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越後の龍と甲斐の虎~異聞伝~  作者: カイル
狂運
16/38

一話

「いや、しかし武田の軍、もう一押しでしたのになあ」

「我等が有利でしたのにな! しかし今度は必ず勝ちましょうぞ!」

「うむ。こちらには政虎様がおられるのだ。そう簡単には負けはしませぬ! のう? 政虎様」

「……」



三度目の川中島の戦から、早三ヶ月が経とうとしていた。

ここは上杉政虎が治める地、春日山城。

またしても決着のつかなかった、上杉、武田両軍は兵を引き上げ各々の領地へと戻っていた。

そして戦死者の喪が明け、久々にここ春日山城でも宴会が行われていた。

だが、この城の主、上杉政虎の顔は暗かった。



「どうなさいました? 政虎様。食が進まぬようですが」



そう言って、家臣の直江景綱が心配そうに政虎の顔を覗き込む。

政虎は、景綱の方に一度目を向けたが、いや、と一言言って、また持っている杯に目を戻す。



「少し、気分が悪くてな」

「何と! 大丈夫でございますか? 政虎様は少々酒の量が多いのでは? 飲みすぎなのですよ、酒も適量を飲しませんと……と……?」



そう言って、呆れたように景綱が政虎の横にある酒瓶を持ち上げる。

だが、その中身は重くずしりとしていた。

そう、政虎は久々の酒だというのに、一口も飲んでいなかったのだ。



「ま、政虎様……どうかなさったのですか? 貴方様が酒を飲まぬなど……」



驚いた景綱は政虎に詰め寄って聞く。

その言葉に先ほどまでがやがやと話していた他の家臣たちも政虎に向かい直る。

あの政虎が、酒に口をつけていない。

それはこの上杉の家臣たちにとっては想像だにしない出来事だった。



「どこかお悪いのでは!? 薬師を呼びましょうか」

「いや、いい。ホント何でもねぇんだ。気にすんな!」



そう言って皆に笑い返す。

だが、皆、心配そうな顔をして政虎を見返す。

それほどに政虎が酒を飲まないという事実は驚くべき事だったのだ。



「おいおい……そんな顔すんなっつーの。オレだってたまには飲みたくねえ日だってあるんだよ。ま、体調なんてよ、寝りゃすぐ治るし。それより久々の宴だ! 皆飲め飲め~~!」



政虎ははやし立てる。

その政虎の様子を見て、家臣たちも気にする程ではないと思ったのだろう、笑顔を見せながらまた宴会へと戻る。

その姿を確認して、政虎は座る。

だが、酒に手はつけない。

そして、食事にも手をつけない。

景綱一人だけが、そんな政虎に不信感を持った。






その数日後、政虎が次の戦について家臣たちと戦略を練っていた。

その時に、軍議に参加していなかった家臣の一人が、ばたばたと慌てて走りこんできた。



「どうした、騒々しい」

「すみません、直江様!」

「良い。どうした?」



景綱の言葉を制し、政虎がその家臣に尋ねる。

すると家臣の口からは思いもよらぬ言葉が出てきた。



「虎御前様がお見えにございます!」



この台詞を聞き、政虎は目を丸くした。




虎御前ーーその名は、政虎の母のものであった。

普段は政虎が昔城主を務めていた地、栃尾城に住んでいる。

春日山城に来るように何度も政虎は要請したが、虎御前は聞き入れなかった。

そんな母が一体どうしたのだろう。

政虎はそう思い、虎御前が待つ部屋に急ぎ足で向かった。

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