3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑥
翌日、孫の優香が遊びに来た。
日曜日だったのだ。
勤めていないと曜日の感覚がなくなっちゃうわねぇ……。
しみじみそんな感慨にふけってしまいかけたが、そんな事ばかりはしていられない。
「優ちゃん、お母さんにはちゃんと断ってきたの?」
「うん! 大丈夫。断ってから来たよ」
……でも、一応澄華さんに連絡しておきましょ。
澄華さんは息子の嫁で義理の娘だ。
嫁姑の関係なので未だに少し気を使ってしまう。
やっぱり嫌われたくはないし……
今、優香は自転車であちこち行くのが楽しいらしく、同じ市内でもかなり離れた場所にある我が家によく一人で遊びに来る。
まぁ…迷子になったり、変な人に出会して連れ去られてしまったり、事故に合うより我が家にいてくれたほうが安全ではある。
そしていつも帰りは車で送って行く。
だって心配だから!
父もそんな日は一緒に送って行くので夕方の散歩はしないですんでいる。
「今日、颯君とパパとママは?」
「颯はパパと近所の公園行ってる。サッカーで遊ぶんだって! ママはお掃除中。だから私はこっちにきたの」
あらあら…
さては掃除の手伝いを言われないように逃げてきたな…。
「ひいじぃちゃん! 遊びに来たよ」
優香は何故か茶トラの猫のぬいぐるみを抱えて父の部屋へ行った。
父はぼんやりとした視線を曾孫である優香に向ける。
「……誰ですか?」
今日は優香がわからないらしい。
「ひいじいちゃん、優香だよ。コレは茶太郎」
優香は持参した猫のぬいぐるみを差し出す。
リアルに近い姿の茶トラの仔猫のぬいぐるみだ。
「おぉ…! 茶太郎! 元気だったか?」
おやおや…曾孫より反応が良いとは……。
「茶太郎。昨夜の集会には参加したのかい?」
「うん。隣のクロの好きなコの話を聞いたよ」
「ほう…月はキレイだったか?」
「…んとねぇ……」
今日の優香は茶太郎の役だ。
噛み合っているような…チグハグなような…
二人とも楽しそうなのでそっとしておく。
父は夕方の日課の散歩に優香を連れてでかけた。
なんと!
「行ってきます」
と、言ってでかけたのだ。
『帰ります。お邪魔しました』
ではなく
『行ってきます』
と……
優香が一緒だったからかな?
念の為、優香には連絡用のGPS付きスマホを持たせ送り出す。
ぬいぐるみの猫まで一緒に出かけ、小一時間ほどで無事帰ってきた。
夕方には息子夫婦が優香を迎えがてら訪ねてきたので一緒に食卓を囲む。
麗らかな早春の朧月夜が空にかかっていた。
後日談
優香が持参した仔猫のぬいぐるみは父が離さなかったので、そのまま父の物になった。
そして父は『帰る』と言って遠出をしなくなった。
よほど気に入ったのか優香が持参した仔猫のぬいぐるみをお供に少し離れた緑の多い公園に行き、数十分程休んでから
『ただいま』
と、言って帰ってくるようになった。
何がきっかけなのか……
その謎がわかるのは神様だけかもしれない。
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて 了




