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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズ関連エッセイ
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ホームズと日本

【日本人風のホームズ像】

 日本国内でホームズを感じられる場所は少ないです。その数少ない、日本でホームズを感じられるのが軽井沢の追分(おいわけ)にあるホームズ像です。

 軽井沢のホームズ像については『ヴィクトリア朝イギリス』の章の『ホームズ像』の頁で書きました。その頁で、軽井沢のホームズ像は日本人風の顔立ちだと書きましたが、最初から日本人風の顔立ちに作られたとは限りません。長い年月を掛けて風化し、顔が削れて偶然にも日本人風の顔立ちになった可能性も十分に考えられます。

 軽井沢にあるホームズが1988年に建てられたものなので、2021年現在に至るまでに33年も経過していることになります。33年も建てば風化することはあるでしょう。

 このホームズ像が建てられたばかりである写真でも日本人風の顔立ちだったならば、最初から日本人風の顔立ちとして作られたことがわかります。どちらが正しいのか知るべく、私は出来るだけ古い軽井沢のホームズ像の写真を探してみました。

 まず検索エンジンを開き、『軽井沢のホームズ像 除幕(じょまく)式』と打ち込んで調べました。除幕式の写真だったらもっとも古いものなので良いと思いました。しかし、除幕式についての記事だけで写真まで掲載(けいさい)しているサイトはなかなかありません。

 一時間程度スマホの画面とにらめっこをしていましたが、結局は除幕式の写真は見つからずに(あきら)めました。それが2021年の4月の始め頃だったと思います。それからはこの問題の解決を試みることはありませんでした。

 しかし、2021年4月29日に奇跡が起こったんです。私はツイッターで北原尚彦さんをフォローしていますが、それが(こう)(そう)しました。フォローした人のツイートが自分のところにも入ってきますが、その機能が北原さんの軽井沢のホームズ像についてのツイートを発見することに役立ちました。そのツイートには軽井沢のホームズ像の写真も載せられていて、写真は除幕式のもののようです。それを見た時、私は目を輝かせました。

 除幕式の写真は少しぼやけているものの、ホームズ像の顔立ちが現在のものと何ら変わっていないとわかります。つまり、軽井沢のホームズ像は最初から日本人風の顔立ちとして作られたわけです。

 まあ、考えてみればホームズ像の顔が削れるなんてことはないでしょう。ホームズ像の立っている位置は高すぎるので、顔には手が届きません。触られることがなければ早々に削れることはないので、最初からわかりきっていたことかもしれません。ですが、結論が出たので私としては満足です。



【中国か日本か】

 短編『赤髪組合』にて、ホームズは質屋ウィルスンが中国に行ったことがあると言い当てます。その根拠としては、ウィルスンの右手首のすぐ上にある(うろこ)を美しいピンクに染めるような魚の刺青(いれずみ)が中国独特のもので、懐中時計の鎖に四角い穴の小さなコインを付けていたからです。

 しかし、これには疑問があります。ホームズは美しいピンクに染める刺青の技術が中国独特のものだと言っていますが、日本の江戸時代の方がそれよりはるかに複雑な刺青の技術が発達していたようです。

 また、ウィルスンがしていた魚の刺青が、背中に彫った(こい)のぼりのものだという可能性があります。鯉のぼりは日本の江戸時代に生まれたもので、鯉のぼりの刺青は当時は日本独自のものでした。

 ウィルスンの懐中時計に付いていた四角い穴のコインは中国のものだとしていますが、中国の『永楽通宝』ならば日本にもありました。ホームズは、コインに漢字が書かれていたことから中国のものだと考えたのかもしれません。

 上記のことから、ウィルスンは本当に中国に行ったのか、本当は日本に行ったのではないのか、ということがよく言われています。

 様々な解釈がありますが、私が考えるにもっとも自然なものは『ウィルスンは中国にも日本にも行っていた』というものです。どういうことか説明しますと、ウィルスンは以前に中国へ行き、それから日本に行って鯉のぼりの刺青をして『永楽通宝』を時計に付けて帰国します。

 それからホームズの元へ行きますが、ホームズは中国に行ったのだと勘違いをします。そしてホームズはウィルスンに『中国に行ったでしょう?』と言って、ウィルスンは以前に中国へ行ったことがあったのでうなずきます。

 しかしウィルスンは、その推理の根拠をホームズに尋ねなかったのではないでしょうか。ウィルスンは赤髪組合が解散して非常に(あわ)てていたのだと描写からわかるので、根拠を聞く余裕がなかったのかもしれません。

 事件解決後にウィルスンはホームズの推理のことを忘れますが、ワトスンは小説を書くために推理の根拠をホームズに尋ねます。ここでホームズは刺青とコインについて話しますが、事実を知っているウィルスンはいないのでワトスンも納得して小説に組み込んだ、というものです。

 これなら矛盾点はないと思います。『赤髪組合』の発表は少しあとなので、ウィルスンもその間違いに気付かずに終わったことになります。これが一番自然です。

 日本での『永楽通宝』の流通は江戸時代の始め頃までですが、古銭として日本に残っていたものをウィルスンが持ち帰ったということならギリギリセーフなのではないでしょうか(少々無理があるので焦っております......)。



【赤髪を黒くする薬】

 さて。ウィルスンが日本に来ていたとして、疑問が残ります。ウィルスンは外国人というだけで日本でも目立ってしまいますが、赤髪でもあります。ウィルスンは目立ってしまう赤髪のまま日本に行ったのでしょうか。

 いろいろと調べてみると、赤髪を黒くする方法が書かれた本がありました。1888年の『内外大医之秘法集』によりますと、材料は『芫菁丁幾四拾匁』『グリスリン三拾貮匁』『薔薇水拾六匁』『アルコール一貫目』です。

 これだとわかりにくいので、まずは材料について説明をします。まず芫菁(ツチハンミョウ)丁幾(チンキ)四拾(もんめ)ですが、ツチハンミョウをアルコールで薄めた液体を四十匁(150グラム)ということだと思います。

 グリスリン三拾貮匁はグリスリンを三十二匁(120グラム)のことで、薔薇水拾六匁は薔薇水を十六匁(60グラム)、アルコール一貫(いっかん)(もく)はアルコールを一貫(3.75キログラム)のことです。

 上記の材料を順番に(びん)などに混ぜて密閉(みっぺい)しておけば、赤髪を黒くする薬になるとあります。このような薬で、ウィルスンは髪を黒くして日本に来たのかもしれません。

 明日は『正典と薬』を投稿します。

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