荷物は何かの手違いで大部分はまだ王宮にあるから大丈夫だろう」

「そうですわ、王宮に来た以上、シャーロット様を傷つけさせません」

「ですが……」

「シャーロット様、絶対に王太子殿下のご厚意に甘えるべきです、婚約者とはいえ結婚前の男女が一緒の屋敷にいるなんて……」

 それ以上言葉は慎ましい令嬢には口が出来ないとマーガレットが頬を真っ赤に染め、唇を震わせていると、ジョージが代わりに言葉を続けた。

「シャーロット伯爵令嬢、貴女には王太子妃殿下の花嫁の付添人という重要な役割があります。付添人は乙女でなければ務まりません」

「そうだ、」

 二人はそれ以上深いことは話さなかった。

 乙女というのは純潔でなければならない。たとえドリアンと何もなくても、婚約者と一緒に住んでいるとなれば醜聞は抑えられない。

 王太子妃の花嫁付添人になる以上は隙を与えてはならないのだ。

「お言葉に甘えさせて頂きます」

「当然ですわ、瞬間湯沸かし器もですが勿論、妹御からも守って差し上げます」

「……! ベルローズ様、私決めました」

 シャーロットを守ろうと手を握るローザにシャーロットは決意した。

「何か?」

「ベルローズ様やマーガレット様のように気高く誇りを持ちたいと思います」

 ベルローズは王太子妃になり国を背負う、マーガレットはベルローズを支える、ジョージも王太子に忠義を尽くしていく。

 シャーロットもベルローズを支えたい、力になりたいと思っていた。

 せめてクレアやドリアンを諫めなければと思い、努力はしてきたが挫け、勇気も足りなかった。

 けれどいつまでも甘えている訳にはいかないと、覚悟を決めた。

「いつまでも甘えていては、お二人の隣に立てません。私は……強くなりたい、強くならなければいけないのです、」

 母が亡くなってから俯きがちだったシャーロットだが、亡き母が王妃を親友としてそばにいたことを思い出し、母のようになりたいと思った。

「シャーロット様」

 シャーロットが本当は強い淑女であることは幼なじみの二人は知っている。

 同時に挫けた理由も知っていたので、自分たちが守ろうと思っていた。

「私、頑張ります」

 シャーロットが神に誓うように重ねた両手ををベルローズとマーガレットは手に取る。

「シャーロット様ならできます」

「そうですわ、」

淑女は人前で涙を見せてはいけない。

 だがそんな野暮なことは云わないとダニエルとジョージはうれし泣きする婚約者を黙って見守っていた。

 **

「実は昨日のうちにもう一つ伝えたいことがあった。ニースバルト公国より使者が来るので、二人にはベルローズの女官として同席して貰いたい」

 そう云われ王太子の応接間ではなく、王侯貴族が王族と謁見する来賓の控え室でシャーロット達は、ハンナ侯爵夫人に最後のチェックを受けていた。


 格式の高い白いコートドレスは舞踏会用のロマンチックドレスと違い裾の膨らみが少ないが、裾が長い。

 コートドレスは王族との正式な謁見か、もしくは他国の王族と正式な挨拶を交わすときにしか着ることがないので、シャーロットはより気を引き締めた。

「シャーロット嬢、緊張しても淑女として微笑みだけは忘れずに」

「はい」

 いくらハンナ侯爵夫人に云われても緊張する。

「お迎えに上がりました」

 今日は肩章もマントの着用も許可されたをジョージがノックして部屋に入ってきた。

 その後ろは、長く王に仕えている近衛騎士団長、王国騎士隊長が立っている。

 マーガレットはジョージに、ローザとシャーロット達は団長達にエスコートされ、来賓の間まで向かった。


「ニースバルト公国シオン公子及びリー男爵、その妹君、ヴァイオレット令嬢の到着、扉を開きます」

 衛士が扉を開けると、シャーロット達は一斉にお辞儀をした。

「この度エリザベス王女殿下の輿入れに辺り、大使を仰せつかったシオン・サザランドです」

「その従者ジャンゴ・リー」

「同じく、ヴァイオレット・リーです」

 一通りの挨拶を交わしたが、緊張のせいかシャーロットはろくに三人の顔を見られなかった。


「これより晩餐会に移ります。ご婦人は控えの間に」

ようやく挨拶が終わると、先ほどまでいた控えの間に戻り今度はローブヴォラントと呼ばれる裾が幅広いドレスに着替える。

「真珠の首飾りはニースバルトの特産物、これで親交の意思をあちらに示したいと思い用意しました。ドレスの色はマーガレット女官長は近衛騎士となるジョージ様の婚約者なので菖蒲色、シャーロット私室付き女官は王家の血筋も引いておりますので緑とも思いましたが、そちらは王太子妃殿下にと王太子殿下からのお達しがあり、シオン閣下の名前にあやかり薄紫色にいたしました」

