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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズの概要
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ホームズ一家

 本頁では『シャーロック』や『シャーロック・ホームズ』と表記して『マイクロフト・ホームズ』との区別をつけています。

 正典ではシャーロック・ホームズの一族として言及されているのは兄のマイクロフトと、実在するフランスの画家ヴェルネの妹である祖母、遠い親戚であるヴァーナーという人物のみです。


 まずは正典で言及のある上記三人について触れましょう。




【シャーロックの兄】

 シャーロック・ホームズより優れた観察力と推理力の持ち主と言えば、真っ先にマイクロフト・ホームズ(か、ジェームズ・モリアーティ教授)の名前が思い浮かびます。


 マイクロフトはシャーロックより七つ年上で、イギリス政府で会計の仕事をしている下級役人です。しかし、実際は政策全般の調整をしているのです。


 シャーロックは183センチメートルという長身ですが、マイクロフトはそれ以上の身長を(ほこ)り、シャーロックよりも太っています。


 人嫌いに加えて、出歩くことすら嫌います。そのため、社交嫌いの人間が集まる『ディオゲネス・クラブ』の創設時の発起(ほっき)(にん)の一人となりました。


 このディオゲネス・クラブのクラブ員はお互いに他のクラブ員に絶対関心を持ってはならず、外来者室以外ではどんな理由があっても話してはいけません。


 もし談話をして委員会の注意を三回受けると談話した人物は除名処分となります。


 このディオゲネス・クラブは七年以上無事に続き、しかもロンドンの社交嫌いの大半がこのクラブに所属しています。


 無口な人物の集まりだから宣伝もせず、インターネットもなく電話もあまり普及(ふきゅう)していなかった時代なのに、ロンドンにいる社交嫌いの大半が所属しているというのは不思議ですが。


 セントジェームズ寺院からペルメル街に入ると、カールトンの通りから少し離れた建物があります。


 この建物にクラブがありました。ホームズとワトスンはマイクロフトに会うためにベーカー街から三十分から四十分をかけて、このクラブまで歩きました。


 日本シャーロック・ホームズ・クラブの関西支部の会員である紀伊国屋(きのくにや)渡舟(としゅう)さんは、どんな理由があっても談話をしてはいけないクラブだから解散のことも話せなかったのかもしれないと言っています。




【シャーロックの祖母】

 ワトスンはシャーロックの観察力や推理力は少年時代の訓練によるものだと考えていましたが、シャーロック本人は血統によるものだと考えました。


 それが、フランスのオラース・ヴェルネの妹である祖母から受け継いだものとしています。


 シャーロックは兄マイクロフトの方が祖母の血筋を色濃く引いた者だと結論付けていて、前述したようにマイクロフトはシャーロックより優れています。


 ヴェルネ一家(いっか)はナポレオンが活躍する時代にクロード・ジョゼフ・ヴェルネ、ガルル・ヴェルネ、シャーロックの祖母の兄とされるオラース・ヴェルネと三代に渡って名を()せた画家でした。


 そのせいか、シャーロックは絵画などにも興味を示し、モリアーティ教授の所有する『子羊を抱く少女』という名画の値段を知っていました。


 この名画は4万ポンドで、前頁の換金表を参考にすると現在の日本円の価値で約21億2千万円もするそうです。




【シャーロックの遠縁(とおえん)

