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異世界令嬢

可愛がっていた後輩に惹かれてしまった婚約者が別の縁談を持ちかけてきました。

 アタイ! ではなく、わたくしの名前はペルケ・ペルケケン。


 このドーヘワ王国の貴族、ペルケケン家に生を受けた子爵令嬢でござあます。

 人からは、「ノーザンライトボム」やら「フランケンシュタイナー」などどからかわれる事もございますだ。


 そもそもにして我がペルケケン家とは…………なんて説明しても仕方ないですのことよね。


 では早速の本題へゴーでありやす。


「ペルペル! 貴様との婚約を破棄させて貰う!!」


 数日後に結婚式を控えたある日のこと、婚約者であるそのお方はわたくしの住まう屋敷を訪れると開口一番にそのようなことを申されました。


「はへ?」


 思わずすっ頓狂な声を出してしまいまして、お恥ずかしい恥かしい。


「本当にごめんなさい先輩! ですけれども、私は自分の思いをこの胸の内にとどめておくことはできません! とどめておくには思いが重いかなって。ちょっと口からうぇって吐き出したくなっちゃう程に止められなかったんです!」


 そうおっしゃるのは、学園の後輩にあたるトイーモさん。わたくしが実の妹のようにそれはそれは可愛がっていた女の子でしたのよ。おほほ。

 そんな彼女が、わたくしの婚約者の隣に立って、このわたくしに向かって婚約の破棄をお願いしに来たのでがす。


「婚約者の貴様がいる身で他の女性を見初めるというのは、本来ならばあってはならんことだろうが、貴様ならば問題無しと判断して婚約を破棄させて貰うぞペルペル!!」

「『道ならぬ、恋の田畑に、燃ゆる春』という感じなもんで……どうでしょう?」

「う~ん、三七点ですの。もうちょっと捻りが欲しいと言いますか『恋の田畑に』の部分を入れ替えてみましょう。『田畑の恋に』みたいな感じにすると多少は玄人感が出せるのではありませんの?」

「なるほど……! さすがです先輩!!」


 尊敬のまなざしを向けられると、どうしてこうも気持ちが良いのでしょうか。


「いや、そんなことはどうでもよいのだ! ペルペル、貴様認めてくれるな?」


 再度問いを掛けてくるのは、学園でも一、二を争う美丈夫と名高い公爵家のダンダーリオット・タナ・カー・ジョン・ドゥーイット様でございます。


「しかしタナ様。婚約とはお互いの家同士での繋がりでもあるわけで、わたくしの一存では決められることではごじゃりんせん。一度両親に相談させて頂いてもよろしいですの? それくらいの時間なら待ってくれるわいね? ね?」

「ふん、良いだろう。俺は気が長い方だからな。いつまでも待っていよう」


 こうしてわたくしは一旦自室に戻ると両親へと相談しました。


「うんいいんじゃない」

「はい」


 戻ってきました。


「『うんいいんじゃない』との事であました。というわけで今日からわたくしとカー様は全くの完全なる赤の他人ということになります。トイーモさん、お幸せにね。……じゃあジョンもこれでコトが済んだのだからとっとと回れ右してお帰りくりゃしゃんせ。へいへい」

「ありがとうございます先輩……! 私、先輩の御恩は一生忘れません! 子供が出来たあともキッチリと先輩の雄大さを語り継がせていく所存です! あーしたッ!」

「代わりといってはなんだがペルペル。貴様に縁談を持って来てやったぞ、相手は救国の魔王とも名高い男だ。俺の代わりとしてこれ以上の代打は無いな」


 ダンダンの言葉に思わず戸惑ってしまいました。

 救国の魔王とはあの、どのような相手も沈めてきた百戦錬磨のあの救国の魔王の事でしょうか? この間の遠征でまた賞を獲得したとかしなかったとか。一ファンとしてつい嬉しくなって飛び跳ねてしまいましたわ。


