表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて④

 雨はまだ降ってるかしら……。

 窓の外に目を向ければライトアップされた海の絵がぼんやり浮かんでいる。

 雨脚は弱まりつつあるようだが止む気配はない。


 う〜ん…そろそろ降りる時間なのよね……。


 乗車券は次のサザンクロス駅までだ。

 ポツポツ他の乗客も乗ってくる頃合いだと思うし何より食後に飲ませなきゃならない薬を持ってきてない。

 夫だって帰ってくる時間だし……。

 何だか焦る。

 

 お腹もいっぱいになった事だし延長せずに帰らなきゃ。

 傘…買ったほうが良いかな?


 隣の席では父が『裏山で猫が集会をしていた話』をまだしている。

 私はニコニコと笑いながら聞いてはいるが帰りの心配しかしていなかった。


 高齢の父には食事毎に飲む薬がある。

 食事が済んだ後、あまり時間を置かずに飲まさなければいけないのでは?

 あ、夫の分の食事どうしよ?


 父は『裏山で猫が集会をしていた話』を話し終えて満足そうに水を飲んでいた。

 グラスのデザインのせいか冷酒に見えてしまう。


 水だよね?


 父の食事内容は自分で仕切っているのに何を心配してるのやら……。

 自分の考えに思わず苦笑が浮かぶ。

 

 夫の分の食事……

 何かテイクアウトできないかな?


 メニューを確認するとお弁当のテイクアウトが可能という案内が書かれていた。

 私は胸を撫で下ろし、お弁当を買って帰る事を決意する。


「お父さん。そろそろ駅に着くから御不浄行って降りましょう」

と、私が促すと

「おお、もう着くのか?」

と、言いながら父は立ち上がった。

 私は父の動きの邪魔にならないようにトレイを空席へ避難させる。

 そして御不浄(トイレ)まで誘導した。

 幸い、父に排泄介助までは必要ない。

 行くタイミングさえ間違わなければ大丈夫だ。

 今日はかなり水分を取っているから帰ったらもう1回行くように言わないと……

 無事、トイレを済ませた父を席まで誘導してから自分もトイレを済ませる。


『まもなく【サザンクロス駅】に到着致します。お降りの方は……』


 降車アナウンスが流れてきた。

 私達はトレイを持って列車を降りる。

 そして食器の回収ワゴンにトレイを返却した。


 プラットフォームに設置してあるベンチに父を座らせて私は売店でテイクアウトのお弁当を買う。

 傘も売ってたけど、車まで行けば有る傘を買うのはなんだかもったいないな……。

 幸い今の雨脚はかなり弱い。

 これなら少し濡れるかもしれないけど私だけなら車まで行ってここまで帰ってこれる。


「すみません」

 私は店員さんに声をかけた。

「はい?」

「車をこの店の前まで移動させてから父を乗せたいのですが、このままこのベンチで父を座らせておいても大丈夫ですか?」

「あ〜…外、雨ですからね」

 店員さんは少し考えるように宙に視線を向け…

「ここより待合室をご利用になってはいかがでしょう? 出口にも近くなりますし…」

と、勧めてくれた。

 ありがたい。

 私は店員さんの言葉に甘えてプラットフォームから出ると最初に入った待合室に父を座らせる。


「お父さん、車を取ってくるからここで待っててね。このお弁当、持って帰るから見張ってて」


 別にお弁当を見張る必要は無いだろうけど父をこの場所から動かないようにさせる為の方便だ。


「大丈夫ですよ。お戻りになるまで私もこちらの方と一緒にいますね」

 そう、店員さんが請け負ってくれた。

 本当にありがたい。


「申し訳ありません。急いでに戻りますので……」

 私は何度も頭を下げて部屋を後にした。


 店を出ると雨はほとんど降ってなかった。

 傘もささずに歩いている人もいるぐらいだ。

 それでも私は気が急いて早足で駅前の駐車場へと向かう。

 また強く降り出したら大変だし……。


 駐車場の手前で向こうからやってくる夫に気がついた。

「パパ!」

 私達夫婦は子供が産まれて以来パパ・ママ呼びだ。

「あれ? ママ? どうしたのこんなところで?」

 私は手短に夫に事情を説明する。


「うわぁ…。今日も大変だったねぇ…。お疲れ様」

 夫の労う言葉に少しばかり安心感を感じながら

「車で来たから一緒に帰りましょ。雨も心配だし…」

と、誘った。

 もちろん夫に否やは当然無い。


 店のかなり近くの道端に車を止め、父を迎えに店へと入る。

 待合室へ行くと父は店員さんを相手に取り留めのない話をしていた。


「お父さん。戻りましょう」

 話の切れ目を待って父に声をかける。

「あぁ、迎えに来てくれたのか…。ありがとう」

 父はゆっくり立ち上がった。


「お世話になりました」

 私は店員さんに頭を下げて部屋を後にする。

 そして、父を連れて車に戻った。


 車の中から夫は父に手を振っている。

「あぁ、兄ちゃんも迎えにきてくれたのか? 忙しいのに悪いねぇ……」

 どうやら父には夫が自分の兄に見えるようだ。


「それじゃ行きますよ」

父と夫を後部座席に座らせ、私は車を発進させる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