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【タイトルは今日のご主人様にお任せします。】

作者: DT乃鏡

 この小説は、執筆者DT乃鏡といつも応援してくださるご主人様との、ホワイトデーシチュエーション小説です。

 ご主人様の勝手な解釈と設定。そしてさまざまなパロディを含みます。苦手要素を含む方は、すぐさま閲覧の終了を推奨いたします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「今日も大変な一日だったぁ…。甘いものが欲しい…チョコレートが食べたいい…」


 今日はホワイトデー。

 まるで甘味を嘆き求める社畜ゾンビのように背中を丸め、長い廊下をおぼつかない足取りで歩く

 愛しのマイルームが視界に入ると同時に、私の扉の前を小さな人影が行ったり来たりと往復してるのが見えた。


 そこにいるのは小柄な少年。

 珍妙な名前を持っており、イニシャルで[DT]継承名で[乃鏡]。繋げて【DT 乃鏡】と言う。


 最初は、鏡頭で大柄な異形の姿をして出会ったパティシエを名乗る男。とあるきっかけで彼の生い立ちを知って仲良くなってからは、なぜか本来の姿だという人間姿でよく私の前に現れる。


 『ん~留守なのかなぁ…。どうしよ…これ』


 そんな彼は今回も少年の姿。

 長いブカブカな袖に隠れた手で、私の在宅を確認するように恐る恐る鍵のかかったドアノブに手をかけていた。

 

 その様子を遠目で見ていたら、彼はわたしの存在に気づく。そのまま慌ててなにかを隠そうとする仕草をした後、平然を装った顔で私に小走りに歩み寄ってきた。

 

 『や、やあ、こんかがみん今日のご主人! こんな夜中になにか用? …ってなんだか酷く疲れた顔してるね』


 「こんかがみん、DTくん。【規制済み】の観察に【編集済み】の抽出生産…。もう忙しいったらあらしないよ」


 私のお疲れ顔を心配するように覗き上げる彼に、一日の勤務内容を簡単に溢して鵜だなれる。

 今日の仕事は肉体的な労働はしないけど、ひとつ間違えば命に関わる、とても精神を擦り減らす気が抜けない業務だった。


 『へぇ今日も大変そうだね。お疲れ様!』


 「そうなの、お疲れ様なの。だからホワイトデーのお菓子ください、ジュール・グーフェ様」


 彼はお菓子を作るとき分量を1グラムの誤差なく測る。そんな神経質ともいえるきっちりとした彼の性格をなぞるように、パティシエ業界を変えた、とある偉人の名前を出して媚びる。


 彼はそんな人知らない様子で、ホワイトデーという言葉に少し複雑そうな顔をした。


 『えー? バレンタイン誰かにあげたりしたんじゃないの? お返しとか貰ってんじゃないの?』


 「お返しもなにもバレンタインとか誰にもチョコ作ってないし、忙しくて用意してない…。でもお菓子は欲しい…。お菓子くれ…くれ…」


 『へぇ、大事なイベント事をだだくさにしてるご主人の自業自得じゃん。ボクがせっかく逆チョコしたのに、キミからのお返しまだ貰ってないんだけど…』


 誰にもあげていないという言葉に彼の口は緩むが、出てくる言葉は私を責める言葉。


 「ちょっとくらいいいやん!!」


 罰の悪い感情をかき消すように叫びながら、彼の被る帽子についた青と赤の2つの飾りを狙い、摘まみとろうと両手を交互させて空を切る。


 『ちょっ!? やめて、やめて! とれちゃう、頭のマカロンとれちゃうからぁ!!』


 冗談半分で行う私の行動を理解しながらも彼は本気で帽子を押さえて大事そうに守る。


 楽しいおふざけを終えた後、彼は呼吸を整えるため一息を入れる。そして仕返しと言わんばかりに口に袖を当てて悪い顔を浮かべた。


 『…そうだね…。一周まわってワンってしたら作ってあげ「くるくるっとまわってワンワンワンッ!」


 『…ってはやぁ!!』


 彼の言葉を遮って私はコマのように体を回転させて、ワンの一言にあわせて額に手を当てて決めポーズをとる。

 そんなプライドを捨てて甘味を求め従う私に彼は目を丸くしOの字口をする。

 そしてお腹を押さえて高らかに笑った。

 