 シャーロックの遠縁である若い医者のヴァーナーは短編『ノーウッドの建築士』の冒頭に名前が出てきます。


 注目すべきはヴァーナーのスペルです。ヴァーナーは『Verner』という(つづ)りで、ヴェルネは『Vernet』という綴りです。


 名前の末尾の『R』と『T』の違いです。ドイルは意識して書いたのでしょうか。


 これで本頁は終わってしまう、感じに見えますが違います。


 ここに『ホームズの不思議な世界』という本があります。これはホームズのエッセイ集だと前書きで書かれていました。


 その第一章『千駄ヶ谷(せんだがや)のシャーロック・ホームズ』で、シャーロック・ホームズの一族について書いてあります。


 第一章は中尾(なかお)真理(まり)さんという方が書いています。これを読んで、本頁を書くしかないと思いました。


 前書きにある通り、シャーロキアンは推理・推論で正典の謎を追究していきますが、まさに探偵のようです。




【シャーロックの兄弟】

 シャーロックは短編『ギリシャ語通訳』で、先祖が田舎の大地主だったと語っています。


 『大地主』の原文は『country(カントリー) squire(スクエア)』。『コンサイス・オックスフォード辞典』(1990年版)によると、『squire(スクエア)』は『カントリー・ジェントルマン、特に、田舎の一地方の主たる地主』と説明されていて、大地主ではありますが、貴族ではないようです。


 当時のイギリスは長子が家督を相続するようで、シャーロックの兄であるマイクロフトはロンドンで独身生活をしているので(地主の長男なら地元で結婚する)ホームズ家の長男ではないらしいんです。


 マイクロフトは役人ですが長男ではなく、少なくともマイクロフトにも兄がいたらしいです。つまり、ホームズ家は(マイクロフトの兄、マイクロフト、シャーロックを入れて)三男以上はいたことになります。


 少なく見積もっても三男であるホームズですらオックスフォード大学(またはケンブリッジ大学)を卒業出来ているので、ホームズ家は相当な家柄のようです。


 普通の家庭なら次男以下は財産を分けられないので、牧師にするか、士官学校に入れて軍人にするか、法律か医学を学ばせて弁護士か医者にするようです。


 ホームズ家はかなりお金を持っているということですね。


 私はこれを読んで、驚きました。時代背景を考慮すれば、正典に言及がなくともここまでわかるものだとは!


 ちなみに、長編『緋色の研究』でのドイルの下書きで、シャーロックは当初はシェリンフォード・ホームズとされていました。


 これを根拠として、シャーロックにはマイクロフトとシェリンフォードの二人の兄がいたという説があります。


 つまり、長男がシェリンフォード、次男がマイクロフト、三男がシャーロックということです。実際にはシェリンフォードにも兄がいた可能性もありますが、シャーロックが三男と考えるのが妥当でしょう。


 また、延原謙さん訳の『緋色の研究』でシャーロックは『田舎にいる兄弟に思いを()せる』という記述があります。


 これは延原さんの誤訳だと『シャーロック・ホームズの世界』には書かれていましたが、前述の通り田舎でマイクロフトの兄がホームズ家を継いだことはわかっているので、一概(いちがい)に誤訳とは言えないと私は思います。




【シャーロックの妹】

 シャーロックにはマイクロフト以外の兄がいた、ということは確定しています。


 しかし、シャーロックに妹がいた、というのは憶測に過ぎません。こういう説もあるんだ、くらいに思ってください。


 シャーロックに妹がいたという説の根拠(こんきょ)はいろいろあります。


 短編『花婿失踪事件』で、娘・メアリーに酷いことをした父・ウィンディバンクに『メアリーにもし兄弟か男の友人でもあったら、きっとあなたの背に(むち)を加えているにちがいなかろう』とホームズは言っています。


 また、短編『(ぶな)屋敷』では、依頼人であるハンターに『正直に申しますと、これが自分の妹か何かだったら、こういう質問はいやだと思いますね』とも言っていて、これらが根拠となり、シャーロックは妹という存在に弱いか、実際に妹がいたのではないかという説が生まれました。


 これくらいの根拠で妹の存在が指摘されています。正典に言及がないので仕方がないことですが……。


 ちなみに、この説を参考として、シャーロックに妹がいたという設定のパスティーシュやパロディがあります。


 ナンシー・スプリンガーのミステリー小説である『エノーラ・ホームズの事件簿』にはホームズに妹いたという設定があり、この小説を原作とした実写映画がNetflixにて2020年に配信されました。




【ホームズ家の先祖】

 また、オラース・ヴェルネの妹ではない方の先祖はアイルランドとイギリスの両方の貴族の血を引いていたかもしれないという説があります。


 ジョージ三世治世(ちせい)()にアイルランド貴族であるホームズという家が、その後イギリス貴族の血と交わって実在していることから、そのような説が生まれたようです。

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