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1.黒田 誠 オープン記念キャンペーン①

 俺の名前は黒田誠。

 厳めしいって?

 文句は名前を付けた親に言ってくれ。

 だいたい『黒田』も『誠』もありふれた名前なのにつなげて名乗るとどうにも厳めしいというか古臭いというか……


 俺は20代の若者なんだぜ!


 もっと今風の…別に奇をてらわなくても良いけど…時代に合った名前を付けて欲しかったよ……

 武士みたいな名前にしなくたって良かろうに……

と、名乗る度に思うが仕方がない。

 それでもまぁ…今となっては愛着も有るし、名前的には普通だと思っているので改名までは考えていない。


 就職難を謳われて久しいがどうにか職に就く事ができて数年目、俺はお気楽サラリーマン生活を満喫している。

 最近一人暮らしを始めたが日々雑用に追われ親の有り難さを噛みしめる毎日だ。

 今日も今日とて疲れた身体を引きずり自宅の最寄り駅の改札を通ると

「『旅が好きー列車居酒屋ー』ただいまオープン記念キャンペーン中で〜す!」

 という元気な声と共にチラシを押しつけられた。

 別に受け取る気は無かったのだが反射的に手にしてしまったのだ。

 俺は手にしたチラシを歩きながら眺める。

 溜め息をつきつつ…ね……


【旅が好きー列車居酒屋ー オープン記念キャンペーン】


 チラシの上で文字がキラキラと踊っていた。

 別に旅なんか好きじゃない。

 というか好きか嫌いかという感情を持つ程、旅なんかをしたことがない。

 俺は"フンッ"と鼻を鳴らすとチラシを捨てられそうなゴミ箱を探しかけて苦笑した。

 テロ等を警戒する為に町中からゴミ箱が撤去されて随分経つってのに……


 ゴミ箱の代わりに目に入って来たのは当のチラシの店舗だった。


【旅が好き〜列車居酒屋〜】


 地方都市の駅舎のような店構えに思わずたじろぐ。

 そして、手の中にあるチラシを改めてよく読んだ。

『オープン記念キャンペーン中にこのチラシをご持参して来店された方は席料1時間無料』

 と、書いてある。


 はぁ……


 俺は深々とため息をついた。

 1時間しか無料にならないとは…世知辛い世の中だねぇ……


 チラシを丸めようとした時、不意に今日の夕飯の準備を何もしていなかった事を思い出した。


 夕飯…何だか作るの面倒くさい…なぁ……

 たまには…外食も…アリだよ…なぁ……


 好奇心も手伝って俺は店に入ってみた。


『いらっしゃいませ。乗車券をご購入下さい』

 機械音声が出迎えてくれた。

 ジョウシャケン???

 疑問符で一杯の頭で辺りを見回せば【券売機】としか表現できない装置が目に入る。

 これか?

 空いている券売機の前に立ちチラシに掲載されていたQRコードを指定された場所にかざす。

『ご来店ありがとうございます。お好きなお席をお選び下さい』

 機械音声に促されるまま俺は表示された液晶パネルを見る。

 何だコレは?

 どう見ても特急電車の指定席の図が液晶パネルに表示されている。

 よくわからないまま、俺は適当に空いている席の一つを指定した。

『ありがとうございます。行き先をご指定下さい』

 今度は行き先だぁ〜??

 表示されたのはカタカナで書かれた駅名と時間。

 オレはスマホで現在の時間を確認する。


 現在時刻は…もうすぐ18:30になるってところか……


 居酒屋だし、ゆっくり酒を楽しみたい。

 無料分の1時間だけだとかなり慌ただしいかな……

 そう考えてすぐに入店できる時間から1時間半程先の駅名を選ぶ事に決めた。

 視線を券売機の上に上げると、そこには路線図よろしく駅名と到着時間が表示されている。


17:00 シリウス駅 ※開店

17:30 フォーマルクラフト駅

18:00 サザンクロス駅

18:30 オリオン駅

19:00 ジェミニ駅

19:30 デネブ駅

20:00 ポーラスター駅

20:30 ベガ駅

21:00 アルタイル駅

21:30 スピカ駅

22:00 スコルピオン駅

22:30 サジタリウス駅 ※ラストオーダー時間

23:00 アンドロメダ駅 ※閉店


 俺は

【オリオン駅(18:30) ー ポーラスター駅(20:00)】

を購入した。

 そして店内奥へ移動しようと辺りを見回す。

 と…意外な人物に出くわした。


「え? もしかして黒田さん?」

 目を丸くして俺を見ていたのは同僚の関口真奈美だった。


「せ…関口さん? どうしてここに?」

 黒いロングヘアを無造作に一つにまとめたいつもの会社の制服姿からは想像もつかない…と、言っては失礼かもしれないが、今まで持っていた彼女の印象とはかけ離れた明るい青色のパンツスーツ姿に俺は目を瞬く。

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