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異世界ナ~ス  作者: 虎娘
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9話➤ナ~スの力

 朝日の眩しさで目を覚ました私……。

 いつものように冷たい川の水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばしていると……。


「モモ、おはよう」

「……おはよぉ……ぅ……?」


 何度か聞いたことのある声の主は、いつも横になっている場所には見当たらない……。一体どこから声が聞こえてきたのかと思い、辺りをきょろきょろしていると……。


「むぅ……。モモの目の前にいるではないか」


 そう言いながら私の方へと顔をぐい、っと近づけ少しだけ膨れた声色で話す男性の姿が目の前にあった。


「えぇっと……、……ゼプス?」

「……そうだが」

「私……、夢でも見てるのかな……。ゼプスがヒトと同じように見えるんだけど……?」

「夢ではない……。こうすれば信じるのか」


 するとゼプスは私の両頬をむぎゅ、と掴み少しだけ力を込めて横に引っ張った。


ヘプフ(ゼプス)……はにふるのお(なにするのよ)……」

「こうすれば目も覚めて、私のこともゼプスだと信じるだろ」

いたひお(痛いよ)……」


 気が済んだのか、ようやくゼプスは私の頬から手を離してくれた。私は頬を擦りながら気になることを直球で尋ねた。


「ゼプスって、変身できるの?」

「変身……だと?」

「あれ……。私……、何か間違ったことを言いましたでしょうか」

「……いや、間違いではない。モモは知らぬから仕方あるまいな……。よく聞くがいい。この姿こそ、私の真の姿だ!」


 目の前でどや顔をする凛々しい姿――。

 よく観察してみると、三つ編みで一纏めにされた髪色がドラゴンの鱗と同じ綺麗な蒼色をしており、瞳も透き通った瑠璃色をしていた。背丈は私よりも高く、見た目は人間と変わらないと思っていた……。ただ一つ……、耳の形だけは違っていた。そのことに気づいた私は、無意識にゼプスの耳に触れていた。


「おいっ!急に何をする!」

「あっ……、ごめんなさい……。ちょっと気になって……ついつい」

「いや……私の方こそすまぬ……。急に触られて驚いてしまった」

「見た目、同じかと思ったけど、耳は違うんだね。私の耳は丸いけど、ゼプスの耳は横に長くて……こうシュっとしてる」


 ジェスチャーも交えながら話していると、その姿を見ていたゼプスの表情は穏やかに笑っていた。


「……なんで笑ってるのさ」

「モモに……治癒師でもない者に救われるとは思わなくてな……。まさかこの姿に戻れるとは思わなかった……。ありがとう、モモ」


 お礼を言われるとは思わなかった私は、胸のあたりがむずむずし始め、どう答えて良いかわからずその場で俯いてしまった。


「あんなに威勢が良かったモモはどこにいったんだ」


 大きくて温かい手で私の頭を撫でながらゼプスは言った。


「ちょっと……」


 ゼプスから逃れようとするも、彼はそれを許してくれなかった。ゼプスの気が済むまでしばらくの間、私はされるがままだった。


 ――というか、あんなに怪我して……傷口もまだ……治ってなかった……。


「ゼプスっ!脚はっ?怪我してた左脚は?」


 私の言動を予期していなかったのか、ゼプスの顔を見上げるときょとんとした表情のまま固まっていた。


「あぁ……心配せずともよい。傷はこの通り、キレイに治った」


 左脚を見せるように、アラジンパンツの裾をまくり上げると、ゼプスの言った通り傷は綺麗さっぱりなくなっていた。


 ――いやいや……。あんなに大きな傷……だったんだよ。ゼプシス(敗血症)ショックも起こしてた感じなのに……。栄養も足りてなかった分、体力の消耗は激しかった……。そんな状態で傷が治る……はずない……。


「ドラゴンって……もともと回復能力でもあるのかな…………?」


 小声でぶつくさと言うと、大きなため息をつきながら私の頭をポンポンとしながら彼は言った。


「確かに、私たちドラゴンには人間と違って治癒能力が高い……。だが、あないにまで弱ったままだと治るものも治らんかった……。これも全部、モモの懸命な手当てのおかげだ」

「そっか……私……力になれたんだね」


 ほっとしたのか、これまで我慢していた涙が溢れそうになった私は慌てて腕で目を擦った。


「それはともかく……、モモ、お主……魔力を持っているのではないか?」

「魔……力……?」

「あぁ。お主が食べさせてくれた団子にも、傷の手当てをしてくれた時にも魔力が込められておったぞ」


 ――そんなはずない……。私には魔力がない……って……。


「私には魔力がない……って思ってた。この国の役に立てないと思ってたのに」

「初めは並の魔導師では気づけないくらいの微々たる魔力だったが、今となっては魔導師以上の魔力をお主から感じる。何かのきっかけで魔力は各段に上がるから、それが影響しているのではないか」

「きっかけ……ねぇ。しいていえば……ゼプスの看病……かな。早く傷が治って欲しい、元気になって欲しい……そんな願いをずっと込めてたから」

「……ほぅ。さすがは看護師、とやらだな」


 どこか嬉しそうなゼプスを見て私も嬉しくなり、互いに顔を見合わせて笑っていた。


 ――あのお呪い……効果があったってこと……?気持ちの問題かと思ってたけど、こうも効き目があるとは思わなかったなぁ。小さい頃によく怪我をしていた私に、優しく声をかけながら唱えてくれたおばあちゃんのお呪い……。


 魔力がないと落ち込んでいた私だったが、この先もずっとゼプスの力になれると思った途端、沈んだ気持ちが一気に晴れやかとなっていた。

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