有名作家の正体
所謂腐女子キャラが登場します。
もう少しだけ立食会の話が続きます。
※学園の在籍期間を四年から三年に変更しました(一話の説明、十五歳から十八歳に変更済みです)
「そういえば、カメリア令嬢。君は女官になると聞いているが、これだけ素晴らしい才能があるのだ、何処かで披露する機会はないのかな」
「ベルローズ様、お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、あたしのデザインはおばあちゃまに云わせればカーニバルのようだと笑われてしまいました」
エリザベスのドレスのデザインにアドバイスを加えたカメリアは、眼鏡を嵌め直すと首を振った。
彼女は双子でセルシールという片割れがいる。姉か妹、はっきりしないのは両親が婚姻を売り込む際にコロコロ変えるためだと陽気に笑っている。
大人しいセルシールと違い活発的なカメリアは瓜二つの妹が自分と間違われないようにあえていつも伊達眼鏡を装着していた。
「埋もれてしまうのは勿体ない、もし閃いたら我が商会にデザインを送ってくださる」
「ええ、今回はエリザベス様の上着は水色のみにしましたが、そこにだんだら模様で……さらに美少年度をあげて、いや男装味、……いけないあたし、またおしゃべりに夢中で」
だからカメリアではなくうちではカナリアと呼ばれるとシュンとなる彼女に、シャーロットはすかさずフォローする。
「カメリア様は東洋についてお詳しいですからね、講義でも率先して教授に質問していますし」
「好きなだけです。大学の御陰で随分と創、知識の幅が広がりました」
「カメリア様の論文楽しみにしていますね」
学園の論文のテーマはいくつか決まっており、女子生徒は歴史が多い。
中には植物学や装飾についてを纏める生徒もいるが取り組みやすい歴史が人気だ。
いくつかグループを作り、知識を補いながら論文を完成させる。
シャーロットは講義で一緒になるカメリアと話す機会が増えた。
「ペルムーン王国が大陸にどう影響を与えたかの検証でしたっけ、私も楽しみです」
ペルムーン王国は大陸の東にあり独特の宗教観と文化を持つ国だ。
太守と呼ばれる王の他に美しい女性を何千人と囲んだ後宮という場所があると聞いている。
「うへ、」
同じグループにいるマーガレットが目を輝かすと、カメリアは慌てる。
「盛り上がってるね、」
たこ焼きを取りに外に出ていたシオンやダニエルが帰ってくるとエリザベスが笑いながら喋る。
「シャーロット様の憧れの人物について聞けてね」
「えっ……」
今にも皿を落としそうなシオンにシャーロットは急いで話し出した。
「違います、その憧れの女官がいてその方の話をしていただけです」
シャーロットは頬を染めながら誤解を解こうとする。
ゆっくり説明すれば良いのについ早口になる。
可笑しいなと思う感情はカメリアの行動で上書きされた。
「シオンで、シオン殿、戻ってこい」
石像のように動かなくなったシオンにダニエルがたこ焼きを口に放るとカメリアは口を覆った後、瞬時に祈りだした。
「カメリア様」
「尊い……いや、その、シオン様の今日のお召し物は素敵ですね」
咄嗟に緩んでいた顔を元に戻したカメリアにヴァイオレットは、すっと言葉を遮った。
「主を褒めてくださるのは嬉しいのですが、今日は別の服を用意したはず。何故そのような格好で」
「収穫祭と云えば仮装でしょ、ちゃんとマナーの範囲内だよ」
今日のシオンの装いは、黒髪を隠すシャペロンと丈の長い紺のシャツ、それに菱形模様のベストと、王族らしいマントだ。
ベストは毛織物で、タイツと短いズボンを穿いている姿は王子というよりも
「ハーレークイン」
おとぎ話の道化師のような格好だと思わず、カメリアが口にした。
「ご明察、ニースバルトのカーニバルは実りに感謝するほかに悪霊退治の面もあるから、ブリタニーでも取り入れたらと思って」
「仮装は良いが、そもそもその格好で学園内うろつかれては困る」
仮装しているシオンとは対照的にいつもと同じ公務服のダニエルがため息をつく。
「真面目だな~シャーロット令嬢はどう思う?」
「お似合いだと思います、それにそのベストで使われている織物はもしかして」
「ロイフィリップ家の領地には優れた毛織物の工房があると聞いてね、用意して貰ったんだ」
毛織物を特産にする領地はいくつかある。
その中で最上級品だと評価されているのは、ロイフィリップの領地だ。
