第三章
結果から言うと、土日にはなんの収穫もなかった。
ドッペルについて、見つけることや千世からの有益な情報もなかった。
そうして日付は月曜日。千世の出社日である。
「それじゃあ、お願いね」
千世には普通に業務をしてもらうことになっている。その間に、視線を感じたら真宵たちに合図を送り、異変を知らせてくれるようになっていた。その際、真宵はある道具を忌玖と千世に持たせていた。
「これは?」
「冥探偵道具、冥界チャットだ。忌玖には端末を。千世さんにはアドレスを入力させてもらうぜ」
真宵はテキパキと行動して、準備を完了させる。
「これでスマホみたいに連絡が取り合える。便利だろ?」
ドヤ顔で自慢する真宵に、忌玖がツッコミを入れる。
「冥探偵道具なんてどこに持っていたのですか?」
真宵はパーカーのポケットを指さす。
「ここ」
「ここって……」
忌玖と千世はポケットをまじまじと見つめる。何かが入っているような膨らみはない。
「甘いぜ。このパーカー自体が冥探偵道具のひとつだ。ここのポケットには数多くの冥探偵道具を収納してある」
「へえ、便利ねえ」
千世は感心しながらポケットに手を伸ばす。しかし、冥界人である真宵には触れることができなかった。
「それにしても、この前の銃はわたくしと同じように霊力を凝縮して作ったわけではないのですね」
忌玖から質問され、真宵は冥探偵を起業したころを思い返していた。
「あたしにはそんな技術ないからな。あらかじめ作っておいた道具を使う方がその場で作るより余計な時間がかからないからな。それに、いろんな道具を持っておかないといざって時に何もできないかもしれないだろ?」
真宵は単純な戦闘だけでなく、探し物や浮気調査なんかもやっていた。そういう依頼に合った道具を使いこなさないと、自力では限界があった。忌玖は諜報等のエキスパートだから、自分の手となり足となる専用武器のほうが使い慣れている分自力でピンチを切り抜けられるのだろう。そんな職人のような忌玖を、真宵は若干嫉妬していた。絶対に言葉には出さないが、初めて自分の最高傑作の一撃を余裕であしらった忌玖を、本当は憧れてさえいた。
しかし、ないものねだりはできない。人は、あるものでしか戦えない。少なくとも、真宵はそうやって生きてきた。
「ここよ」
千世に案内され、職場へ到着する。背の高いビルだ。目算で九階建てほどある。
「なんか、すごい大企業って感じだ」
真宵が生きていた時にはこの建物はなかった。死後に新しく建てられたのだろう。
「全部がうちの会社ってわけじゃないわ。一部を借りてるのよ」
千世はそう言って中に入る。フロント部分で社員証をかざし、ガラスドアが開く。真宵たちも後に続き、エレベーターに乗る。
チンという短い音とともに、制止する。ドアが開くと廊下になっており、千世は右手に進んでいく。そして、とある扉の前で止まった。
「ここからは会社の中になるわ。昨日も言ったけど、ここからは会話はできない。変に思われちゃうからね」
「そうだな」
「そこで、真宵ちゃんの道具の出番ってわけ」
「冥探偵道具、な」
細かい指摘をする真宵を無視しながら、千世は念を押す。
「いい? 社内で不穏な空気が流れたら真宵ちゃんに合図を出す。そしたら二人はシンが悪さをしていないか確信してもらうわ」
「了解だぜ」
「了」
真宵たちが返事すると、千世は会社のドアを開けた。中に入ると、新しい会社ならではの汚れのない壁やデスク。それに社員用のコーヒーマシーンまで置いてあった。
「あのコーヒー、飲んでみたいぜ」
「そういえば冥王様にもコーヒーをお出ししていましたね。好きなんですか?」
「そりゃ大好きだぜ。どれくらい好きかって言うと、飲まないと夜眠れないくらいだぜ」
「普通、逆なのでは?」
忌玖のツッコミをスルーして、真宵はコーヒーマシーンに釘付けだった。
「今度作ろうかなあ。いや、ここは流石に買った方がいいか? プロの商品までは作りこめないぜ」