「あらまあ本当でありますか!? それは是非ともサインが欲しいですわ!! ありがとうございますダンダン、愛しておりましたわ!!」

「その愛は先祖代々の墓場まで持っていこう。……さあこれで貴様と次に会う事も結婚式ぐらいしか無いだろう。さらばだ!!」

「式場はそのまま流用になると思います先輩。でも、先輩の好きなお料理を一杯手作りしますから楽しみにしてくださいね!!」


 こうして、このわたくしペルケは彼のお人こと、シグナス・リード・アヴェニス・プリマベーラ様の元へと婚約に赴く事になりましたのです。


 ◇◇◇


 朝食を食べた後、朝のジョギングを済ませてシャワーを浴び、紅茶を四杯飲んで彼のお人の元へ旅立ったわたくし。

 お昼前に到着した際にお屋敷に到着した際、その立派さに目を点にしてしまいましてぞな。


「わあ、綺麗! まるで採れたての新鮮な卵のようで艶のある優美さでござい!」

「……なんでいきなりそんな例えが出てくるんですか?」


 出迎えてくれた使用人の女性が呆れたような声を掛けてきました。


「これはこれは失礼を。では改めてこれから失礼させていただきますね」

「こらこら、勝手に入っては駄目ですよ。あなたがペルケさんですね?」


 お屋敷の中をキョロキョロと見渡していると、使用人の女性に止められてしまいました。出鼻が手折れてしまいやした。


「はい、わたくしことペルケ・ペルケケンとはわたくしですわ。そういう貴女はどちら様でございましょうか?」

「ええはい、このお屋敷に仕えさせて貰っておりますメイドのリアナンと申します」

「そうでしたか。よろしくお願いいたしますわね、リアナンさん。わたくしの事は気軽にペルペルと呼んでくださって結構ざんす」

「はい、分かりましたペルペルさん。では早速ですが旦那様のところへ案内致します。迷子になれないようにきちんとついてきてくださいね」

「あたぼうですの」



「あれ? 此処はどこですかしら?」

「言ったそばから……」


 さらに数分後。


「……と言った具合で婚約を破棄されまして。ご両親も構わないとの事で、今日馳せ参じた所存でございますの」

「あらそうなんです? それはそれは一風変わった経緯ですね。……と、ああ此処です。こちらが旦那様のいらっしゃるお部屋になります」


 まあ、立派な扉で。いつもこのような扉を通っているだなんて、やはり立派なお人なのでしょう。


「旦那様、ペルケ・ペルケケン様がいらっしゃいました」

『あ、どうぞ。勝手に入って下さーい』

「はい、失礼します。ではペルペルさん」


 リアナンさんが扉を開けるとそれにわたくしも続きました。


「あぁようこそ遠路遥々。僕はシグナス・リード・アヴェニス・プリマベーラ。一応は貴方の婚約者になる予定の男です」

「初めまして。わたくしはペルケ・ペルケケンと申しますの。よしなによしなに。よしなについでにサインを頂けませんか? ファンなんどす」

「いやいや、サインはちょっと勘弁してください。サインは流石に」

「あら残念」

「さて、とりあえずお茶でも飲みながら話を聞かせて頂きましょうか。ささ」

「はい、お言葉に甘えちゃうんですの」


 しかし、人生とは奇縁なものでして、まさかあのドラゴンレースの覇者がわたくしのお相手の方だっただなんて、いったい誰が予想できたことでしょう?

 辺境伯の生まれで幼い頃からレースに青春を燃やしてきたお方。この方のお陰で斜陽と化していた我が国のドラゴンレースが息を吹き返したといっても過言ではありませんの。デビュー以来公式戦で今だ負け知らず、正しく救国の魔王ですぞ!


