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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズ関連エッセイ
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正典と薬

【気付け薬】

 気付け薬は正典にいろいろと登場しています。短編『ギリシャ語通訳』ではアンモニアとブランデーが気付け薬として出てきます。気付け薬としてのブランデーは短編『海軍条約文書事件』でも登場し、かなりポピュラーなものとなっています。

 短編『フランシス・カーファクス姫の失踪』ではアンプル詰めのエーテルが気付け薬として登場していて、エーテルの鼻をつく刺激臭が気付け薬として作用していたようです。このエーテルはアンプルに入れて持ち運ぶとのことです。

 短編『ウィステリア荘』では濃いコーヒーが気付け薬として登場し、女性はコーヒーを気付け薬として以外には飲みません。当時はコーヒーは男性中心の飲み物で、男性はコーヒーを飲む場所に入り浸っていたため女性からの反感も強かったようです。

 そして短編『まだらの紐』ではホームズがコーヒーを眠気覚ましとして女性の依頼人にすすめていて、見事に断られています(笑)。

 このコーヒーに含まれるカフェインですが、成人では一度に10グラム以上摂取(せっしゅ)すると危険と言われているほどの毒になります。人間より解毒作用の弱い動物や昆虫にとっては、カフェインを含んだ植物は口にしてはいけないほどの恐ろしい毒草です。

 コーヒーや緑茶一杯に含まれるカフェインの量は数十ミリグラムで、1ミリは1000分の1です。長編『バスカヴィル家の犬』ではホームズは一夜にしてポット二杯のコーヒーを飲んでいて、林庄宏さんによるとカップ十杯相当ではないかということのようです。

 一杯に含まれるカフェインの量が10ミリグラムと仮定して、ホームズは一夜にして100ミリグラムほどのカフェインを摂取したことになります。誤差を考えても、一度にポット二杯のコーヒーを飲んでも死にはしません。

 上記にも書いたようにカフェインは緑茶にも含まれていますが、(一説によると)1689年まではイギリスでは緑茶を飲んでいましたが、アモイから輸入した茶が『ボーヒー(紅茶)』だったので緑茶を飲むことが出来なくなったようです。

 アモイと言えば中国で、青いガーネットが見つかった(実在しない)アモイ川があるところですね。



【クロロホルム】

 クロロホルムですが、開発されたのはエディンバラ大学医学部で、1847年以降は出産の際に痛みを和らげるのが目的だったようです。

 クロロホルムは推理小説などで、ハンカチに染み込ませてそれを()がせて眠らせるなどのように使われています。クロロホルムによって眠らせるには気化させることが大切ですが、常温でもクロロホルムは気化します。しかし、ハンカチに染み込ませる程度の量ならば相手を眠らせることは難しく、眠らせるにしても相手の体を三十分間固定しておく必要があります。

 つまり、推理小説などで見るようなクロロホルムによって眠らせる方法は、実現な困難です。

 クロロホルムを布に染み込ませたものを口に押しつけられて眠らされた短編『三破風館』や、クロロホルムのガスで眠らされた『フランシス・カーファクス姫の失踪』、クロロホルムが染み込んだスポンジで眠らされた短編『最後の挨拶』のように正典にもクロロホルムは登場しています。

 特有の臭気を持つクロロホルムは、エタノールに水とさらし粉を混ぜて蒸留することによって得られる無色の揮発(きはつ)性液体です。



【強心剤】

 強心剤とは、衰弱した心臓の機能を高めるために使用する薬剤のようです。

 フリードリヒ・エンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』によると、医者にかかれない労働者達は、有害な売薬(ばいやく)を購入していました。広告に書かれている売薬の効能を信じたからです。

 その中でも『ゴットフリーの強心剤』という水薬を乳幼児に飲ませていました。その水薬は大人しくさせる効果があったものの、それはアヘンが入っていたための効果であって、体に有害でした。それを飲んだ乳幼児達は『顔色の色つやもなくなり、生気を失い、虚弱(きょじゃく)になり、たいていは二歳にならないうちに死んでしまう』と記されているようです。

 薬を与えていた親達は、有害なものだとは思ってもいませんでした。



【毒物の実験台】

 薬とは正反対の話しですが、一応書いておきます。ホームズの毒物の実験台については『正典の謎』の章の『正典での毒物』でも触れたので、そこで書いたことは極力省きます。

 ホームズは毒物の実験台として長編『緋色の研究』では犬を、短編『悪魔の足』では自分を使っています。

 なぜ自分を毒物の実験台にしたのかにについて、新野英男さんはホームズはなおも刺激を求めていたのではないかと言っています。

 しかし、薬物の効果を自分の体で試す、というのはドイルやエディンバラ大学医学部のドイルの先輩達もやっていたことらしく、一概(いちがい)にホームズは刺激を求めたかったのだとは言えません。

 私は、ホームズが未知の毒物『悪魔の足の根』を口にしたこととゲルハルト・シュラーダー博士についての話しが似ているとよく思います。シュラーダー博士はサリンの発明者として知られています。有機リン系の毒物を合成して普段から被曝(ひばく)していたため、シュラーダー博士本人が気付かないうちに人類初の毒ガス耐性人間になっていたようです。

 つまりホームズは、毒物の耐性を得たかったのではないかということです。まあ、そんなことはないでしょうが。

 明日は『「這う男」の元ネタ』を投稿します。

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