5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行⑤
「では改めて乾杯〜!」
「お疲れ様でした〜!」
我々は席に戻り購入した料理をテーブルに広げ乾杯をした。
ビニールのカーテン越しなのは少し残念だが料理は美味い。
日本の料理は味が複雑で繊細だと思う。
居酒屋の料理だとて例外ではない。
冷えたビールを喉に流し込みながら料理を楽しみ通常はどんな様子なのかを訊ねた。
…ふんふん……
…まるで列車で旅行をしているかのような演出の店なのか……。
サマーフェスティバル期間が終わったらまた来てみよう。
私は密かに決意し料理を楽しんだ。
『まもなく〜ジェミニ〜。ジェミニに到着します。お降りの方はお忘れ物、落し物、ございませんようお手回り品に十分ご注意下さい』
おぉ!
なかなか本格的だ。
車内放送を聞き流し料理を食べ、ビールを飲んだ。
「いつもだとねぇ……」
黒田さんが楽しそうに通常営業時の話をし【双子の玉子の温泉玉子】を見せる。
美味しそうだ……。
次に買いに出た時に絶対買おう!
などと思って何気なくホームの様子をみたら…
「わっしょい! わっしょい!…」
という掛け声が聞こえてきた。
声のする方を見やるとキツネ人間になっている女性達が小さな家のような物を方に担いで運んでいる。
「お? 御神輿だね」
野崎課長がつぶやいた。
「オミコシ?」
また知らない日本語だ。
「ああいう家(?)みたいなのは神様が祀られていてお祭りの時はああやって揺すりながら運んでまわるんだよ。店内だからか随分小さい御神輿になってるし人数も少ないなぁ…」
…あぁ…アレが……
う〜ん……
なんとなく聞いた事があったかもしれない。
実際に見たのは今回が初めてだが……。
「女性が担いでいるから女神輿だね。なかなか勇ましい」
黒田さんも付け足すように言った。
よく見れば御神輿を担いでいるのはキツネ顔になっている女性達だ。
女性達は赤い法被を羽織り(法被は知っていた)その下はTシャツだ。そして膝丈の半ズボンを履いている。
う〜ん…素足がなんと艶めかしいことか……。
などと暫し女性達の美しい脚線美に見惚れていた。
「御神輿は男性が担ぐのが一般的なんだよ。小さなお祭りだと子供だけで担ぐのも有るけど…。あ、子供は男女関係なく一緒に担ぐよ」
と、解説された。
そこへ……
「セイヤッ! ソイヤッ!」
「セイヤッ! ソイヤッ!」
と、野太い声が聞こえてきた。
「お? 今度は男神輿か? 威勢が良いな」
女性達から目を離し、声が聞こえる方へ目をやれば、キツネ顔をした男性達が御神輿を担いでやってくる。
女性達と同じような法被にTシャツ・半ズボン姿だが色は青が基調だ。
「…こんな場所でお祭り気分になれるとは思ってなかったよ」
野崎課長がニコニコと笑いながらグラスを傾ける。
私はひとしきり御神輿を眺めながら次は何を買おうかと考えていた。
その時、何故か視線を感じて向かい側に座っているジャンを見る。すると何故かジャンは貼り付けたような笑顔でビールを飲んでいた。
???
何かあったのか?
「ジャン? どうかしたのかい?」
野崎課長が不思議そうに問いかけた。
ジャンは曖昧に笑って
「いや…その……。御神輿の掛け声が……フランス語に聞こえるんです」
「へぇ…。なんて言葉なんだい?」
ジャンはかなり口ごもりながら……
「その…えっと……『為政者を討ち倒せ。貴族は◯せ』が一番近い……かと……」
「ブッ!!」
黒田さんがビールを吹き出した!
私もギョッとして肉片を喉に詰めそうになる。
「へぇ…過激だねぇ」
野崎課長は一人呑気そうに笑っていた。
「安心して良いよ。ここは日本だ。御神輿を担ぐ時の掛け声であって暴動の…デモの掛け声じゃない。大丈夫さ」
う〜ん…
さすがは野崎課長。
年の功とでもいうのだろうか……
落ち着いている。
勇壮な…男性のみの御神輿が列車の脇を通り過ぎる。
ジャンはまだ緊張したような顔をしたままだが、黙って御神輿を見送った。
「そう言えば…野崎課長は今日は早く帰らなくてよかったんですか?」
わざとらしく黒田さんが問いかけた。
「ん? あぁ…今日は大丈夫。子供達が夏休みなんで一足先に女房の田舎に帰ってるんだ。盆休みになったら私も行く予定だよ。しばらくは一人暮らし状態さ。いやぁ~婿養子はいろいろと気を使わなきゃだからなぁ…行くのが遅くてありがたいぐらいだよ」
野崎課長は明るく答える。
「今頃はあっちでもお祭りやってるのかもなぁ」




