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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ヴィクトリア朝イギリス
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実在する凶悪犯人

【クー・クラックス・クラン】

 短編『オレンジの種五つ』に登場し、実在するアメリカの秘密結社であり白人至上主義の団体。『オレンジの種五つ』に登場する(実在しない)『アメリカ百科辞典』にはクー・クラックス・クランについては以下のようなことが書かれています。


小銃(しょうじゅう)撃鉄(げきてつ)を掛けるときの音と(みょう)に似通ったところからつけられた名で、この恐怖すべき秘密結社は南北戦争終結後、南部連邦(れんぽう)のもと軍人であった一部の人々により組織され、たちまち全国にひろがり各地に支社をおくにいたった。とくにテネシー、ルイジアナ、南北カロライナ、ジョージア、フロリダの各州に(いちじる)しい。その勢力は政治目的、主として黒人有権者への威嚇(いかく)、ならびに結社の政見に反対する者を殺害し、または国外へ逐放(ちくほう)するために用いられた。結社が暴行を加えるまえには目標の人物に対し、奇抜(きばつ)ではあるが一般に知られた方法による警告──ある地方では(かし)の小枝、またある地方ではメロンやオレンジの種を使用する──を送りつけるのを常とする。この警告を受けた者は、それまでの自己の主義を捨てることを公然と誓約(せいやく)するか、さもなければ国外へ去るか、二つのうち一つを選ばねばならず、この警告に従わない者があれば、かならず死を招く結果になり、しかもその方法は奇怪でまったく予想できないのが常である。結社の組織はきわめて完備し、その手段はすこぶる巧妙であるから、警告に従わずに死をまぬがれた者はいまだかつて記録にない。また暴行についてもその加害者が判明した例もない。このようにして合衆国政府ならびに南部諸州の善良な社会の人々の努力も(むな)しく、数年にわたり結社は暴威をふるったが、一八六九年にいたり突如(とつじょ)瓦解(がかい)するにいたった。ただしその後も同種の事件は間歇(かんけつ)的に発生している。』


 クー・クラックス・クランの略称は『K・K・K』ですが、実在するクー・クラックス・クランは上記のようにオレンジの種やメロンなどは送りつけません。実際に送りつけるのは『燃える十字(じゅうじ)()』です。

 また、クー・クラックス・クランの名前の由来は、『円環(えんかん)』や『集まり』を表す『kuklos』が転訛(てんか)したことと『氏族』を表す『clan』だとする説が一般的ですが、ドイルが創り出した『アメリカ百科辞典』には『小銃の撃鉄を掛けるときの音と妙に似通ったところからつけられた名』と説明されています。これについて日暮雅通さんによると当時あった別の百科辞典にも似たような記述があるようで、ドイルはそれらの記述に(なら)って『アメリカ百科辞典』を創ったようです。

 クー・クラックス・クランは南北戦争後に南軍の退役(たいえき)軍人を中心に、南部連合の奴隷(どれい)商人などにより組織され、白い装束(しょうぞく)を身にまとい、覆面(ふくめん)を付けて『黒人や有色人種(または黒人などを擁護(ようご)する()())』に対して脅迫(きょうはく)や暴行をしました。

 このクー・クラックス・クランは1869年に、アメリカ政府によって解体されて一旦(いったん)姿を消します。『オレンジの種五つ』事件は1887年に起きたと設定されていて、活動をしていないクー・クラックス・クランが暗躍(あんやく)して殺害までしていたという、当時の人が見たら恐怖で絶叫(ぜっきょう)ものの作品です。

 1915年に活動を再開し、その後また消滅(しょうめつ)。現在も活動を続けるクー・クラックス・クランは三度目に復活したものです。

 当時のクー・クラックス・クランのメンバーが『オレンジの種五つ』を読んだら、どう感じるのでしょうか。



【切り裂きジャック】

 同時代の凶悪犯人として一番有名だと言っても過言ではない人物がいます。連続殺人鬼であり現代的な劇場(げきじょう)型犯罪の元祖とも言われる、通称ジャック・ザ・リッパー。日本では切り裂きジャックと呼ばれます。

 切り裂きジャックの正体は不明で、(いま)だに未解決です。このことから、切り裂きジャックとホームズを戦わせるようなパスティーシュなどが数多く書かれています。

 1888年の九月頃から十一月に掛けての連続殺人事件で、その頃のホームズは短編『ギリシャ語通訳』、長編『四つの署名』、長編『バスカヴィル家の犬』を手掛けていました。また、『バスカヴィル家の犬』の第十五章の冒頭で二つの語られざる事件までも手掛けていたと書かれています。二つの重大な事件というのは、ノンパレル・クラブのカード不正事件に関連してアップウッド大佐の非行を暴いたもので、もう一つはモンパンシエ夫人が義理の娘カレール嬢を殺したという容疑を晴らした事件です。しかも、カレール嬢はニューヨークで結婚していたと、六ヶ月後に判明しました。そのせいでホームズが疲れていることもあるのか、切り裂きジャックは正典では登場していません。

 ホームズの宿敵であるモリアーティ教授のモデルとしても、切り裂きジャックが挙げられています。

 パスティーシュとしてホームズと切り裂きジャックが対決するものは『ホワイトチャペルの恐怖』や『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』などがあります。『ホワイトチャペルの恐怖』には、正典で語られた事件を差し置いて『シャーロック・ホームズ最大の事件』という副題が付けられています。それほど切り裂きジャックとホームズは強く結びついています。他にも、『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』の一部で切り裂きジャックが登場していました。

 ベアリング・グールドの『シャーロック・ホームズ ガス(とう)に浮かぶその生涯』では、切り裂きジャックの正体がアセルニー・ジョーンズ警部ということになっています。切り裂きジャックの犯行方法から、切り裂きジャックには解剖学の知識があったようだとわかっていて、ジョーンズ警部は当然解剖学の知識がありました。また、正典で切り裂きジャックが登場しなかった理由について、ジョーンズ警部が正体だと露呈(ろてい)しないようにスコットランド・ヤードがしたからだともされています。

 ジョーンズ警部は『四つの署名』と短編『赤髪組合』で登場しますが、『四つの署名』に至っては切り裂きジャックが犯行をしていた最中の事件です。『赤髪組合』は時系列だと切り裂きジャックが現れる前になります。切り裂きジャックの正体であるジョーンズ警部との捜査をホームズが断っていたから、ジョーンズ警部が二作品にしか登場していなかったのかもしれませんね。

 ここまで話題性に富んだジョーンズ警部ですが、Wikipediaではジョーンズ警部の項目がありません。いろいろな文献でもジョーンズ警部についての項目があまり見られませんし、ジョーンズ警部の真価をほとんどの人が気付いてないということでしょう。かくいう私もジョーンズ警部についてくわしくは書いていませんが、本作の最後の方で設ける予定の『ホームズ辞典』の章で後述します。

 ネタバレしてしまって難ですが、『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』は読むべきです。正しい根拠から解釈してホームズの生涯を小説にしているので、様々な意味で驚きます。

 明日は『ホームズ像』を投稿します。

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