真宵の様子に呆れたのか、忌玖は一人オフィスの様子を見る。現状、特に変わった点はない。いや、よく見ると千世がこっちを睨みつけていた。真宵がはしゃぎすぎているからだ。
「あまり羽目を外しすぎると怒られますよ」
真宵は名残惜しそうにコーヒーマシーンに別れを告げた。
「さて、シンはいたか?」
「いないですよ。いたとしても、限られた空間内にいたらすでに細切れにしています」
「おーこわ」
真宵は忌玖から一歩離れて怖がって見せた。
「じゃあ今はのんびりタイムじゃん。いるか?」
真宵はポケットからコーヒー缶を取り出し、忌玖に差し出す。真宵はというと、もう飲みかけていた。
「……まあせっかくですし、貰っておきましょう」
忌玖は缶をプシッと開けて、一口のどを潤す。
「どうだ? やっぱ冥界だとこのメーカーのコーヒーが一番美味いな」
その言葉に、忌玖は異を唱える。
「まあ、美味しいのですが……。やはり自分で淹れたコーヒーが一番ですね」
真宵は眉間に青筋を立てて笑顔のまま反論する。
「ほーん? お前のコーヒーはそんなに美味いのか?」
「ええ。冥王様のお墨付きです」
真宵ははんっとため息を溢し、忌玖を嘲笑する。
「お子様コーヒーしか作れねえのか? それはさぞ甘ったるいコーヒーなんだな」
お子様という単語に反応した忌玖が、場を凍り付かせるような圧を出した。いつもの無表情だが、目は細めて完全に威嚇していた。
「御冗談を。ブラックからカフェオレまで幅広く作れてこそ一流のメイドです」
「てことは、ヨミちゃんにはやっぱりお子様コーヒーを作ってるんだな?」
真宵に図星を突かれ、言葉を選ぶ忌玖。
「甘いコーヒーの何がダメなんですか? 好みは人それぞれでしょう」
「べっつに~? 悪いとは言ってないぜ。ちなみになんだが、お前はどんなコーヒーを飲むんだ?」
「それは――」
忌玖の言葉が詰まる。ヨミに出しているのは甘いコーヒー。なのに、自分だけ違っていれば、一番というコーヒーを上司であるヨミに出していないことになる。
「おや~? ご自慢のコーヒーはヨミちゃんには出してないのかな?」
ここぞとばかりにたたみかける真宵。そんな時、真宵の通信端末に着信が入る。表示されている人物は、千世だった。
「やべ……」
真宵は千世の方を一瞥する。完全にお怒りの千世は、口で「まじめにやれ」とジェスチャーしていた。
「あなたのせいですよ」
「へーい、はんせーしてまーす」
心のこもっていない返事をして、辺りの観察に戻る。
そうは言っても、何も起こらないなら対処も何もない。まるでアンパンと牛乳で張り込んでいる刑事の気分だった。
そうして何も起こらないまま、午前は終わった。
千世は普段、料理をしない。なので社食を利用している。そこで大お説教タイムが開催された。
「もっと真面目にやってくれない!? ホントに頼むよ!?」
社食は割と賑わっているので、ちょっとした大声では誰も気に留めない。とはいえ、結構なボリュームで話していたため、一部の人から奇異に目で見られていた。
「ちゃんと反省してるの!?」
「はーい。ごめんなさーい」
「申し訳ございません」
平謝りする真宵と、キチンと一礼する忌玖。それを見て千世は、盛大なため息をついた。
「たまたま午前は何もなかったけど、午後はしっかりね!」
「へーい」
「了」
二人が返事すると、千世は食事に戻る。ちなみに真宵たちの食事はない。ない、というか、必要がないだけだ。霊子で構成されている真宵たちは、食事を取らなくても問題ない。なのに真宵がコーヒーを飲んだりしているのは、ただの趣味だ。以前の習慣から、ルーティーンのように摂取しないとお腹が満たされない感覚に陥る。とはいえ、気のせいなのだが。
そんな訳で、手持ちぶたさな真宵は再度コーヒーを摂取する。
「よくそんなに飲みますね」
「いいじゃん。気合が入るんだよ」
真宵はコーヒー缶をプラプラさせながら残りを一気に飲み干す。コーヒー缶も、例にもれずポケットから出している。それを見た千世は疑問を呈した。
「ねえ、その中ってどれくらいの道具が入ってるの?」
真宵はうーんと考えて、やめた。
