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4.関口 真奈美 センチメンタルジャーニー③

 山葵の辛味は緑茶で緩和できるらしいと聞いた事があるので温かい緑茶も注文する。

 この時間だとワゴンでいろいろ運んで来る料理を選ぶのではなく、注文された分だけを準備して持ってきてくれる方式との事。

 客車入口付近に電話が設置されているので、そこから注文するのだ。

(全部メニューに書いてあった)


 注文し終え、ひと休みしていた時、唐突にみゃあ先輩が首を傾げた。

「何かピンクぽい光がチラチラするんだけど気のせい?」


 確かに小さなピンクぽい光が視界を時折横切って行く。


 ヤバい……

 飲み過ぎて幻覚でも見え始めたか?


 でも、二人共見えているんだから幻覚じゃあない…

と、思う……。


 私が真剣に悩んでいた時、注文した料理や飲み物がワゴンで運ばれてきた。


 よしっ! 店員さんに聞いてみよう!


「あの…なんかピンクぽい光が見えるんですけど……」

 内心『え? そんな光ありませんけど』って言われたらどうしようとドキドキしながら尋ねる。

「あぁ…【桜の花びら】です。今、日本のどこかで桜が咲いているので…。日本の何処かで桜が開花している間は桜の花びらの照明になります」


 おお! 何という粋な計らい!


 私は感動しつつ運ばれてきた料理やら飲み物やらを受け取った。


「スゴいね!」

「花見酒だね」


 正確にはお酒を飲んでいる訳ではないから『花見酒』じゃないけど…

 雰囲気! 雰囲気!


 ヤケに後を引く山葵の海苔巻きを食べては

「ひぃ〜…辛ぁい。染みるぅ〜」

と、悲鳴をあげてはお茶を飲み

「口直し…口直し…」

と、お通しの豆腐のピーナッツ餡かけを食べる。

 そしてまた山葵の海苔巻きを食べ……


 無限ループで食べた続けた結果、海苔巻きもお通しもあっと言う間に全て我々の胃袋に収まった。

 はぁ……

 満足…満足……


「雰囲気良いねぇ…」

 しみじみとみゃあ先輩が呟く。

「このご時世、なかなか旅行もできませんから……」

 烏龍茶のグラスを片手に私は答える。


「『桜の中を走る夜汽車』って風情…。う〜ん…ロマンだ……」

 酔いが冷めきらない、腫れぼったい目で窓の外に目を向ける。

 桜吹雪の中にライトアップされた富士山が見えた。

 霧笛が遠くから聞こえてきそう……


「『行春や鳥啼魚の目は泪』かな」

 先輩がポツリと呟いた。

「何ですか?」

 聞いた事が有るような…無いような……。

 う〜ん…

 思い出せない……


「芭蕉の俳句よ。春に旅立つ人との別れを惜しんだ句」

 富士山を見ながら先輩は泣いているのだろうか……。


 私は先輩が泣いているのには気づかないふりで溶けかけたアイスにスプーンを入れる。


超絶硬いと有名なアイスだが溶けかければ食べやすい。

しばし、アイスと格闘し山葵の辛味を口から追い出した。


「今度はもう少し早く来ましょうよ。こんな閉店間際じゃ楽しいパフォーマンスが何も見れませんから…」

「パフォーマンス?」

 先輩は窓から視線を外した。

 もう、涙は見当たらない。

「いろいろ有るんですよ。ホームにいる売り子さんから料理を買ったり朗読劇が上演されたり…」

「へぇ~…。何だか楽しそうね」

「楽しいです。桜のライトアップ中に来ましょう!」


 私はスプーンを握りしめて力説する。

 先輩は笑いながら自分も溶けかけたアイスを口に入れた。


4.関口 真奈美 センチメンタルジャーニー 了

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