 そんなチケット倍率右肩上がりの御方と縁が出来るなんて、不思議……。


 ◇◇◇


 それからの日常はまさに目まぐるしい毎日。

 シグナス様に喜んで頂こうと、リアナンさんに屋敷のお仕事を教えて貰いました。

 自室の掃除ぐらいしかした事の無いわたくしにとっては中々にクタクタの連続でありあした。


「ああ!? お洗濯用の洗剤が!!」

「あらぁ、真っ白になられて。このままお風呂に行きましょうか」


 それでも、日々これ研鑽でござあます。


「や! はぁ! とぉ! 御覧下さいリアナンさん、目玉焼きがこんなにも」

「見事、真っ黒でございます。このまま旦那様にお出ししましょうか」


 そんな忙しくも楽しい日々が充実に過ぎて行くんでしてざんす。



「ふぅ……、今日は朝から随分と冷えちゃいますわね。あら? あそこに見えるのは……シグナス様?」


 お屋敷から少し離れた丘の上でシグナス様の姿を見つけました。


「……ふう、もう春がとはいえまだまだ寒いな。……ん? 誰かいるのかい?」

「シグナス様、わたくしですわ」

「ペルペル殿……どうしてここに?」

「お散歩ですわ」

「そうですか……、実は僕もです。この丘から見える景色が好きでね、時間がある時はこうして一人で来るんですよ」


 な~るほどほど。シグナス様はとっても情緒のあるお方だったのですのね。わたくしの想像通りの方で喜びでありやす。


「では、このペルケめもご一緒させて頂いちゃってよございますか?」

「はは、もちろん! ……でも、僕でよかったのかい? リアナンと一緒の話が弾みそうだけど」

「彼女とは昨日も今朝もたっくさん話をしてしまいましてござい。せっかくの機会ですので今日はいっぱいシグナス様とお話がしたいのです。……ダメにありますか?」

「まさか! さっきも言ったけどもちろんさ。僕はどうも駄目だな、言葉のキャッチボールが苦手なんだ。退屈かもしれないけど、出来る限り一杯話してみるよ。僕のトークトレーニングに付き合ってくれるかい?」

「イエッサー!」


 お互いの事を知る楽しい有意義な時間でしたの! お互いの好きな食べ物から眠る時の行動まで、ぐっすり眠れないのが最近の悩みだとか。

 ですから言って差し上げたのござあます。


「へいへい! 眠れないのが辛いだって? そいつぁ……寝る前に二時間も本を読むのを止めればよいのでは?」

「……まぁそうなんだけどね」


 それはそれは楽しい時間でしたの。

 

 ◇◇◇


 数日後。

 ついにやってきましたのはダンダンとトイーモさんの結婚式。

 しかしやってしまいましたわ寝坊ざんす。


「やっちまいましたの!!? これでは到着した時には式をおっぱじめてますわ!!」

「あらま。でもご安心下さいペルペルさん、外にドラゴンを待たせております」

「ま、まさかそれはあの?!」

「はい、旦那様と共に幾たびの賞を勝ち取ってきた相棒――ディトラッカーです」

「ひゃっほーいですわ!!」

「さあ、身支度を整えて。旦那様もお待ちです」

「ラジャーでがす!」


 リアナンさんに促され、怒涛の勢いで髪を整え肌を整え、ドレスを纏って外へとすっ飛びました。


「やあペルペル殿。用意は済んだかな? では行くよ。この子はじゃじゃ馬だから振り落とされないように気を付けてね」

「あたぼうですわ!」


 あぁ! これが数々の伝説を打ち立てて来たドラゴンレース界の至宝、ディトラッカー!! その雄姿に圧倒されてしましますわ。


「それじゃあ行こうか。目指すは新郎新婦の元だ」


 シグナス様がそう言うとディトラッカーがゆっくりと羽ばたき始めました。


「いぃぃっやっはぁぁぁぁあああ!!! ですわぁあ!!!」

「あんまり喋ると舌を噛むよ?」

「あう!?」


 なんと、式場までかなりの距離がございましてなのに、ものの数分で到着ですぜ!



 懐かしい……。最後に来たのは一月程前でしょうか?

 建てられたばかりで、煌びやかで。どのような教会よりも立派に見えたものですの。

 

 この公民館。

 

 お庭には既に色とりどりの料理がテーブルに並んでおいでですわ。

 学園の皆さんも沢山。ここは挨拶しなくては、トイーモさんの一番の先輩の名が廃るというもの。


「皆様ぁ! 今日はダンダンとトイーモさんの結婚式にお集まり頂きまことにくるしゅうないですわぁ! このペルケ、二人の門出を祝うべく馳せ参じましたの。ささ、皆さま方、どうかごゆるりとおくつろぎになって下さいましぃ」

「おいおい、だったら遅刻するなよ」

「これはこれはスズキさん、全くお恥ずかしいこってお寝坊なんぞしちまいましたの」

「はは、相変わらずだよね」

「これはこれはホンダさん、そう相変わらずのわたくしはいつも通りのわたくしでございますでごん。そうそう、こちらにおられる方はわたくしの婚約者のシグナス・リード・アヴェニス・プリマベーラ様ですの」

