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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズの概要
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ホームズの捜査方法

 シャーロック・ホームズは現場を観察して得た情報と持ち前の知識量、推理を駆使して探偵をします。


 本頁では、ホームズが探偵で使う方法を話します。




【捜査の協力者】

 長編『四つ署名』で、ホームズは『TOBY(トビー)』というスパニエルとラーチャーの雑種犬を犯人追跡に使用しています。ホームズいわく、警察より役に立つ犬、のようです。


 またホームズはベーカー街不正規連隊を捜査に使います。このベーカー街不正規連隊のリーダーはロンドンの浮浪(ふろう)少年・ウィギンズとされていますが、はっきりと名前が記されているのは長編『緋色の研究』、長編『四つ署名』の二作くらいなので、ベーカー街不正規連隊のリーダーに後任がいるのかがシャーロキアンの間での研究課題となっています。


 また、このウィギンズは『緋色の研究』でも『四つ署名』でもホームズから、次からはウィギンズ一人で報告に来いと言われています。


 二つの事件には数年の間があるのですが、その数年で成長していないということになります。


 短編『()う男』では、マーサーなる男性を使って事件を調べさせました。


 短編『スリー・クォーターの失踪』では、ホームズは事前に馬車の車輪に香りを付けており、ポンピーという犬に車輪(しゃりん)の香りを追わせて馬車の目的地を探しています。




【独特の探偵術】

 短編『ボスコム谷の惨劇』では、面白い捜査をしています。引用しましょう。


『「(前略)みんなして水牛の群れみたいにこのへんを()ね回さないうちに僕が来ていたら、どんなに造作なかったか知れやしない。ここが番小屋の連中の来たところだな。この連中が死体のまわり七、八フィートのところをふみにじって、あとかたもなくしているが、さあ、ここに三つだけおなじ足跡がのこっている」

 こういってホームズはレンズを出し、防水(ぼうすい)外套を敷いたうえに腹ばいになった。』


 引用した通り、ホームズは足跡を見るためにレンズを取りだして防水のコートに腹ばいになったんです。


 また、ホームズはいつも拡大鏡を持っています。だから、『ボスコム谷の惨劇』でレンズを出して活用出来たのでしょう。


 探偵に直接関係があるわけではない論文もホームズは書いていましたが、探偵に関係のある論文を捜査にも役立てていました。


 『ボスコム谷の惨劇』での捜査でも、論文を役立てています。犯人がどんな人物か当てる場面ですが、これも引用します。


『「(前略)あの木のうしろに隠れて、タバコさえ吸っている。現に葉巻の灰を見つけたが、タバコの灰に関する特別の知識から、インド産の葉巻と鑑定したわけさ。このタバコの灰の問題に関しては、君も知っているとおり少々研究もしたし、刻みタバコ、葉巻、紙巻など百四十種の灰を調べて、小論文を書いたこともある。あたりをよく見ると、(こけ)のなかに吸いのこりがすててあったが、これはインド産でロッテルダムでまいている種類のものだとわかった」』


 上はホームズの言葉です。しかも、この後ホームズは、見つけた『インド産でロッテルダムでまいている種類』の吸い残りの煙草の端には口に入れた様子がないことからパイプを使っていたとも推理しています。


 ホームズは『刻みタバコ、葉巻、紙巻など百四十種の灰を調べて、小論文を書いたこともある。』と言っていますが、この論文について長編『四つの署名』でホームズが言及しています。これも引用します。


『「君の著作だって?」

「うん、まだ知らなかったのかい?」ホームズは笑って、「じつは僕の畑のものを若干いたずらしてみたんだがね。たとえばこの『各種煙草の灰の鑑別について』なんかその一つだよ。このなかには百四十種の葉巻と紙巻と刻みとの外観を列記して、その灰の区別がカラー図入りで説明してある。こいつは犯人捜査中にしばしばぶつかる問題だし、重大な手掛りになることも時々はあるからね。たとえば、ある殺人事件で犯人がインドのルンカ煙草をのむ男だと確認できたとすれば、それだけ捜査の範囲がせばめられたことは明らかだからね。慣れたものから見れば、トリチノポリ煙草の黒っぽい灰と、バーズ・アイ印の白くてふわふわした灰とを判別するのは、キャベツとポテトとの区別よりも容易なことなんだ」』