「結構あるぜ。いちいち数えてないけど、こっちにくると決まった際に必要な冥探偵道具はもちろん、コーヒーの備蓄も怠ってないぜ」
「そ、そう」
世間話をしていると、先に違和感に気付いた忌玖が辺りを見回す。
「どうした?」
真宵が声をかけるが、忌玖は辺りを観察していた。
「妙ですね」
「妙って、何が?」
「周りの話し声ですよ。具体的には、その内容」
話の内容と聞いて、真宵は耳を澄ませる。
「ねえ、なんか視線を感じない?」
「わかる。気持ち悪いよね」
「うん。でも、どっからきてるんだろう?」
話は視線の話題で持ちきりだった。
「ねえ、二人とも……」
心配そうな千世に、真宵は安心させるように笑いかける。
「任せとけ。こっから汚名返上だ」
真宵はポケットからカメラを取り出した。
「それは?」
忌玖が真宵の冥探偵道具に興味を持つ。
「ふっふっふ。これはゴーストカメラ。霊体だけ赤いオーラに包まれて写るカメラだ」
真宵はあらゆる方角にシャッターを押す。数枚撮ったところで、一枚の画像に赤いオーラが出ていた。
「これだな」
「これは……、社外?」
ゴーストカメラは物理の壁を貫通する。隠れていてもそこに冥界人やシンがいれば、赤いオーラで被写体を確実に撮れるというものだ。
「よし、行くぞ!」
「行くって、ここはこのビルの屋上では? 霊子の足場を作ってもかなり時間がかかりますよ」
真宵とてそれはわかっていた。なので新たな冥探偵道具を取り出す。
「それはこいつの出番だな!」
そう言って取り出したのは、ロープだった。正確には先端にフックがついている。
「ゴーストワイヤーだ!」
「それで何を?」
「それはな、こうするんだよ!」
真宵はワイヤーを上に投げた。すると、先端のフックがまるで生きた蛇のようにうねりながら目標まで伸びていき、シンと思われるものに噛みついた。
「よし! 忌玖、掴まれ!」
「まさかとは思いますが、それで上へ?」
「チンタラすんな! 早く!」
真宵に急かされて、忌玖はしぶしぶ真宵にしがみつく。すると、ロープがどんどん短くなっていき、ぐんぐん上へ登っていく。物理の壁は当然スルーしていき、すぐに屋上までたどり着いた。そこにいたのは、体にいくつもの目があるシンだった。
「なんじゃこいつ!?」
「これは、百目のシンですね」
忌玖からシンという言葉を聞き、改めて目の前の存在がシンであることを認識する。
「なんじゃあ? オマエラ」
口もないのに言葉を発し、目という目が真宵に向く。真宵は全身の鳥肌が立ち、身震いした。
「キモッ! とりあえすキモッ!」
「それには同感です。さっさと処理しましょう」
忌玖は鎌を生成しようとしたが、百目のシンは忌玖を本能で危険と判断したのか、距離を置いた。そしていくつかの目が赤く光る。
「これは、金縛り?」
忌玖はその場から動けない様子だった。言葉どおり、金縛りの能力を持っているのだろう。
「なら、これはどうだ!」
真宵はワイヤーを飛ばして捕獲しようとする。しかし、横や後ろの目が真宵のワイヤーを捉えてかわしていく。
「ええい、ちょこまかとうっとしい!」
ワイヤーをぶんぶん振り回していると、忌玖の金縛りが解け、動けるようになった。
「これなら!」
忌玖は貯水タンクの死角を使って追い詰めようとする。しかし、忌玖の行動は見透かされたように攻撃範囲外へ逃げていった。
「これは、面倒ですね」
忌玖が真宵のワイヤーの動きに連動しても、どうしても物理の壁が邪魔をする。別に当たるわけではない。しかし、視界は通らない。この差で追い詰めることができなかった。
「なんであっちはこっちの動きを捉えられるんだ?」
「透視の能力もあるのでしょう」
「二個も能力があるとか卑怯じゃね?」
「シンに言ってもらえますか。来ますよ!」
百目のシンの目が青く光る。すると目の前に大きな光の弾が出来上がった。
「あれ、なんだと思う?」
「ろくでもないことは確かでしょう」
