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1.黒田 誠 オープン記念キャンペーン③

 財布を入れた前座席のポケットの上の方にはテーブルが畳まれた状態でセットされている。

 俺も彼女もテーブルを広げてトレイをセットした。

 改めて座席に座ってみたがちょっと狭い気がする。

 なのに感染症対策で透明なビニールのカーテンが座席と座席の間に引けるようになっていた。

 つまりビニール製のカーテンで座席ごとに隔離される方式だ。

 何となく残念な気分で彼女と俺の間にカーテンを引いて座席を分ける。


「すみませ〜ん。座席後ろに倒していいですか?」

 彼女が後ろの席の人に声をかけていた。

「良いですよ」

 良かった。快く承諾してもらえたようだ。

 俺も同じように声をかけ背もたれの角度を調節する。

 辺りを見ると同じように椅子の背もたれを調節している人がちらほらいた。


『マウンテン号、まもなく発車致します。どなた様もお乗り遅れのございませんように……。次の駅は『ジェミニ駅』です。到着予定時刻は19:00です』


 放送が流れ発車ベルが臨場感たっぷりに辺りに響く。


 まさか動くのか……?

 これで本当に客車が動いたら俺は驚愕のあまり失神する自信があるぞ……。

 妙な緊張感で変な汗まで流れ出す。


 が…当然、動く訳がない。

 実際にはホーム側のドアが閉まっただけである。

 外の景色は1ミリだって動かない。

 動かないのが当然なのだが…今度は何故か列車が動かないほうがおかしいような気分になってきた。


 BGMなのか微かに列車の走行音が流れている。

「黒田さん。乾杯しましよ」

 ビニールのカーテンごしではあるが関口さんはマスクを外しグラスを掲げている。

 ……彼女のマスクを外した顔初めてみた。

 割りとかわいい……かも。

「そうですね」

 俺もマスクを外し、さらにトレイからグラスを取り外して掲げた。

 内心ちょっと動揺していたが何とか悟られないようにと視線をグラスの模様に向ける。


 よく見るとグラスにも缶ビールぽい絵柄が施されていた。

 だんだんと旅行気分が盛り上がってくる。

 グラスを掲げてエア乾杯!

 冷えたビールを喉へと流し込む。


 あぁ…

 冷えたビールは本当に旨い……

 お通しで配られた小鉢に箸を付ける。

 これも旨い……


 天国だ……


 しばらくビールと小鉢の料理に舌鼓を打っていると…

「揚げ物…焼き物…お肉料理は如何ですか……」

 車内販売よろしくワゴンを押した店員さんがやってきた。

「ブッ!?」

 俺は驚きのあまりビールを吹き出してしまう。


「何やってるんですか? 黒田さん……」


 関口さん…視線が痛いです……


 俺が慌てて濡れてしまった口の周りやら服やらを配られていたおしぼりで拭っていると、料理を乗せたワゴンが近づいてきた。

「あ、すみません。鳥の唐揚げと…焼餃子お願い致します」

 彼女がシレっと料理を追加していた。

「お…俺も同じ物をお願いします」

 慌てて俺も同じ物を注文する。

 お金を渡し追加した料理を受け取った。

 よく見るとこの料理が入っている小鉢や皿もトレイにジョイントできる使用だ。

 おぉっ! ジョイントしてから食べねば!

 うん?…何だかトレイがお弁当のようになってきたぞ。


 ワゴンは次々とやってくる。

「お刺し身…冷奴…サラダは如何ですか……」

「煮物です…肉じゃが…豚角煮…鳥の治部煮……」

「魚料理です…焼き魚…煮魚…フライ……」


 わぁお! どれも美味しそうで困る……


「ビール…ウイスキー…ブランデーは如何ですか……」

「カクテルお作り致します…お気軽にお声がけ下さい」

「ジュース…ウーロン茶…ソフトドリンク……」

「日本酒は如何ですか…各種銘柄取り揃えています……」


 ワゴンがやって来る度に何か注文しなければならないような気分になってしまい、俺は何かしら注文しまくった。

「…そんなに一度に注文しなくても…ワゴンは待ってればまた同じ系統の料理を運んで来ますから、食べ終わってから注文しても大丈夫ですよ」

 関口さんが笑ってアドバイスをしてくれた。

 そして自分の唐揚げにレモンを絞る。


 俺は少々気恥ずかしさを感じ、ビールを飲んで自分の気分をごまかした。

 そして改めて自分の席のテーブルからあふれる料理の多さに気づく。

 うん…料理を食べる事に専念しよう。


 ビールのみ再度注文し黙々と料理を楽しむ。

 味的には普通の居酒屋料理だ。

 何となくだか食器が空になる度にトレイから食器を外し、次に食べようと思った料理をジョイントさせてから食べることにした。

 駅弁風にしてから食べたかったんだ。

 うん、雰囲気大事!

 例えテーブルから食器がはみだしたとしても……だ!


 食器もよく見ると柄が駅弁のようだった。材質もプラスチック製で使い回せるようになっている。

 本当によく考えられていると思う。


 席の近くの窓に目を向ける。

 山の絵が描かれた大きな看板が見えた。

 だからこの電車の名前が『マウンテン号』なのだろう。

 名前から察するにホームの反対側に止まっている列車からは海が描かれた看板が見えるんじゃないかな……


 俺は注文しまくった料理をあらかた食べ終えた。

 気がつけば座席の周りの皿が置けそうな場所にはカラの皿が積み重なっている。


 空になった食器をまとめ座席周りに余裕をもたせようとしてみたが如何せん食器のほうが多くてまとめきれない。

 ふと、隣の関口さんを見ると、テーブルの上にはトレイにジョイントされた食器が一つとグラスだけ…???


 あれ?

 関口さん料理あんまり注文しなかったの?

 ……いやいや、そんな事は絶対に無い…はず……???

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