5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行④
「いやぁ…この時間で食べられるとは思わなかった」
黒田さんはニコニコと骨付きカルビやら〆鯖やらワサビの海苔巻きやらを買っている。
私も食べられそうな料理…主に肉料理を購入した。
ジャンも同じく適当に食材が何かわかっている料理を購入していた。
器同士が連結できる仕様なのが楽しい。
だが…一皿一皿の大きさが小さ過ぎないか?
少しづつ食べられる分だけというのは合理的だが……
二皿買うべきか?
「何かクドい料理ばかり買っちゃったね」
「あ、あそこの屋台の看板『サラダ』って書いてありますよ」
日本人二人組はなんの疑問もなく買い物を続けている。
「ロベルトも考えずに受け入れたほうが楽だよ。『これが日本だ!』」
ジャンは悟った顔で串に刺さった牛肉を買っていた。
確かにそうだ。
疑問は考えず楽しむ事にしよう。
とりあえず串に刺さった牛肉はもう一皿買おう!
私は開き直ってキョロキョロと辺りを見回し食べられそうな料理を探す。
サラダも買わねば!
ある程度料理を購入し、席に戻ろうと列車を見ると側面に何やら着物(浴衣)を着た子供が遊んでいる絵が描かれていた。
「あ、金魚すくいしてる」
黒田さんが車体の絵を見てつぶやいた。
「キンギョスクイ?」
また知らない日本語が出てきた。
「うん、この絵」
黒田さんは赤い浴衣を着た女の子が小さな網(?)のようなモノを持って赤い魚を捕まえている絵を指す。
「夏祭りみたいな縁日には定番のお店だよ。水に濡れると破れ易い紙製の『ポイ』って名前がついてる捕獲具を使って、それが破れるまで金魚をすくえるんだ」
(『エンニチ』とは何だろう?)
またもやわからない言葉が出てきた。
「すみません。『エンニチ』って何ですか?』
日本人二人組が振り返る。
「日本ではお祭りとかがあると食べ物の屋台だけじゃなくギャンブルぽいゲーム性の有る遊びができる屋台もよく並ぶんだけど…そんな屋台が並んでいるのを『縁日』って呼ぶんだ」
「だから今夜の店内は縁日仕様って事なんだよ」
つまりはこの訳のわからない様子は特殊だという事か?
わかったような…わからないような……???…
「本来の縁日の意味とはもしかしたら違うかもしれないけど、縁日は子供も大人も楽しめる場所なんだ」
「ここは居酒屋だから子供が来るべきところじゃない。だから子供が遊んでいる様子は絵で表現してるんだね」
二人の説明を受けてなんとなくわかったような気分にはなった。
要するに居酒屋の中をかなり本当のお祭りに近づけようとしたという事なのだろう。
わからないなりに何とか自分を納得させ料理を抱えて席に戻ろうとした時……
「えっ? この絵、銃を構えてないか?」
物珍しそうに列車に描かれた絵を見ていたジャンが指さした。
黒田さんはその絵をチラッと見て
「あぁ…。射的の屋台だね。景品が的になっていて銃で撃ち落とせるともらえるんだ」
「弾はコルクでできてたりゴムでできてたりするから当たってもケガはしないよ。多少は痛いけど……」
相変わらず日本人二人は何の疑問も持たないようだ。
つまり日本では一般的なお祭り風景なのだろう。
私は自分を無理矢理納得させた。
黒田さんがニヤリと笑った後、真面目な顔で
「そうそう…。こうやってね。日本は子供の頃から遊びながら銃の扱いを覚えるんだ」
は?
日本は戦争を憲法で放棄している世界的にも珍しい国……
のはず……
だと…思っていたんだが……?
さらに…
「自衛隊の軍事演習なんかアメリカ軍が真っ青になるぐらい統制の取れたものらしいゾ。ネットの噂話だけど…」
と、得意げに告げられた。
私は顔が強ばりイヤ〜な汗が流れてきたのを感じる。
まさか…日本はいつでも軍事国家になれるように準備しているのか……。
「こらこら。何にも知らない外国人をからかっちゃダメだよ」
野崎課長が笑いながら間に入ってくれた。
「別に射的遊びは銃の扱いを覚える為じゃない。純粋に遊びだよ。最近は見かけなくなってきてるぐらいだ」
野崎課長の言葉に私は安堵した。
「自衛隊の話は…事実かどうかはさておいて、日本人が遊びながらでも銃の扱いを覚えてきた事が演習に活かされたなんて理由からくる結果じゃないと思うよ。たぶん身内贔屓的な噂話だよ」
よ…良かった……。
戦争はどの国とであろうとしたくない。
私は平和を愛している!
隣にいるジャンもホッとした顔をしていた。
「夏祭りは平和の象徴みたいなもんさ。楽しまなきゃ!」
私達は安心して自分達の席へと戻る。