「初めまして、シグナスです。いやぁ、この度は……」


 などと皆々様に挨拶周りを欠かせないわたくし、先輩冥利に尽きますわ~。

 しかっし、このテーブルの料理達。見事にわたくしの好物ばかり、流石はトイーモさん。気が利きすぎでありあす。じゅるり……。


「せんぱ~い!」


 お、噂をすればなんとやら。

 ウェディングドレス姿でドドドドとこちらに向かって走ってくるトイーモさんを発見です。


「やっと来てくれましたね! いや~もうすぐ式なのにいつまでも来ないもんで、心配してしまいましたよ」

「可愛い妹分の晴れの舞台、遅れるなんて滅相もないこってすの」

「さっすがペルペル先輩! それでこそ先輩です!」

「えっへん! もっと褒めるざんす」

「ひゅ~! いかすぅ!」

「うぇへっへっへ」


「そろそろ時間だぞ。ペルペル、お前には特等席を用意してあるからな」


 公民館からひょっこり顔を出して来たダンダン。

 さて、式が始まりますわ。

 今日の為に考えたスピーチ。ふふふ、気合が入ってしまいましてござい!


 勇み足で公民館に入ろうとした時であました。


「その結婚、待ちたまえ!」


「なんざんしょ?」


 突如会場内に鳴り響いた若い男性の声。

 振り向きそちらを向けば、あら? あのお方は何処かで……。

 いまいち思い出せないので近くに居たベスパさんに尋ねてみもうした。


「ベスパさん、あの殿方を何処ぞで見た覚えがある気がするようなしないような」

「うぅん……。あ! あの人確かエルグランド家のリオさんじゃないか。こんなところに何の用だろう? 招待客の中にいなかったはずだけど」


 エルグランド家といえば、国の中央区に屋敷を構える侯爵の位では?

 でもリオさんは家庭教師に勉強を教わっているので学園に通っておらず、接点を持つ人はここに居ないのに。はて?


「やっと突き止めたぞ! まさかこのような場所で貴族が婚姻の儀を執り行うとは、全くの予想外だったが……。ペルケ・ペルケケン! ドゥーイットの男の婚姻など止めるんだ! あの男、既に別の女性に心を奪われているとの噂がある不徳の男。君に相応しいはずがない!!」


「えぇぇ……、いつの話をしてるんだ彼は。今日はその女性との結婚式だよ」

「誰も連絡先なんて知らないからこうなったんちゃうん? てか、そもそもあん男の知り合いなんて一人もおらんし」

「迷惑だな、もう式が始まるぞ。仕方ない、つまみだすか」


 会場内の招待客の皆さんから、不満の声が続出してあます。

 それに気づかず、彼の殿方は興奮してさらに続けます。さながら舞台役者のような振る舞いには思わず拍手を送ってしまいますの。

 パチパチパチ。


「おお、ペルケ! 君は俺の事を歓迎してくれるのかい! 素晴らしい、やはりこの俺の伴侶となるべきは君以外に有り得ないな! 式当日に花嫁をかっさらう……。このシチュエーションは神が与えた二人の贈り物なのだな!!」

「はぁ? ちょっとあんた! 外がうるさいから飛び出して来ちゃったけど、勝手にふざけた事言ってんじゃないの! つか呼んでもいないんだからとっとと家に帰ってクソして寝てろ!!」

「なんだこの下品な女は!? 何故君のような女性がそのようなドレスを着ているのだ?! まさか、ペルケからドレスを奪ったか! 似合わない!! 脱ぐんだ!!」

「きゃあ変態!!?」


 ありゃま! トイーモさんが出て来てリオさんと取っ組み合いを始めてしまいましたわ。これはお止めしないと。


「お止めなすってお二方。ほらどうどう」


 わたくしはトイーモさんを引きはがして、興奮を抑えるように促してありんす。


「ふしゅー! ふしゅー!」

「まぁまぁ興奮をなさらないでトイーモさん。そんな姿は貴女には似合わなくてよ」

「でも先輩! こいつがあまりにもふざけてて……!」

「わたくしが説得を試みるんでして。貴女は中へお戻りなさいな」

「おお! ペルケ! 君はこんな無礼な女性にも優しさを振りまいて……! 素晴らしいよまったく。さあこんなところは飛び出して、もっと君に相応しい王立教会で俺と式をあげようじゃないか!」


 あ、もしかしてこの殿方はわたくしと結婚したいのでは? しかしいけません。もう既にお相手がおりゃりんせ。


「なんやあいつ? ちょっと頭パーちゃうか」

「ちょっと警備の人間を呼んでくる。あの手の手合いは説得でどうにか出来るものじゃない」

「ちょっとちょっと!? さっきその辺見て来たけど、変な甲冑来た人達がいたよ!」

「エルグランド家お抱えのプライベート騎士団か。めでたい日だっていうのに訳の分からないコスプレ集団に取り囲まれるとは」


 いけませんわ。他の招待客の方々に不安が広がっておます。

 ここはやはりわたくしが説得しなくては!


