表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

この良俗に反する書物が俺の趣味だと誤解を受ければ、それ即ち変態シスコン野郎と勘違いされると同義ではないか!

 場所は学校、俺のクラス。

 

 時は朝、まだ始業前だ。疎らに数人が席に座ったり談笑をしているが、大半は来ていない。


「はよーっす」


 落合(俺のクラスメイト)が登校してきた。スクールバッグを背負って、手には大きな茶色の紙袋を下げている。


「よートウヤ。言われたもの持って来たぜ」


「ありがとう」


 落合が俺の机に紙袋を置く。袋の中身は『ジョジョ』の略称で親しまれている漫画の単行本だ。

 この『ジョショ』というのが巷で流行っているそうで、どんなものなのかと興味本位で知り合いに話を振っていたら、落合が親切に本を貸してくれる運びとなった。


「俺第7部が好きだからさ。まずは7部持って来たぜ。全巻揃ってる」


「第7部? その最初から、第1部から読まなければ物語の筋がつかめぬのではないか?


「大丈夫。ジョショって一部ごとに話が基本完結してるんだわ。どこから読み始めても問題なし」


「そういうものか」


「で、これは頼まれてないけど、俺が最近ハマってるから持ってきたやつ。マンガじゃねーけど」


 そう言って落合がバッグから取り出した1冊のペーパーバック。表紙には可愛らしい女の子のイラストが描かれている。


 このあと落合からこのペーパーバックの物語のあらすじを聞いたわけだが、


 このような良俗に反する書物が家族に発見されてしまったら、俺はカリンちゃん(俺の妹)から侮蔑の眼差しを向けられることになるだろうが!?


 勧めてくれた落合には悪いが、このペーパーバッグは持ち帰ることが出来ぬ!


 ――――――――

 ――――――――――――


 ~~カリン視点~~


「トウヤ先輩の部屋ってこんな感じなんだ! 初めて入る!」


「そもミユキ(あたしの友達)が家遊びに来たのが初めてじゃん」


 場所はあたしの家、トウヤの自室。学校終わってからミユキが遊びに来て、「トウヤ先輩の部屋も見てみたい!」と言ってきたので案内した。


 トウヤは今家にいない。


『俺コンビニ行くけどカリンちゃん何か買ってくるものある?』


『んー特になし』


『はいはい! ミユキは焼きそばパンがいいです!』


『お前には聞いてないが? お腹空いてるならおかし食べていいよ。アルフォートとかある』


『大丈夫です! ミユキはただ先輩をパシらせたいだけなので!』


『舐めた口利いてると潰すぞクソガキ』


 といった経緯があってコンビニに出かけている。


「ふふふ! 私、男子の部屋に来たらやってみたいことがあったんだよね!

 ズバリ、エロ本探し!」


「普通家族いる前で家探しとかする?」


「いやいや、探すのはエロ本だけだから! カリンも先輩の性癖とか気になるでしょ?

 私的にはベッドの下とか怪しいと思うんだよね!」


「あー、そこにはない」


「へ?」


「ベッド下の収納には服しか入ってないよ。下着とか」


「……ホントだ」


 ミユキがベッド下の引き出しを開けても、入っているのはワイシャツや靴下などばかり。


「じゃあ、机の引き出しかな? 鍵ついてるところ!」


「そこに入っているのは小学校と中学の卒アル」


 ミユキがどこからともなく取り出した針金でピッキングをする。

 引き出しの中にはあたしが言ったとおりに卒業アルバムが2冊。


「マジだった……。 ? でもこれ先輩のじゃなくてカリンの卒アルじゃない?」


「トウヤのはあたしの部屋にあるからね」


「なるほど?」


 あたしたちがトウヤの部屋でわちゃわちゃやっているとママ(珍しく家にいる)がやってきた。


「……二人ともトウヤの部屋で何やってるの?」


「おばさんこんにちわ! 

 トウヤ先輩エロ本持ってないかなって探してました!」


「親に向かってエロ本探しを初手COするのやめてほしいな」


「ダメよ。勝手に人の部屋を家探しなんてしたら。

 ……面白そうだから私も参加していい?」


「おばさんノリいいですね! 最高です!」


 兄貴のエロ本をママと探すとか普通にイヤだな。

 出てきたのが兄妹モノの同人エロ漫画とかだったら空気最悪になるじゃん。


「でも、最近の子ってそういうエッチなのはスマホとかで済ませちゃうんじゃないの?

 だとしたら、エッチ本がそもそも無いということも考えられるわね」


「トウヤのスマホとラップトップの履歴にはアダルトコンテンツの形跡がないから、何らかの紙媒体でその、えっちなやつを持ってる可能性はあると思うんだけど……」


「え゛! カリンなんでトウヤ先輩のスマホの履歴とか知ってんの? ちょっとキモい……」


「え、キモいかな……」


「兄妹なら普通じゃない? 私も高校生の頃は兄がどの女と繋がってるか、連絡先は全部把握してたし」


「普通……普通なのかな?? ミユキは一人っ子なのでわかりません!」


『ただいまー。おーいクソ書記ー(ミユキは兄の生徒会で書記をしている)、焼きそばパン買って来たぞー』


 部屋の向こうからトウヤの声。もう帰ってきた!