 ベルローズの従姉で衣装係のデイジー子爵夫人の説明を聞いてシャーロットは頷いた。

 コートドレス寄りは緊張しないが、ドレスに呑み込まれてないかと不安になるが、ハンナ侯爵夫人の言葉を思い出して微笑みを浮かべた。

 いつもなら可愛いと愛でるベルローズ達も王族との晩餐会に緊張しているのか、微笑みはしても近づいたりはしなかった。


 晩餐会でようやく彼らの顔を見たシャーロットはシオンの黒髪に思わず見蕩れてしまった。

 ダニエルの黒に近い鳶色が明るく見えるほど、艶やかな黒髪であった。

 そして吸い込まれるような黒曜石の瞳。亡き母と同じ瞳の色で懐かしいさを感じるとシオンを見ていると彼はにこりと笑った。

 貴婦人と違い男性の正装はレパートリーが少ない。

 シャーロットに向けた微笑みを崩さずシオンは挨拶する。

 ジャストコールにスカーフと王族男性の正装を纏ったシオンは、友好の証でブリタニー国特産のダイアモンドを上着にちりばめていた。

 ニースバルト側も緑色、そして赤色は王太子、王太子妃の色と理解していた。

 シオンはシャーロットの髪と同じくらい薄い赤色、桜色のスカーフをしている。

 赤ではなく桜色であれば問題はない上に、王太子妃に敬愛と同時に自分は距離を取ることを示している。

 ジャンゴやヴァイオレットもそれぞれカフスや首飾りにダイアモンドを身に纏っている。

「改めて自己紹介を、シオン・サザランド、エドワード公太子の従兄なので今回、大使の役目を引き受けました。よろしくお願いいたします」


 声は少年のように高い。目も二重をしていて柔和な唇は綺麗な桜色をしている。

 大使と名乗らなければ、シャーロット達と同じ歳に見えたが、シャーロットも小柄なせいで下級生から同級生と勘違いされるので、シオンには失礼だが親近感が沸いた

「私たちも、ベルローズ・テイラー。正式にダニエル様の婚約者となりました。そして、こちらがマーガレット・キャスリントン侯爵令嬢と、シャーロット・ロイフィリップ伯爵令嬢、私の女官として出仕しております」

 デザートと紅茶が出されると、やや無作法だが私的な交流へ切り替わった。。

「マーガレット・キャスリントンです、つつがなく日々を過ごせますように」

「シャーロット・ロイフィリップです。お目にかかれて光栄です」

「三人とももっと気を楽にして、僕ら同じ学園で同級生になるのだし」

「……? あの、それは……」

 シオンの年齢までは紹介されなかったが、大使であるなら当然、成人していると思っていた。

「シオン様、よろしければ彼女たちにも名を呼ぶお許しを」

「勿論だよ。ダ、ダニエル殿下……」

「あのシオン閣下は大使としてこちらにお見えになったはずでは」

シオンは継承権第三位を維持しているが、一度、臣籍に下っている。

敬称をどうするか他国の王族に精通しているハンナ侯爵夫人に聞いたところ、閣下と呼ぶように教えられた。

「うん、名目上はね。けど実際の仕事は外交官がやる。僕はエリザベス王女がニースバルトに着くまでの間の人質だね」

「恐れながら、その言葉は……」

 国では騎士だというジャンゴは、ジョージほど背丈はないがその分、岩のような屈強な躯を持ち、低い声とキリリとした目が特徴的だ。

 隣に座っているヴァイオレットは兄と同じアッシュブロンドだが、目元がはっきりした美女だ。

「取り繕っても仕方ないだろ、そんなわけだから気軽に話しかけてよ・シャーロット・ロイフリップ伯爵令嬢」

「恐れ多い、シャーロットと呼んでください。シオン閣下」

 勝手に彼を想像してしまったシャーロットが頬を染めて微笑むととシオンは急に胸を押さえた。

「えっ、」

「失礼、我が君は時々胸を押さえるのが癖なので気にしないでください」

 ジャンゴとヴァイオレットが同時の声を揃え、当たり前のことが起きたと話す。。

「うん、あと閣下というのもナシで。王族とバレると色々問題があって、学園ではムーア伯爵子息と名乗ろうと思う、ちなみにムーア伯爵が本当の大使だよ」

「私たちもシオン様と呼びますので、どうかそちらで通すようお願いいたします」

 兄にそっくりなそばかす顔のヴァイオレットが頭を下げた

「ところでシオン様は騎士科、領主科どちらに編入なさいますの」

 マーガレットの問いかけにシオンは明るく答えた。

「最終学年の半年間だからね、編入はせずに色んな講義に参加させて貰うよ」

「では、僭越ながらアドバイスを瞬間湯沸かし器には気をつけなさって」

「マーガレット様……」

「そんな便利な道具がこの国にはあるの、楽しみだね。ところで気になったんだけど、君たちは親友のようだけど、愛称で呼ばないのだね」

 非公式な晩餐会とはいえ、王族の晩餐会なら愛称はタブーのはずだと首を傾げている間にベルローズが返事をした。

「王太子妃教育中は相手を愛称で呼ばない決まりがありまして、ですが呼んでみたいですわね」

「マナーの授業は終えているのだろう、良いのではないのか」

「そうですわね、ですがハンナ侯爵夫人と話してから決めたいと思います、それに」

「どうした」

「殿方の前で決めることではないですわ、乙女の秘密です」

 ベルローズの微笑みにマーガレットがそうですと口にすれば、男達は婚約者の可愛さに咳払いをする。

 こんな楽しい食事は久しぶりだとシャーロットが笑っていると、シオンと目が合い、途端に胸を押さえていた。

 もしかしたら身体が弱いのかもしれない、あとでベルローズに聞いてみようとシャーロットは思った。


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