帝国は勿論、ペルムーン国の後宮、寵姫の部屋の絨毯としても使用されている。
「見ただけで分かるのですが」
シャーロットが言い当てたことにヴァイオレットが驚いている。
「我が領地の特産ですから、詳しくは言えませんが特徴があるのです」
「そうなのですね、流石はシャーロット様」
跡取り娘として領地の特産物に詳しいのは当たり前のことだが褒められるのは嬉しいとシャーロットがにこりと笑う。
「ね、役に立つでしょ。ただ、ハーレークインは美女が好き、ここには麗しの美女が沢山いるけど、誰を選ぼうかな」
「お戯れが過ぎますよ」
くるくると椅子の周りを歩くシオンを止めようとダニエルが近づくが、カメリアはモクモクと何かを描いていた。
「シオン様の装いに合わせるなら、こんなドレスでしょうか」
カメリアが手帳から一枚紙を破るとそこにはシャーロットに似た少女が描かれていた。
シルクのベール、頭には真珠の飾り。シオンと揃いのベストには煌びやかな装飾品が飾られており、ベストを纏っているのに薄衣に包まれている。
「君、天才だね! この絵貰っていい?」
シオンが興奮気味にカメリアに絵を催促したが彼女は首を振る。
「いやこれはインスピレーション受けただけで、」
「そこをなんとか! えっと、ワルダー・クイーン先生?」
「ひえッ……しまった、ついいつもの癖でサインまでしてしまった」
ワンダー・クインは一部の貴婦人が愛読している耽美作家だ。
その正体はカメリアで、挿絵も彼女が担当している。
耽美愛好家は仮面を付けてサロンに集まり、自分たちの妄想を語っているが誰も正体を探らない。
それが貴腐人の嗜みだ。
「誰にも云わないよ、だからこの絵ほしいな」
「あげます……うう、アーサーに叱られる」
「スコット様の姿が見当たらないのですが、一度またお礼を云いたかったのですが」
「アーサー、義兄はセルシールと一緒に領地に行っています」
アーサーは、ダンスパーティーの騒動での証言者の一人だ。
カメリアの双子の片割れであるセルシールの婚約者だが、カメリアにも紳士的に接している。
ただおっちょこちょいなカメリアに時々小言を与えるのでカメリアは少しだけ彼が苦手だった。
「スコット家の領地は北の外れ、王妃殿下の領地の隣でしたよね」
「ええそうです、卒業後に領主となるので今は学園と領地を往復していますね」
スコット家の現領主は高齢で年を取ってから出来た息子を可愛がったが、それ以上に領民を気に掛けている。
自分が亡くなった後も領地がうまく回るよう、文官であるライター家との縁談を持ちかけたが、アーサーとセルシールはお互いに惹かれ合った。
「どこぞの瞬間湯沸かし器も見習ってほしいもの」
騒動を起こした責任でドリアンはパーティーに参加できず、騎士見習いの仕事に励んでいる。
「それにクレア様も王都の教会で奉仕活動をしていると云いますが、あの方をどうにかしてでも卒業させたいだけでしょ、甘すぎますわ」
クレアもまたパーティーに参加していない。
ドリアンと違いクレアは、処罰の対象にはならなかったが、礼儀作法以外の成績が振るわない。
そのため、担当講師とマンツーマンの授業を行っていたが、勉学に励む意力もなければ、自分が落ちこぼれという認識もない。
親であるグロリアがもう少し彼女に気に掛けていれば良いのだが、賢い女は殿方に嫌われると気にする様子もない。
いっそ留年させようかと講師や教授が集まって会議したが残したところで、他の生徒の妨げになると、王都の教会での特別奉仕を単位とした。
今や男子生徒からも距離を置かれているクレアにまともな論文を書くことなど不可能なので、そのことでも教授達は頭を抱えていた。
「シャーリー、妹御に手助けは無用よ、三年間何をしていたのかしら」
今まで課題やテストの対策はシャーロットが助けてきたのでどうにかなったが、今はそれも出来ない。
「はい……恥ずかしい限りです」
「シャーリーは何も悪くないわ、奉仕活動ならどこかにある戒律の厳しい教会で行えば良いのに」
「……そのうちに入るかもしれませんね」
カメリアがそっと唇に指先を置く。しまったとマーガレットが謝る仕草をすると、カメリアが機転を効かせて話題を変える。
流石はスコット家と婚姻関係を結んだライター家の娘である。
カメリアさんのペンネームのワルダーは薔薇という意味です。
新しい国、ペルムーン王国が登場しました(名前で分かるとおりアラビアンな国)