 これらはホームズが論文を捜査に役立てた良い例です。他の論文も捜査に役立てていて、『ホームズの論文』の章で後述します。


 ホームズが変装を得意としたことも有名で、変装のお陰で解決した事件もたくさんあります。


 変装の仕方も多彩(たさい)で、牧師(ぼくし)や馬扱い人、船長、フランス人労働(ろうどう)者、書物収集家、老婆(ろうば)老爺(ろうや)、配管工、浮浪(ふろう)者、ノルウェー人探検家などの様々な職種(しょくしゅ)の人物に化けました。


 捜査をする前に、ホームズは情報収集をします。その情報収集に利用するのが新聞です。


 ホームズが新聞で読むのは犯罪記事の他に、尋ね人や探し物などの私的情報が掲載されている『私事(しじ)広告欄 (アゴニーコラム)』です。正典では、ホームズが新聞をよく読む描写があります。


 『ボスコム谷の惨劇』でもホームズが新聞を読んで情報収集をしている描写があります。ホームズは各社の新聞記事を列車に乗りながら読み散らかし、黙想(もくそう)にふけったりノートをとったりしています。その後、新聞で手に入れた情報をワトスンに語っています。


 読んだのは新聞の犯罪記事でしょう。


 他の作品でもホームズは新聞を読んで情報収集をしています。しかし腑に落ちない点があります。


 短編『赤髪組合』では、赤髪組合という団体が赤髪の人を高給で求人募集したのですが、これにものすごい列が出来ました。


 ここまで人気なら新聞に載るはずなのに、新聞をよく読むホームズが気付かないことがあるでしょうか?


 と、まあその点は本頁には関係ありませんね。


 ホームズの捜査方法は『ボスコム谷の惨劇』を読めば大体は見当が付くでしょう。短編なので、気になる方は読んでみると良いです。




【ホームズの推理方法】

 ホームズは観察と推理の違いをワトスンにたびたび説いています。『ボスコム谷の惨劇』も良い例なのですが、他にもっと(てき)した例があります。


 長編『四つの署名』の冒頭でのホームズとワトスンの二人の会話や短編『ボヘミアの醜聞』冒頭の二人の会話も、それに該当(がいとう)します。まずは『四つの署名』から引用しましょう。


『「たとえば観察は僕に、君がけさウィグモア街郵便局へ行ったことを知らせてくれるが、そこで君が電報を一本うったことを教えてくれるのは推理のほうだ」

「あたった!」私は思わず叫んだ。「両方ともあたった! しかし、どうしてそれがわかるんだい? けさは急に思いたって、誰にもいわずに出かけたのにね」

「簡単そのものさ」ホームズは私が驚いたのを見てにやりとして、「説明を要しないほど簡単なんだが、観察と推理との限界の説明には役立つだろう。観察によれば、君の靴の甲には赤土がすこしついている。ウィグモア街はこのごろ敷石をおこして土を掘りかえしていて、局へ行くには必ずそのうえを踏んで通らなければならなくなっている。この妙な色の赤土は僕の知るかぎりでは、ほかで見られない色だ。ここまでが観察で、これからさきが推理になる」

「それで、電報をうったとわかったのは?」

「けさはずっと君と向かいあっていたけれど、手紙を書いた様子はなかったし、それにあけはなしになっていた君の引出しには、切手もはがきもたくさん見えていたからさ。それでも局へ行くというのは、電報よりほかないじゃないか。すべてのありえないことをとり捨ててゆけば、あとに残ったのが必ず真相でなければならない」』


 また、『ボヘミアの醜聞』では、ホームズはワトスンに見るのと観察との違いを説いています。ワトスンは階段を何百回と見ていましたが、その階段が何段かは知りません。


 これだとただ見ているだけになります。ホームズは観察をしているのでちゃんと階段の段数を知っていて、これが見るのと観察との違いのようです。


 これらのことから、ホームズの推理方法は優れた観察と莫大(ばくだい)な知識量、そして推理によって成り立っているのだとわかります。


 そのために、『ボスコム谷の惨劇』であったようにレンズをいつも持ち歩いて観察を出来るようにして、実験をしたり論文を書いて知識量を増やしています。


 また、ホームズはスクラップ・ブックや、『ボヘミアの醜聞』の時のように、様々な人物の要点だけを記して整理しています。


 ホームズは日々、(おのれ)の探偵術を(みが)いているんです。


 現代の探偵も、さすがにホームズの捜査方法を参考にすることはないでしょう。


 このホームズの捜査方法は、いかにホームズが向上(こうじょう)心に(あふ)れる優れた探偵だったのかということを物語っています。

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