我が名は『サロメ』~あなたが笑っていてくれればそれでいい~
多くの民衆が集まった町の広場にて、今ひとりの女が処刑されようとしていた。
そして処刑執行官が罪状と判決文を読み上げる。
「これより、王子をたぶらかし令嬢とのご婚約を破棄させた魔女の処刑を執り行う。罪人よ、神の御慈悲により最後に懺悔の言葉を唱える事を許そう」
「いえ、結構です」
執行官の情けを女は静かに断った。
「ふんっ、所詮悪魔に魅入られた魔女か。神への敬虔すら持ち合わせておらぬのだな。よかろう!首切り人、魔女の首を撥ねよ!」
「はっ!」
斬っ!
振り下ろされた大斧により女の首が宙を舞う。だがその唇は満足そうに微笑んでいた。
実は女は預言者から王子と令嬢が結婚する事によって国が滅ぶとの啓示を受けていたのだ。
但しその呪いは一旦婚約が破棄されると効力が失われる。
故に女は一芝居を打った。それにより国は救われたのだがその事を知るのは預言者しかいない。
しかし女が救いたかったのは国ではなかった。そう、女が本当に救いたかったのは将来この国を受け継ぐ事になる王子だったのだ。
全ては愛する王子の為。その為ならば女は如何様な汚名を受けるのも厭わなかったのである。
その秘めたる思いを知っている預言者は女の魂を天へと送った。
Fin
この世は知らないことだらけ。人の心はその人しか知りえない。だから言葉が必要なのでしょう。
でも言葉って凶器にもなるから難しい。