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1話

 短編にするつもりだったやつを小分けにして投稿していきます。


 中世っぽい異世界の身分差の恋のお話です。ファンタジー要素アリです。

 エドワードは焦っていた。まさにこの瞬間、彼の眼前でアリシアの処刑が行われようとしているからだった。


 エドワードは男爵家の一人息子だった。それゆえに、この処刑を止められるほどの権力は持ち合わせていなかった。……たとえ、エドワードが権力者であったとしても、この処刑を止めるのは難しいだろう。なぜならこれは王命であったからだ。


 魔女は忌むべきもの。それがこの国に伝わる古くからの伝承だった。魔族や魔物と同じように汚らわしい存在であると言い伝えられていた。そしてアリシアは魔女であった。生まれながらにして魔力を持つ人間。そういった者は数万人に一人という極めて小さい確率のもと生まれてくる。


 それがアリシアのように貴族ではなく、身分を持たない平民であったのなら、こうも派手に処刑になどはならなかった。アリシアが平民であったなら、魔力を持っていることをひた隠しにし、人里を離れ山奥でひっそりと暮らしていけばよかったのだ。


 しかし、貴族となるとそうもいかない。社交界に顔を出し、他の貴族と交流するのは貴族としての義務。ましてやそれが容姿の整ったアリシアならば、彼女がパーティーに来ないとなると同世代の令息たちが黙ってはいなかった。


 エドワードもそんなアリシアの美貌の虜になった少年の一人であった。彼にとっては高望みもいいところな恋であったことは彼自身にもわかっていた。アリシアは侯爵令嬢なのに対し、彼は男爵令息。アリシアは高嶺の花だった。それでも彼には彼女を思い続ける理由があった。


 今から10年前、エドワードは登っていた木から真っ逆さまに落ちて、脚の骨を折ったことがあった。それはパッと見ても脚が曲がっているとわかるほどのもので、エドワードは全身の血の気が引いた。アリシアもその場に居合わせていた。アリシアは取り乱すエドワードとは対照に落ち着き払って彼の患部を診た。


そして、「大丈夫ですよ」と涼しい声で言うと、エドワードの患部に奇跡が起き始めた。骨が曲がり、内出血で真っ赤に腫れあがっていた脚がまるで時間を巻き戻したかのように治り始めたのだ。


 魔女だ! とエドワードは叫びそうになった。しかし、咄嗟に伸ばされたアリシアの華奢な手によって口をふさがれた。


「言ってはなりません」アリシアは言った。


 「約束ですよ」と言ってパチリとウィンクをした彼女に、エドワードはポーっと見惚れた表情をしていた。


 こうしてエドワードとアリシアの間に秘密ができた。そこから二人はどんどんと親密になった。親に連れられ晩餐会に参加するたびに、エドワードは侯爵殿にペコペコする父の傍らでアリシアと楽しくおしゃべりするのが恒例となった。そのたびに、自分より位が高い令息たちが歯噛みする様子に優越感を抱いていた。


 しかし、それもアリシアが成人となる16歳の冬までであった。アリシアが王子に求婚されたからであった。アリシアの美しさは年を重ねたことでさらに磨きがかかっていた。エドワードは晩餐会やパーティーで彼女を見かけるたびに、その成長していく美しさに酔いしれていた。しかし、ある日父と彼女の父の会話で、伯爵令息との縁談がまとまったということを聞いてしまった。アリシアと和やかに会話していた彼の口角は凍り付いた。アリシアは申し訳なさそうな笑顔を浮かべて彼を見ていた。


 エドワードは悔しくて仕方がなかった。もしこれが王家や公爵家との婚約だったならば、彼にも素直に諦めがついた。しかしそれが彼女よりも家格の低いところへ嫁ぐということに、彼は憤慨していた。


 アリシアが魔女だと世間にバレてしまったのは、彼女が伯爵家に嫁いでいってしばらくしてからだった。初恋が儚く散ってしまって、鬱屈とした日々を過ごしていたエドワードは、アリシアが魔女裁判にかけられたと聞き全身の血の気が引いた。


 それがふた月前のことだ。そうして事実確認などが行われ、今日この日に処刑が執行されることになった。


 エドワードは目の前で震えるアリシアを見ていることしかできなかった。奥歯を噛みしめ、顔を伏せる彼の表情は般若のようだった。


 そして、とうとうその時が来てしまった。上官が号令を出し、いよいよアリシアの首に冷徹な刃が突き立てられるのだ。上官が右手を上げ、号令を出す。処刑専用のサーベルが降り上げられ、降ろされようとしたその瞬間、アリシアが彼の名前を呼んだ気がした。


 その瞬間、エドワードの視界が爆ぜた。


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