5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行②
これまた薄暗い廊下を歩いて行くと駅の改札口としか思えない場所にたどり着く。
祭囃子に混じって何やら別の音楽が流れていた。
「○✕※△音頭? う〜ん…違ったか?」
野崎課長がつぶやいたがよく聞き取れない。
「ナンデスカ?」
質問がカタコト調なのは気にしないでもらいたい。
何だかよくわからない場所に来てしまった感が強くて混乱しているのだ。
「あぁ…今流れている音楽だよ。知ってる曲かなって思ったから…」
???……
日本のポピュラーな曲なのか?
「盆踊りで流れる定番みたいな音頭ですからね。私も良くは知りませんが…」
黒田さんはそう言いながら改札機(としか言いようがない)の液晶部分に乗車券をかざした。
もちろん我々も後に続く。
そして改めて店内の様子を目の辺りにしてかなり驚いた。
どう見ても何処かの駅にしか見えないプラットフォームの中央で大きな太鼓を叩いている人を囲んでいろんな人が踊っている???
その上、特急列車がそのプラットホームを挟んで止まっている情景に私は驚きの余り動けなかった。
「『列車居酒屋ー旅が好きー』へようこそ! 野崎課長! ロベルトそしてジャン!」
プラットフォームを覆っている屋根からは紅い紙製のランプ(?)が幾つも下がっている。
おそらく【チョウチン】と呼ばれている日本のランプだと思う。
そして目を凝らして良く見れば中央で太鼓を囲んで踊っている人々は映像だ。
「まずはトレイとグラスをもらいましょう」
黒田さんが声をかけてくれたので促さられるままトレイが積んである一角へと進む。
「へぇ…雰囲気有るねぇ」
野崎課長か感極まったように呟いた。
「懐かしい感じですね。子供の頃を思い出します」
先行している二人に置いていかれないようにしながらも通常とは違った光景に辺りを見回した。
「これが日本の祭り…?…?…」
隣りでジャンが目を瞬いている。
「ジャンもロベルトも行った事ないの? 地域のお祭り?」
ジャンも私も無言で何度も頷いた。
世界的な広域感染症の関係でそういった催しは軒並み中止だし、有ったとしても何処で開催しているか情報もわからないし、情報をもらったとしても開催している時間には帰れなかったりしていたのだ。
「初・盆踊り祭り体験だね。楽しんでもらえたら嬉しいよ」
そう言って黒田さんはトレイを渡してくれた。
『本日は夏祭り仕様の為、飲み物のワゴン販売はございません。ビンやピッチャーを席までお持ち下さい。また、各種通常料理もワゴンでは販売致しません。各駅の数量限定名物料理を含め、屋台で祭り料理を販売しています。屋台からご購入下さい。』
トレイを受け取る場所ではそんな案内の音声が流れている。
「へぇ……今日はウェルカムドリンク制じゃないんだ」
そう呟いた黒田さんは我々を振り返って
「席に荷物や飲み物を置いてから食べ物を買いに行きませんか?」
と、提案した。
「オマカセシマス」
本当に何が何だかわからない。
黒田さんはカトラリーがセットされたトレイをかかえて飲み物が瓶で並んでいる場所に進んだ。
「好きな飲み物を選んで買って席に行きましょう」
そう言って彼は日本の銘柄のビールを1本購入した。
野崎課長もビールを購入し歩いていく。
私もビール…できることならドイツのビール!
…にしたいがドイツ産のビールはあいにく無かった。
まぁ…当たり前か……。
だが別に日本のビールも嫌いではない。
だから彼らに倣って日本の銘柄のビールを購入する。
ジャンはジャンで「何でワインが無いんだ……」と、呟くとやっぱり日本の銘柄のビールを手に取った。
「日本の夏はビールだよ。ジャン」
「わかってるよ…。でもワインが良かったんだ」
私はジャンの肩を叩いて慰めた。
我々は黒田さんの後に続き止まっていた特急列車に乗り込んだ。
どっからどう見ても日本の一般的な特急列車の車内だ。
まさか…動かないよな……。
ドキドキしながら席を探す。
「あ、ここだ」
そう言うと黒田さんは2つ繋がっている席を"クルッ"と回転させて向かい合わせにセッティングした。
「か…勝手に動かしちゃって良いんですか?」
「ん、こっちも私達の席だから大丈夫だよ」
「良かったら窓側の席を使いなよ。ホームの様子が良く見えるから」
野崎課長にまで促されて私もジャンも窓側の席にビールと荷物を置いた。
「財布だけ持って行けば大丈夫だよ。食べ物買って来なくちゃ」




