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異世界ナ~ス  作者: 虎娘
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19話➤恩師が残した希望

 卵を前に、私たちは何も言えずしばらくの間無言で佇んでいた。

 

「あれって……卵だよね」


 重たい空気をどうにかしようと私はゼプスへ尋ねた。


「あぁ……。間違いない……。どれだけ探しても見つからないはずだ」


 ――どれだけ探しても見つからない?

 

 私はふと思い出した。以前、ゼプスが話していた縁龍のことを……。

 真相を確かめるため、彼に問いかけてみることにした。


「もしかして、あの卵って……前に話してくれた縁龍、ソアレさんの……?」

「あぁ!あの深緑はそうだ。ソアレの色だ」


 瞳をキラキラと輝かせ卵を見つめる姿からは心の奥底から嬉しいんだろうな、ということが伝わってきた。その横顔をまじまじと見ていると、少しだけむくれた表情のゼプスが言った。


「何をそんなにニヤついている……」

「……嬉しそうだな、と思って」

「嬉しいというのもあるが、ようやく見つけることができたという安堵もある」

「そっか、なるほど……」


 永きにわたり卵の行方を捜していたものの、見つからずに年月だけが過ぎていた。その心配からの解放感は計り知れないものだろう。


 ゼプスはその場で目を閉じ深呼吸し興奮を抑えるようにしていた。しばらくして落ち着きを取り戻した彼は、ゆっくりと卵が置かれている台座に向かって行った。が、ほんの数歩歩いたところでゼプスは足を止めた。


「どうしたの?」

「……いや、私はこれ以上近づけないんだ」

「ん?どういうこと?」

「何か見えない壁でもあるみたいなんだ。……これ以上進めない」


 ――そんなことある?見えない壁って……。


 ゼプスの言葉を信じていない、ということではないのだが俄かに信じがたく、確かめるために私はゼプスの隣まで歩いた。そして、並んだところで今度は一歩、足を進めてみることした。


 ――ん?私自身が見えない壁を通り抜けたような……?


 足に続いて身体を前へ進めると、何かを通り抜けるような感覚を覚えた。見えないバリアを知らぬ間に通り抜けたような、そんな感覚……。


「やはり……」

「なに?」

「いや……これでわかった。……モモは卵に、いや我が恩師であるソアレの子孫に認められているのだ」


 ――認められているってどういうこと?そもそも卵に意思なんて……存在するの?


 疑問に思うことが多く、いまいちピンときていない私だったが、ゼプスの反応を見る限り私には卵と繋がる何かがあるのかもしれないと思えた。


「モモ。卵に触れられるか?」

「ちょっと待ってね」


 私が台座へと近づき、目の前にある卵へ触れようとしたときだった。


『モモ……ワガイノチ……メザメノトキ』


 声が聞こえたと同時に、台座に置かれた卵が光のベールに包まれた。そしてみるみるうちに卵は形を変え、小さな生き物へと変化したのだった。私が両手を差し出すと、産まれたての生き物は小さく丸まった状態で手の平へと舞い降りた。


「赤ちゃん……ドラゴン」


 深緑の卵から孵ったにも関わらず、小さなドラゴンは綺麗な黄緑色をしていた。翼は少し黒みがかっているが、頭から尾にかけては黄緑色だった。


「モモ……卵は無事に孵ったのか?」


 心配そうな声で問いかけるゼプスに対し、私は彼の方へ満面の笑みを浮かべながら答えた。


「うん!見て!すっごく可愛いの!」


 私の表情を見て安心したゼプスがその足で近づいて来た。


「あれ?見えない壁……大丈夫なの?」

「あぁ。今はこうして来ることができた。おそらくだが、卵を守るためのバリア……だったのかもしれないな」

「……ふぅん」


 何はともあれ、こうして探していた卵も見つかり、無事に孵化したのだから一先ず安心できるのではないかとほっとしながら、手の中で眠る小さなドラゴンを見つめていた。


「この子……かわいいね」

「卵から孵った姿を久々に見たな」

「え?卵から孵るんじゃないの?」

「産まれ方は人間と同じだ。……昔はドラゴンの姿で卵から孵っていたのだが、この人型が主流になってからは人の姿で産まれるようになったんだ。ソアレは最期までドラゴンの姿でいたから卵を産んだのだろう」


 卵から孵ろうと、人の子と同じように産まれようと、この世に新たな命が産まれたことに違いはないため、精一杯目の前の命と向き合おう、そう私は心に誓った。


「ところでさ、ドラゴンの赤ちゃんって……何食べるの?」

「母親の乳……なんだが」


 そう言いながらゼプスは私の胸元をじっと見つめていた。


「……ちょっと。私……出ないよ」

「だろうな」


 当然とでも言いたげな返事をするゼプスを睨みつけ、私は階段の方へと向かった。


「モモ、どこへ行く」

「ここの用事は終わったんだし、戻ろうかと思って」

「それもそうだな」


 まだ目を覚まさないドラゴンを抱き、私とゼプスは部屋を後にした。

 階段を上り扉を出ると、不思議な光とともに扉は跡形もなく消えていった。


「え?」

「……役目を終えたからか……。ソアレの思いが我々に届いた故に、ようやく安心できたのかもしれぬ」


 私たちはしばらく無言のまま扉があった場所を見つめていた。


 ――ソアレさん、私にこの子を託して下さったのには何か理由(わけ)があるのでしょうか……。まだまだ不慣れな私ですが、この子の命は守ってみせます!貴女が託した思い、どこまで果たせるかわかりませんが、どうか見守っていてくださいね。


 心の中で決意表明した私の意志を察したのか、小さなドラゴンは身じろぎしながら欠伸をした。

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