「リオさん。あなたは「貴様!! 呼びもしないのに人の結婚式に乗り込んでくるとはどういう了見だ!!?」あ、ダンダン」


 公民館の中からタキシード姿のダンダンが飛び出してきましたわ。

 怒り心頭なご様子。頭から湯気が見えております。


「ダンダーリオット! 君にペルケは相応しくない、この俺がもらい受けに来た。君は精々そこの下品な女で大人しく手を打つといい」

「なんですってェェッ!!?」

「落ち着けトイーモ。……俺にペルペルが相応しいかはともかく、貴様に相応しくないのだけは間違いがないだろう。さっさと帰ってクソして寝てろ」

「なんと下品な言い回し……! やはり君に相応しくないな」


 おっと、ダンダンの登場で出鼻が挫かれてしまいましたが。これはいい加減にわたくしが納めなくては。


「落ち着きなすってダンダン。リオさん、わたくしは「あの、すいませんが」シグナス様!?」


 なんと、今度はシグナス様に割って入られましたの。こりゃあびっくらこきましたわ。このような荒事に関わる方では無いと思ってましたので。


「今は式の前で皆さん気が立っています。並々ならない事情があるとお見受けしますが、どうか式が終わったあとに改めて話し合うという形で」

「それでは遅いのだ! そもそも君は誰だ? 関係の無い部外者は黙っていたまえ!」

「いや、関係無くはないので申し上げたんですが」

「ええい! この俺に楯突くとは、君も彼女と俺の仲を裂くつもりなのか?!」

「いや、裂くも何も彼女とは」

「ええい! この俺に食って下がるとは、仕方がない。エルグランドナイツ! 出ませぇい!!」


 その掛け声と共に、敷地の外に居たらしい騎士団の方々がぞろぞろ入って来ましてごん。もう、そんなにお人が入る程お庭も広くありませんのに。明らかに入り切れていないでござあます。


「こうなったら実力を行使させていただく! ペルケ以外の者達は丁重にお帰りいただく!」

「なんやとごらぁ!? ええ度胸やんけ、だったらこっちも遠慮なくいてこましたるわい!!」

「結局こうなるの。いや二人の門出とペルペルちゃんの為だ、やるぞ!」

「先に喧嘩を仕掛けてきたのはそちらだ。大義名分は我らにあるぞ!!」


 不味いですの! 一触即発とはまさにこの事でありやす。


「グルルルル……!」


 ディトラッカーも興奮のご様子。

 せっかくのおめでたい日なのにこれではいけませんぞな!


「お待ち下さい皆々様! ここは双方の代表者を一人決め、その勝敗で全てを決めるなど如何でござんしょ?」

「むぅ……。しかし、ペルペル。その代表には誰が? いや、やはりここは俺が行こう。自分達の式を邪魔されているからな。貴様に対するつまらんケチをいつまでもつけさせる訳にはいかん」

「ダンダン……。いえ、その心配は無用ですわ。何故なら、このわたくしが代表としてお役目を果たす所存!」

「な、なんだって!? ペルケ、正気なのかい? だが、俺は君を傷つける事は出来ない」


 どうやら向こうの代表はリオさんのご様子。

 では速攻で終わらせるとしましょう。わたくしも流石に鶏冠に来ております故!


「そちらが来ないのなら一瞬で終わらせちまいますの!! はぁあ!!」

「え?」


 わたくしは勢いよくジャンプ! リオさんのド頭に乗っかって、両足でロックであます!


「はいぃぃぃ!!!」

「ぐほぉ!!?」


 そっから目いっぱいにバク転にござい! 見事! 空中を舞うわたくしとリオさんのお体! リオさんは受け身を取る事も出来ずに地面にぶちゅうですわ!!

