6話
三度目の遡行で、エドワードの心はもう疲弊しきっていた。エドワードは隣で目を瞑るアリシアの肩を掴んだ。急なことに驚いたアリシアの栗色の瞳をまっすぐに見つめ、エドワードは言った。
「アリシア。――いいえ、アリシア様」
「な、なんですか……?」
急にかしこまった様子のエドワードに、アリシアは固まった。
「――魔女のことを言いましょう」
「……え」
アリシアは驚きのあまり、それ以上の言葉を発することができなかった。
「アリシア様の魔法が有用であると、王国に害を成すものではないと、分かってもらう必要があります」
「し、しかし」
魔女の迫害の歴史は数百年さかのぼる。それまで魔女は普通の人間と変わらぬ扱いを受けていたが、魔力を持って生まれてきたとある女が当時の王を誑かし、国を乗っ取ろうとしたことで、同じように魔力を持って者は迫害されるようになってしまった。
そんな歴史があるからこそ、アリシアが害がないからと受け入れられる可能性は低いとアリシアは思った。
「俺に任せてください」
アリシアは頷くのに躊躇した。愛する彼の言動を全面的に信頼したい気持ちと、どうせそんなことはできやしないという諦念が混じり合い、喉から出る音は言語の形はしていなかった。
「……」
泣きそうな顔で瞑目したアリシアを見て、エドワードは決意の念に燃えていた。
今度こそ。今度こそ彼女のことを救い出せなければきっと彼の心は壊れてしまうだろう。これが最後のあがきになるであろうことは、なんとなくだが彼にもわかっていた。
自分のためにも、そしてアリシアのためにも。エドワードは拳を握りしめた。
◇
しかし。
息巻いていたエドワードをあざ笑うかのように、現実は冷酷だった。
「ああああああ゛――! あ゛ああっ――!」
エドワードは慟哭した。
エドワードは直接国王陛下の下へアリシアのことを上奏したが、結局その思惑は実ることはなく、アリシアの処刑が決まっただけだった。
そして、数刻前、アリシアの処刑が執行された。
その美しい首筋に刃が突き立てられ、赤い飛沫が舞った。
二度もそのような残酷な瞬間を目にしたエドワードはついに心が決壊した。
子供のように泣きわめき、暴れ狂った。
そしてついには短刀を持ち出して、自らの頸に突き立てた。
その瞬間、彼の視界がまた爆ぜた。
次で最終回です。