凝縮された光は限界を迎え、真っすぐにレーザーが飛んできた。真宵は動けないでいたが、忌玖に引っ張られなんとかかわすことに成功した。レーザーの跡は、何も残っておらず、壁などが跡形もなく焼き切れていた。
「っぶね!」
真宵は百目のシンの方を見ると、階段を使って逃げようとしていた。
「って、ええ!? 逃げんのかよ!」
真宵は吠えながらすぐに追いかけた。忌玖もすぐについてくる。
「ていうか、あたしらってこっちのものに干渉できないんじゃないのか?」
「例外はありますよ。強い力は世界を超えて干渉します。こっちでも霊障とかあるでしょう?」
真宵は先に教えとけと言いたいのを抑えて、走るスピードを上げた。
「というか遠距離なら、あなたの銃の出番じゃなかったんですか?」
真宵はバツが悪そうに頬をポリポリ搔きながら、苦笑いする。
「あー、あれな。お前に撃ったのが最後の弾だ」
「は? 補充は?」
忌玖にしては珍しい、素っ頓狂な声をあげる。
「忘れてたぜ」
真宵はてへっと笑って見せたが、忌玖からの視線は殺気に満ちていた。
「……百目より先にあなたを細切れにしましょうか」
「ごめんて! これが片付いたらちゃんと補充するって!」
喧嘩しながらも追いかける二人。この先は社食エリアだ。逆目のシンの跡を追いかけて元の場所まで戻ってきた。
「ちょ、真宵ちゃん! こいつは何!?」
千世から悲鳴ともいえるような声で目の前の化物を指さす。
「そいつがシンだ! そんで、おそらく今回の犯人!」
社食には千世以外、誰もいなかった。時刻は午後の始業時間になったからだろう。千世だけは真宵たちがいることを知っていたため残っていたのだ。
真宵がワイヤーでぐるぐる巻きにしようと何度も飛ばす。しかし、全方位に目が付いている相手に死角はなく、しかも二度目の攻撃だ。相手も捕まるまいと必死に避ける。
「チッ! しぶといやつ!」
真宵も悪態をついてしまう。
「これでは埒があきませんね。わたくしがやります」
「どうする気だ?」
「少し、本気を出します」
そう言って忌玖は鎌を出現させる。そしてより霊力を流し込み、ただでさえ大きな鎌をさらに大きくする。流石に警戒されたのか、目の一部が忌玖に向く。
「さあ、危険な存在はこちらですよ」
忌玖が百目のシンを煽っていく。またも百目のシンは目を赤くして、忌玖を金縛りにする。
「今です! なんとかしなさい!」
忌玖の激励に、真宵は出し惜しみなしで対応することに。
「よし! ならこっちも、ワイヤー二本だ!」
真宵もとっておきの二本目のワイヤーでより百目のシンの目を奪っていく。明らかに動揺している百目のシンは、目があちこちを捕えようとし、ぐるぐると目を回していた。
真宵の陽動で、百目のシンは真宵に狙いを定めて、目が青くなる。
「ヤッバ! なんとかしろメイド!」
含めのシンの目が青くなる。それはつまり、レーザーの発射を意味する。同時に、青くなったということは、赤くないということ。金縛りが解けた忌玖が自由になる。
「――ここですね」
忌玖は一瞬の隙を狙って百目のシンの懐に飛び込む。そして大鎌一閃。
「これまでです」
斬った動作すら見せない早業。忌玖が持っている鎌の向きが変わっていると認識した時、すでに百目のシンは斬られていた。
「ナニ……ガ……?」
「相手が悪かったな。冥界へ帰れ、冥界の罪よ」
百目のシンが真っ二つに斬られ、霧のように消えていく。うめき声をあげながら消えていくその姿は、まるで海に沈む船のようだった。
完全に消滅し、しばしの沈黙。そして、終わったことを知らせるため、忌玖は鎌を消した。
「お疲れさまでした。百目のシンの件は、これにて一件落着です」
ぶはっと息を吹き出す真宵。これでも緊張していたのだろう。脅威が去ったことを感じて脱力感に襲われる。
「うはー、やばかったあ!」
真宵にとっては忌玖が頼みの綱だった。もし、百目のシンが同時に能力を使えていたらそれだけでチェックメイトだろう。しかし、それができるなら最初から動けない敵に確殺レーザーを撃てばいい。それをしなかったということは、できないということ。真宵は忌玖の早業を知っていたため、わざと囮になったのだ。そのためには一度忌玖が金縛りに合い、身動きを封じられた後に真宵へ攻撃させる必要があった。終わってみれば結果オーライと言えるが、行き当たりばったりな作戦でひやひやしていた。