「ヤバいね。バレる前に退散しよう」


「う~! 全然探せてないし、物足りない! ……おや?」


 トウヤに気づかれる前に部屋から出ようとしたところで、ミユキが何かに気が付いた。


 それは机の横の床に置かれた紙袋。


 中を覗いてみると、漫画がぎっしりと何冊も入っている。


「これなんだろう?」


「さあ? 昨日まではトウヤの部屋になかったけど」


 あたしも気になって中身を改めるが、それらは全て少年漫画だった。


 ――ただ一つ、黒い袋に覆われたモノを除いて。


「おい二人とも、俺の部屋で勝手に何をしている」

 トウヤが部屋まで来てしまった。


「先輩おかえりー! 先輩がエッチな本持ってないかチェックしてたよ!」


「泣かすぞ小娘が。……えと、なんで母さんもいるの?」


「トウ君がエッチな本隠し持ってないかなって思って、探してたよ」


「……あそ。言っておくけど、俺はそういう本を買ったことがないから持っているわけが――」


 トウヤが話の途中で言葉に詰まる。視線の先にあるのはあたしが手にしている黒い袋。


「……カリンちゃん。今カリンちゃんが持っている袋。あまり人に触られたくないんだ。大事なものだから。返してくれるかい?」


「もしかしてエロ本?」


「な! ちちち違うが!?」


 めちゃめちゃ動揺するじゃん。


「! カリンの姉御! トウヤ先輩の焦り様、もしかして、これがエッチ本なんじゃないですかい!?」


「可能性あるね」


「ないから! てかマジでそれが家族に見られたら生きていけない……ホント返して!」


 家族に見られたら生きていけない……。まさか!


「エロ本はエロ本でも、兄妹モノの同人エロ漫画!?」


「母子相姦モノの官能小説かもしれないわ!」


 母子相姦モノは嫌だな……。


「くそ、こうなれば強硬手段も辞さない! カリンちゃんごめん!」


「きゃ!」


 トウヤが飛び掛かってきて、あたしはトウヤのベッドに押し倒された。

 うわ、顔近い。てか布団めっちゃトウヤの匂いする。

 トウヤってまつ毛長いな。今心臓の音ヤバいかも。


 トウヤに押し倒された衝撃で、あたしは黒い袋を投げ出してしまった。


 袋は床を滑って、袋から中の本が飛び出す。


「え、なにこれ」


「……少女漫画、かな」


 床に落ちているのは最近アニメ化された少女漫画の1巻。


「ぬわー! 見てはダメだー!」

 

 トウヤがあたしの上から飛びのいて、漫画と黒い袋を回収した。


「うう、見られてしまった。違うのだ、違うのだ。これは副会長トウヤのクラスメイトが強く勧めてきたから断れず借りてしまっただけで、俺の趣味ではないのだ……」


「トウ君、それってただの少女漫画でしょ? 別に隠すほどのモノじゃないわよ」


「なんか女々しいではないか! 男なのに少女漫画読んでたら!」


「えー! 先輩考え方古すぎですよ! 今時男の子でも普通に少女漫画読みますよ?」


「そうかな……? でも、やっぱり恥ずかしいし……。

 というか、俺の部屋に勝手に入ってきていることも問題だぞ、みんな!

 さあ早く出て行ってくれ!」


 あたしたちはトウヤに部屋から追い出された。


 結局トウヤの部屋からアダルトコンテンツは見つからなかった。

 あたしが定期的にチェックしてるのに出てこないんだから、まあ想定内だ。


 アクシデントでトウヤに押し倒されたはドキドキ出来て良かったな。


 …………。


 ~~トウヤ視点~~


 3人が俺の部屋から出て行って扉が閉まる。


 あっぶねー!!


 副会長(漫画は家だと読めないから学校で読む派)から借りた少女漫画。断らなくて正解だった。


 黒い袋の中には2冊の本が入っていた。


 1つは副会長から借りた少女漫画。


 そしてもう一つは落合が押し付けてきやがった冒涜的なライトノベル、

 『俺の妹は魔王且つ漢字読解可能なインテリで「愛さえあれば関係ないよねっ」と結婚を迫るブラコンであるが故に、こんなに可愛いわけがない』

 という題名で、内容が、

 実の兄妹が恋愛関係になるという狂気じみた物語だ。


 もしもこのライトノベルをカリンちゃんに見られようものなら

 『内心では妹とラブラブ恋人生活を送りたいと思っている変態シスコン野郎』

 と勘違いをされて、毎日の生活がギクシャクしてしまうのは必至。

 ……本当に見られなくて良かった。


 しかし、妹と恋仲になる話を読みたがるなど、世の中には気が知れぬ人々もいるようだ。


 だが、時代はダイバーシティ。多様性を認めることが肝要だ。


 俺とは異なる考えを持つ人々についても一定の理解がなくてはな。

 落合から借りたこのライトノベルも目を通すだけはしよう。

 で、さっさと返したい。こんな危険物。


 俺は黒い袋からライトノベルを取り出してページを開いた。


 ――――――――

 ――――――――――――


 翌日の朝。学校。


「はよーっす」


 落合が登校してきた。


「おはよう落合。これ返すよ」


 俺は落合にジョショの漫画を返した。


「トウヤ読むのはえーな! 一日しか経ってないぜ?」


「ああ、実は全部は読んでなくてさ。というか、ジョショはもういいんだ」


 俺は昨日落合から押し付けられたライトノベルを取り出した。


「こっちの続きの方が気になってな。貸してくれるか?」


 このライトノベルめちゃめちゃ面白かったわ。話がね? あくまで話がすっごくおもしろかったの。

 別に、ヒロイン役の妹キャラが可愛かったとかではない。断じて。


 放課後、落合の家に行って全巻読んだ。面白かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