 そしてそのままわたくしは華麗に着地。会場内に拍手が巻き起こりますの。


「おお! 相変わらずお嬢のフランケンシュタイナーは見事やな!」

「ボクは前に暴漢に使ったノーザンライトボムも好きだけどね」

「いやいや、学園に乗り込んで来た不良の三半規管をズタズタにしたローリング・クレイドルも捨てがたい」


「ぐ、ぐふぅっ。見事、だ……ぜ」

「お坊ちゃまぁ!!?」


 満身創痍のリオさんは御付きの人達に抱えられて会場から出て行かれました。

 少々やり過ぎたかしら。


「はぁ、凄いなぁペルペル殿は。僕なんて何の役にも立たなかったよ」

「そのような事はありませんわシグナス様。わたくしが出ていけたのも、貴方様が諫めようとしてくれた事が切っ掛けですの。わたくし、あの時のリオさんの対応に思わずカチンときちゃったのでげす」

「先輩! かっこよかったですよ、もう感激です!! でもあんな勘違いストーカー野郎にはもっときっつくジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドでもぶちかましてやればよかったと思います!」

「まぁ! でもこれで危機は去りましたわ。早く式を再開しなければ」


 そうして、つつがなく結婚式は進み、


「ではその唇、今日を以って俺のものとさせて頂く」

「バッチコーイ!」

「ひゅ~ひゅ~! ですの!」

 

 ブーケトスを迎えました。


「せんぱ~い! そぅれっ!」

「あ! っとっとっと。ふぅ……。もうトイーモさん、ブーケトスは平等でなければなりませんのよ?」

「みんなに相談してから投げてるから問題ありませ~ん!!」

「まぁ!」


 ◇◇◇


「いやはや、彼女は随分と慕われているのだね。みんなペルペル殿の周りに集まって騒いでいるよ」

「当たり前だろう。ペルペルはこの俺が憧れた元婚約者だぞ?」


 昼の公民館の庭先では、数多くの料理が並べられている。そのメニューは全て新婦であるトイーモが考え、彼女が主導となって手作りしたものばかり。

 ペルケはその味に舌鼓を打ち、満足気に顔をとろけさせている。

 そんな彼女の周りでは、新婦であるトイーモを始め、学友達が集まって今日の暴漢退治についてで話が盛り上がっていた。


 その様子を少し離れたところで観察する男が二人。

 新郎であるダンダーリオットと――その遠い親戚であるシグナスだ。


「憧れとは? 大体どうして彼女との交際を止めてしまったのか理由を聞いていなかったけど」

「俺はペルペルを好きだ。その気持ちは嘘では無く、今も陰りは無い。だが、いつの頃かその気持ちが愛とは別のものとは違う事に気付いたのだ。見ていて飽きない面白い女。あの女を眺めているだけで満足している自分がいた。そんな時俺とほぼ同じ感情を持ったトイーモと知り合った。ペルペルの後輩だと話は聞いていたが。彼女は言った『貴方も先輩を推しているのね』とな。それで自分の感情の正体に気付いたのだ。これでは駄目だと思った、不誠実であると。それと同時に同好の士としてトイーモに惹かれてしまった。それが婚約を解消した理由だ。が、もっとも、正式に婚約を破棄するまでトイーモとは手すら握った事も無かったがな」


 はっはっは。そう笑うダンダーリオットを、シグナスは不思議なものを見る目で見つめた。

 彼の知るダンダーリオットとは、どこか傲慢ですらある自分主体の面を持っていたからだ。恐らく、それを変えてくれたのがペルケなのだろうと思った。


「でも、僕は彼女の婚約者として相応しいのだろうか? ペルペル殿はすごい、レースしか取り柄の無い男はつまらないんじゃないかとも思う」

「そんな事は知らん。だが、俺よりもあいつの隣が相応しい男は貴様以外には知らんな。少なくとも、ペルペルのあの笑顔を見る限りは、つまらない生活は送ってはいないんだろう」


「二人とも~! こっちに来て御飯を食べましょうですわ~!」


「さて行くか。貴様もいつまでもクヨクヨと悩むなよ。レースの上での貴様はいつも無敵だった。その時の心持ちがあれば、ペルペルを真に射止める事も出来るだろう」

「言ってくれるなぁ。でも、頑張るしかないか。……彼女に一目惚れしちゃったなんて、恥ずかしくて君以外には言えてないしね」


 男達は口元をクスリとさせ、互いに肩をすくめた。


 今日、一つのカップルが幸せを手に入れた。


「ペルペル殿、君は楽しんでいるかい?」

「はいざます! わたくし、人生で今が一番楽しいでござりゃんせ!」

「はは。……うぅんこの楽しさに勝つのは厳しいか。いや、強敵程ぶつかっていかないとね! 無敵で行くぞ!」

「おお! なんだか知りゃしませんが、カッコイイでござあますシグナス様!」


 そしてまた、新たな恋が実り始める……のかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。




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