 『ハハハハッ! ご主人にはプライドってのが無いのぉ? …あげるっていったね。あれはね──』


 『──嘘だよ』


 急に顔をふせ、真顔でこちらを目だけで見上げてシリアスな佇まいを醸しだす彼の言葉に思わずイラッとしてしまい

 「ハムっ」

 っと彼が大事にする、帽子についた大きなマカロンを一口に頬張り、噛みちぎらないよう舌の上で転がす。

 甘味はしないが優しい苺の風味。舌触りは動物の毛を圧縮してシート状に加工したような、繊維品の舌触りだった。


 そんな私の衝動的な奇行に彼は思考が固まり、一瞬時が止まったかのように静止する。何をされてるか次第に認識していくに連れて、涙を目に貯めて顔が青ざめていった。

 限界まで蓄積された感情を唇に震わせて叫ぶ。


『うぎゃーー! ちょっと! ボクの大切な帽子がご主人の唾液でわやになったじゃん! びしょびしょでふにゃふにゃなんだけど!?』


 「だってDTくんがいじわるすんだもん」


 うえっへっへーんと廊下に響くほど大声でわざとらしく泣く私に、彼は苦虫を噛み潰したような顔で耳障りな声を諌める。


 『うるさいうるさい! あーもうわかったから! 泣くな喚くな囀ずるなぁ!!』


 泣き落としに成功した私は今だと言わんばかりに、ころっと態度を変えて再度甘味を要求してみる。


 「それじゃあ、もう騒がないからお菓子作ってくれるわよね…?」


 『…ちっ、わかったよ。まったく…仕方ないご主人だな…。』


 彼はそう言いつつも、嬉しそうに口を吊り上げる。そして長い裾に長い裾を入れて何かを取り出し、はいこれっと私に手渡す。


 丁寧にラッピング用の青い用紙で包装された箱。オレンジ色のリボンには、彼が耳にぶら下げている鏡の形をしたピアスと同じアクセサリーが一緒に巻き付けられていた。


 開けなくてもホワイトデーのお菓子だと気づいた。


 「あら、これって手作り? やっぱり用意してくれてるじゃない」


 『て、手作りじゃない! 用意なんてしてない!コンビニで298円で売ってたやつ!』


 誰もこの施設から出られないのに慌てた様子でコンビニで買ったなんて嘘をつく。

 この施設には一応購買があるが、こんなしっかりとラッピングされた娯楽品は売っていない。それにあったとしても、乱雑に袋に包まれた幸せになれる小さくてカラフルなお菓子と、痛いが失くなる苦い珈琲豆があるくらいだ。


 彼の見え見えの照れ隠しに私の頬が緩む。


 「それは愛がこもってるね、ありがと! …お返しできてなくてごめんね。きちんとバレンタインと合わせて今度埋め合わせするから」 


 自分の幸せだという気持ちを込め、手の皺と皺を合わせて感謝を伝える。

 そして、手をそのままに罰の悪そうな顔をする私。それに気づかず、彼は嬉しそうに目を閉じ、ゆっくりと口を開いく。


 『お返し…? べ、別にキミなんかに期待してないし…。そうだね。またお菓子の感想とか聞かせてよ…。そ、それに…ボクは、今日のご主人が美味しそうに食べてくれるだけで──って聞いてないし…。』


 私は手の上に放置されたお菓子に我慢の限界超えてしまい、彼の歯切れ悪い喋りを尻目にお菓子の包み紙を、まるでサンタにプレゼントを貰った子供のように破り捨てていた。


 箱の中に入っていたのは、主に二種類のカラフルなお菓子。

 一種類目は、とてもしっとりで、手で摘まむと形が崩れてしまうように柔らかいお菓子。マシュマロみたいに弾力は無いが、一口食べるとふわっとした食感とともに、ジューシーな果汁が口の中いっぱいに広がる。赤黄オレンジ紫と色んな種類があって、それぞれフルーティーでおいしい。

 二種類目は、彼が気が狂う程大好きで、まるで象徴と言わんばかりに帽子や靴に飾りをつけているマカロン。抹茶に紅茶にゴマや栗など、さっきとはまた違うテイストでとてもおいしいおいちい。


 地べたに座り込み、久しぶりの甘味を無我夢中に口に放り込んで味わう私をみて、

 『まぁ…いっか、渡したいもん渡せたし』

 と彼は満足気な表情で渡した物に目線をやる。


 それはお菓子ではない。マカロンでもギモーヴでも無く、雑に破かれた包装紙とくしゃくしゃになったリボンの上に転がる小さな鏡。


 『来年は一緒にチョコなんて作れたらいいね。お仕事お疲れ様。ゆっくりお休み、今日のご主人様』


 自室に戻らずお菓子を食べ続ける私をそのままに、彼はこの場を後にした。



 今日はホワイトデー。

 私は食べ続ける。いつのまにか彼がいなくなっている事も、足元に置かれた小さな鏡が怪しく輝いたとしても、私は気づかず、箱の中身が無くなるまで食べ続けた。

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