5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行③
黒田さんに誘われるまま財布を持って列車から降りる。
ホームのあちこちにはワゴンが設置してあり看板や大きな液晶画面で食べ物を調理している様子が流れていた。
つまりワゴンを屋台風に飾り付けたなんちゃって(フェイク)屋台だ。
「なんかいつもより照明が暗い感じがします」
「夜祭仕様なんだろうね」
ふ〜ん……
【いつも】はどんな様子なのだろう……。
後で聞いて見なければ……。
しかし暗めの照明は幻想的な演出になっている。
なんちゃって屋台の液晶から流れている画像が柔らかく光り、屋台自体がボンヤリと佇んでいるかのように見えた。
「お! タコ焼き発見」
「祭りと言えばタコ焼きだよね」
日本人二人は勝手にもりあがっている。
私達が屋台に近づくと浴衣姿の女性が接客をしてくれるようで声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。タコ焼きは如何ですか?」
「一つ頼むよ」
黒田さんも野崎課長もニコニコとタコ焼きを買っている。
だが、私はタコは食べる物ではないと頑なに信じている。
ついでに魚介類も食べ物ではない。
別にアレルギーが有る訳ではないが小さな頃に無理矢理食べさせられてから食べられなくなってしまったのだ。
日本で一番困った事が食事に当たり前に魚介が使われている事だったりする。
当然、寿司は食べられない。
最近は肉がネタの寿司も有るのでそういう寿司なら食べている。
もちろん魚介だと知らなければ食べた事もある。
タコ焼きは…知らずに食べた事が有ったが、タコが入っていると知ってからは食べていない。
やっと鰹節や昆布や練り物が平気になったところだ。
ふと隣のジャンを見ると彼も貼り付けた様な笑顔で固まっていた。
…同志だ!
彼もやはりタコは食べ物ではないと思っているのだろう。
だが、彼の口から聞こえたのは…
「キ…キツネ?」
と、いう言葉だった。
どういう事だろう?
彼の目線はさっきまで接客をしていた女性店員さんだ。
他にもいる女性店員さん達は色とりどりの浴衣を着ていて、その浴衣には【列車居酒屋〜旅が好き〜】という文字が書かれている。
さらに帯には特急列車の絵が書いてあった。
そして…そして更に良く見ると感染予防のマスクには動物の口元のような絵が書いて有り、色もオレンジっぽい。
更に頭に動物の耳のような飾りをつけていた。
その耳はある程度の長さが有り明るいオレンジの耳だった。
つまりキツネの耳だと言われれば思わず納得するような…。
???…???……
……どういう事だろう?…???……
「食べ歩けないのが難点だね」
「感染症蔓延防止の為ですから仕方ありません」
日本人二人は店員さんの姿に違和感を持っていないのかタコ焼きを受け取って歩きだす。
「黒田さん、黒田さん」
「ん?」
「このお店は店員さんがキツネの顔なんですか?」
黒田さんは野崎課長と顔を合わせどちらからともなく「ブフッ」と吹き出した。
「違うよ。今日は夏祭り仕様だからキツネ人間(笑)になってるだけだよ。たぶんだけど」
「日本にはキツネを神様の使いとして祀ってある神社があちこちにあるんだ」
「実際の夏祭りの屋台は普通に人間が接客しているよ。この店ならではの演出なんだろうね」
辺りをよくよく見回せば浴衣で接客をしていたり盆踊りの映像の周りで踊っていたりベンチに腰掛けて何やら飲んでいるのはキツネ人間のコスプレをしている人ばかりだ。
「あ、あそこに各駅の数量限定メニューの屋台が有りますよ」
黒田さんがとある屋台を指差す。
「へぇ…これが噂の……」
私はまだキツネ人間ショックから抜け出られてはいなかったがとりあえず付いて行く事にした。
誰か…誰か説明を!
コレが日本では普通なのか?
この場で日本人ではないのはジャンだけだ。
私はジャンに救いを求める事にした。
「ジャン。店員がキツネの顔になってるのをどう思う?」
ジャンは目を瞬かせ
「うん…理解はしがたいけど…なんとなく納得はできるよ」
そう言ってジャンは日本独特とも言える混沌とした宗教観を軽く教えてくれた。
「……つまりね…日本のお盆は西洋でいうところの『ハロウィン』なんだよ」
「ハ…ハロウィン?」
「そう…お盆には御先祖様達が霊になって戻ってくると信じられているんだ」
「なるほど…だから仮装してるのか?」
私は納得しかけたが…
「別に仮装が必須って訳じゃない」
と、ジャンは首を左右に振る。
「ただ…お盆の祭りは宗教行事でも有る。日本にはキツネをお祀りしている神社もあるから、そこから発想されたサービスなんだと思っている。マスクも活かせるし……」
私はただただ頷いて彼の日本の知識に感心した。
しかし…
「漫画からのうろ覚えの知識なんだけどね」
と、ぶっちゃけられる。
……オイ…!
そこまでぶっちゃけなくても良かろうに……
あああ……
信ぴょう性がほとんど無くなった。




