6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント①
「キャアァァァ!」
絹を裂くような悲鳴がプラットフォームに響いた。
乗客達が一斉に悲鳴を上げた方へと注目する。
「し…死ん…死んでる……」
男が一人、ホームのベンチで事切れ…倒れていた……。
悲鳴を上げた女性は震えながら
「私はベンチにつまづきかけただけなのよ! なのに倒れたから…様子がおかしいと思って……。だから…だから……」
駅長らしき人が足早にやってきて
「今から、このベンチ周辺を立ち入り禁止にします。この男性をご存知の方はいらっしゃいませんか?」
すると一人の女性が震えながら…
「あのっ!」
と、声を上げた。
「あの…私の連れ…です。姿が見えなかったので探していたのです」
と、名乗り出る。
駅長が
「お名前は?」
と、至って冷静に聞く。
「関口…真奈美…です。この人は『黒田 誠』さんです。私の…恋人です」
そう言いながら彼女の瞳にみるみる涙が溢れ出した。
そして…
「イヤぁっ!」
と叫んでそのまま失神してしまう…。
女性の駅員がわらわらとやってきて彼女に寄り添った。
「現場を保存します。乗客の皆様は自席へお戻り下さい。後ほど事情聴取に伺います。ご協力よろしくお願い致します」
手際よくポールがベンチの周りに立てられ黄色いテープが張られた。
「はい、下がってください! 下がって!」
駅員達が野次馬達を遠ざける。
そこへタイミング良く発車ベルが鳴った。
"ジリリリリ…"
「ハイ、イベント内特別パフォーマンス『緊急停止列車殺人事件』オープニングはこれにて終了です。」
わっと場内が湧き、誰からともなく拍手が始まる。
駅長・駅員達、演者さんが頭を下げた。
死体(役)の男性も起き上がって頭を下げる。
列車居酒屋宿泊イベントのパフォーマンス劇の幕はこうして上がったのだった。
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古めかしい駅長の衣装は思ったより軽かった。
緊張の余り声が震えたらどうしようかとドキドキしていたがとりあえず役目は果たせたようだ。
ホッと胸を撫で下ろし冷や汗をかきながら私は頭を下げている。
もうシルバーウィークも終わりかけている今日この頃、風の涼しさが一段と感じられた……。
拍手を浴びながら私はつらつらと事の経緯を思い出す。
タウン誌の記者を始めて数年……。
先日、編集長からこの列車居酒屋のイベントの取材を依頼された為に初めて店を訪れた。
開業してもうすぐ1年になるこのコンセプト居酒屋はそこそこ繁盛し、街の一部になりつつある。
「タウン誌"街角"の柴田健一と申しますが店長さんは…」
私はランチ時間終了間近の時間帯で片付けをしていた店員さんに声をかける。
「はい、伺ってます。こちらへどうぞ!」
元気の良い店員さんに案内され店の奥へと通された。
「初めまして。店長の原田と申します」
深々と頭を下げる中年の男性は頭を上げると名刺を渡してきた。
名刺には『列車居酒屋−旅が好き− 店長 原田 治』と書いてある。
「初めまして。タウン紙"街角"の記者、柴田健一です」
私も名刺を渡しながら頭を下げる。
「初めまして。演劇サークル「YAMATO」の座長をしております東野です」
店長の隣に控えていた彼も名刺を渡しながら頭を下げてくれる。
店長と同じようなやり取りをし、席を勧められたので私は座った。
「いゃあ…聞きしに勝る完成度ですね~」
客席がある方へ目を向けてから話を切り出す。
「自分の夢を全て詰めましたから」
店長が満足そうに微笑む。
私はさっそく取材を始める。
店長曰く、開業1年を記念し宿泊を伴う大掛かりなイベントを企画したとの事。
ただ列車内で宿泊するだけでは面白味が無いので観客参加型の演劇イベントを開催しようという企画が持ち上がった。(ほぼ店長の発案らしい)
地元の演劇サークルの協力を仰ぐと推理ミステリー犯人当てが良いのではないかとなり、大まかな内容が決まったところでチケットをオンライン販売。
…すると即完売!
あまりの反響の大きさに店側は第2弾の企画を考え始めたそうだ。
…で…だ。
地元タウン紙も記事にするべく動きだした訳である。(故に私がここにいる)
「…本当は『旅情ミステリー』といきたいところですが、宿泊理由が大型台風による運行停止で止むなく乗客達が足止めされるという設定ですからねぇ…」
「『嵐の山荘タイプ』でも楽しめますよ。先ずは開催してみて次に繋げましょう」
店長の原田さんも演劇サークルの主催者の東野さんも実に楽しそう。
取材するこちらまでワクワクしてきた。
たが、原田さんが若干言いにくそうに口ごもりながら私に
「大変申し訳無いのですが…柴田さんの分の座席が確保できてないのです」
と告げた。
まぁ…公開数分で完売になったイベントである。
当たり前と言えば当たり前だ。
「なので探偵役となる『駅長』になりませんか?」
東野さんがニコニコと提案してきた。
……私は演劇経験皆無だぞ。
しかし体験ルポルタージュ取材で申し込んでいる為に断る事もできず、私は駅長役をする事になってしまった。
ーそして現在に至る。




