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越後の龍と甲斐の虎~異聞伝~  作者: カイル
狂運
23/38

八話

「そんなに驚くような事だっただろうか」



本陣の中で、信玄と政虎、そして景綱との3人がいた。

先ほどの休戦宣言から、3人は場所を移動して、本陣の中で話している。

どこまで本気なのかとか、何故そんなことをとか、色々である。

ちなみに景家は驚いた家臣たちを静めるために外に居るのだが、未だに静まってくれない家臣たちを一人で相手をしているようだ。



「いや、驚くだろ……」

「驚きますよな……」



政虎と景綱が声を揃えて言う。

少し呆れたように。



「つまり、武田殿は北条が今動きが怪しいので、こちらに戦力を割く余裕がないと……」

「まあ、そういう事だ」

「んで、オレたちも北条とは争いを続けているから、丁度いいんじゃねえかと」

「まあ、そういう事だ」



景綱と政虎が目を合わせる。



「……それは、武田と上杉が手を組むということですかな?」

「いや、それはない」



景綱が少しの希望を持ってその言葉を口にした。

今回の一騎打ちを目の前で見た者なら分かるだろう。この二人が手を組めば、怖いものなど何もないのだ。

東の伊達にしろ、西の織田にしろ、敵ではないはずだ。

だが、そんな期待は信玄のはっきりとした一言で泡に消えた。



「武田と上杉が手を組むなど、ありえん話だ」



そう、きっぱりと。

景綱は目に見えて残念そうな顔をしたが、政虎は何となく分かっていた。

これだけ戦っていて、今更手を結ぶなどとはどだい無理な話なのだ、と。



「まあ、そうだよな。ってことはあれか、休戦も一時的か」

「流石政虎殿は賢しいな。そうだ。まあ双方一年もあれば十分だろう」

「一年……」



政虎は黙り込んだ。

一年。確かにそれだけあれば、北条を牽制しつつ体制を立て直せるだろう。

決して悪い条件ではない。その間、川中島に脅威がなくなるのならば。



「受けては如何ですか、政虎様」



ふいに景綱が声をかける。

政虎は少し驚いたように、景綱を見る。



「景綱?」

「ただし、こちらからも武田殿に条件を出せば良いのですよ」

「条件とは?」



信玄が口を挟む。

景綱が、そうですね、と言って、少し言葉を呑む。



「ではこういうのは如何でしょう。我々は一年の間、休戦をする。その間双方共に川中島に立ち入りはしない、というのは」



川中島は丁度甲斐と越後の真ん中に位置する場所。

戦をするにも丁度良い場所だ。

だからこそ、これまで四度もあの場でこの二人は戦ってきたのだが。



「……ふむ、良いだろう」

「……オレも、いいぜ」



何となく渋々そうではあったが、二人とも休戦書に判を押す。

それを満足そうに見た景綱は、うんうんと頷いて、休戦書を掲げた。



「これで一年、武田殿の軍を心配しなくて良いということですな」

「ああ……」



政虎が、短く返事を返す。

信玄はそんな政虎を目で追った。

そして、景綱に対し、言葉を放つ。



「直江殿。申し訳ないが、政虎殿と二人で話をしたいのだが」



そう言われて内心一番驚いたのは政虎である。

だが、顔には出さず、信玄を一瞥するだけだ。

きっと、景綱は止める。止めてくれる。そんなこと出来るわけあるか、と。

そう思っていたから安心できたのだ。

が、景綱は意外にもあっさりとこう言った。



「そうですか。ではわしは下がりますかの」



と。

政虎は内心ええええええ!?と叫んだが、やはり顔には出さない。

いや、出せなかった。

別におかしい事ではないのだ、休戦を結んだのだから。

一時的な物だったとしても、杯を交わすくらいはあってもいいのだ。

だが、心の中で政虎は思った。

あのジジイ、いつか殺す、と。

だが、そんな政虎の視線に気づかないほど景綱は休戦が嬉しかったのか、嬉々として本陣を去っていった。


そして本陣の中には、政虎と信玄だけが残された。

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