「まったく。弾をちゃんと補充していればすぐに片付いたんですよ」
「悪かったって。とはいっても、こっちに影響が出るならおいそれと使えねえがな」
真宵はふーっと息を吐く。そこに、安堵した千世が駆け寄ってきた。
「大丈夫!? ケガとかない!?」
「大丈夫だって。ヘーキヘーキ」
真宵は問題ないことをアピールするようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「忌玖は!?」
「問題ありません」
こっちもいつものクールさを取り戻している。
「そういや、切り倒してたけど百目のシンはどうなるんだ?」
「それなら、冥獄へ直接投獄されます。わたくしの鎌は、そういう作りになっています」
死神としての能力、といったものだろう。斬った対象を冥界の牢獄、冥獄へ強制転送する能力。待っているのは、まさに地獄なのだろう。
「よかったあ……。二人とも無事で」
千世はその場にへたり込んでしまった。無理もない話だ。シンなどという化物など、生きているうちに目にすることはまずないだろう。万が一出会ってしまったら、生命の危機だ。
「落ち着いたら仕事に行ってきな。あたしらは後始末だ」
「後始末?」
千世はもう終わったと思っていたため、身をすくめる。
「ああ、大丈夫だ。ただの報告だよ。冥王様にこういうことがありましたよーっていう結果報告」
それを聞いて、千世はほっと胸をなでおろした。真宵が千世を見ている間に、忌玖がヨミと連絡を取ってくれていたようだ。
「冥王様にはアポイントを取っておきました。一旦、冥界へ帰りますよ」
「オッケー」
暫くすると足元が淡い光に満ちていき、転送の予兆が始まった。
「わたし、待ってるから!」
千世が真宵たちに手を振りながら涙を流していた。
「今度はわたしが役に立つ番だから! だから絶対に戻ってきてよ!」
真宵は千世の姿を見てサムズアップしながら返事する。
「もちろんだぜ! まだ本命が残ってるからな」
交わす言葉は少なかった。あっという間に光は真宵たちを包み込み、そして冥界へと送ったのだった。
冥界への道中、真宵は忌玖にそっぽを向きながら話しかける。
「あー、その、なんだ。やっぱお前ってスゲーんだな」
「は? いきなりなんですか?」
忌玖は突然褒められ、嬉しいというより気味が悪いという様子でドスの効いた声で返事する。
「百目のシン。あたしだけなら逃げられるか最悪やられてた。正直舐めてたぜ。シンのこと。やっぱ危険な存在なんだなって」
忌玖は真宵が予想よりへこんでいることに、まだまだ子どもなんだなと思った。仕方がないので忌玖は少し、身の上話をする。
「……わたくしもあなたと同じ、元人間です」
「え?」
意外な事実に思わず忌玖の方を振り返る。
「元人間で、とあるシンによって冥界に落とされました。それからは死神として冥王様の元でいろんな活動をしてきました」
真宵は、忌玖が自分と同じ境遇だったことに驚いた。それでいて自分との力の差に歯ぎしりする。
「あなたと違うのは、冥界に来てもう二百年は経つということです」
「に、にひゃく!?」
冥界人は年齢がわかりにくいと前々から思っていたが、想像より年上で開いた口がふさがらない。
「それだけ先輩だっていうことです。今すぐにわたくしと同じ能力を求めたりしません。まして、戦闘なんてものはやらなくていい人生ならそれに越したことはないのですよ」
忌玖の言葉にはどんな意味が含まれているのだろうか。ただ単に心配してくれているのとは違う、遠い昔を想うかのような儚い顔。忌玖の過去に何があったのかは聞かない。聞いても、真宵にはどうしようもないから。もし、忌玖の方から何か言ってくれば、真宵は助けになろうと思った。それが、自分のしたいことであり、お返しにもなると考えたからだ。




