耳に関する論文
いつの間にか寝てしまい、この時間となってしまいました。
ホームズは短編『ボール箱』で、耳に関する論文を書いていると言っています。実際にこの論文を役立てて『ボール箱』の事件を解決しています。前田宣さんはこの推理を『ベルティヨンばりの人体特定法』と評しています。
ホームズは人体のうち耳ほど変化が激しいものはないと言っていて、ホームズが書いた耳に関する二つの論文は『人類学会雑誌』に掲載されたようです。
ちなみに、『ボール箱』で耳に関する二つの論文は昨年に『人類学会雑誌』に掲載されていたとあり、『ボール箱』事件は1889年に発生したので、このことから1888年に『人類学会雑誌』に掲載されたことだとわかります。
これについて、ホームズの言わんとしていることがわかります。絵にしても、別人の絵かどうかを見分けるにはタッチを見るんじゃなくて耳の描き方を見れば良いからです。この見分け方を使って描いた人物が同じだと特定するシーンが、米澤穂信さんの『クドリャフカの順番』にあった記憶があります。
また、漫画を読んでいても耳だけが赤くなっています。耳は血管が集中しているから感情の変化で熱くなったりすると聞いたことがあります。
短編『ボール箱』では、ボール箱に入っていた二つの耳を観察したホームズは、二つ耳が同一人物のものではないとして捜査を開始しました。
解剖室での生徒が悪ふざけで送りつけたものではないとホームズが結論付けた理由は、防腐剤が耳に注入された跡がないからです。
そして医学の心得がある人物が粗塩を防腐剤として使うわけがないことから、重大な犯罪だとしています。
そして耳を観察し、一つの耳は小さくて上品な形の女性のものだと、もう一つの耳は日に焼けて色が変わった男性のものだと推理します。それぞれの耳にはピアスの穴が開いていました。
そして、耳の持ち主が死んでいなければ、すでに耳を切られた者のニュースがあるはずだからとして、二人とも死んでいると推理を徐々に展開していきました。
耳が入ったボール箱が投函されたのが港町、ボール箱を縛る紐の結び方が船員がするものの一つ、男がピアスの穴を開けていた(船乗りの方が一般的)ことから船乗りと絞り込みます。
これ以上はネタバレになりますので控えさせていただきます。
また、短編『グロリア・スコット号』で、ホームズはトレバー老人の耳の独特な平たさと分厚さからボクシングをやっていたことを言い当てました。『グロリア・スコット号』事件を学生時にホームズが解決したことが切っ掛けで探偵を志しますが、この頃から探偵に必要な知識は身についていたようです。
ちなみに、ホームズはトレバー老人が日本に行ったことを当てていますが、その根拠は記されていません。
ただトレバー老人は仲の良かった人物のイニシャルを刺青をしており、イギリス貴族は日本土産として刺青をいれるのが当時は流行していました。アルフレッド王子をはじめとして、ロシア皇太子のニコライ二世も来日して刺青をしています。
日本には世界的に有名な彫り師の彫千代がいて、彫千代の刺青の見本にはイニシャルなどの見本も残っています。だからホームズはトレバー老人が日本に行ったのだと推理したのではないか、と外海靖規さんは『トレバーは何しに日本へ? グロリア・スコット号を深読みする』にて言っています。そこから脱線し、ホームズがトレバー老人をボクシング経験者だと見抜けたのは、日本で柔道耳を学んだからではないかとも言っているようです。
そこでは、トレバー老人が日本に来た理由についても話しています。それによると、幕閣官僚の国際金融の無知につけ込んで金銀の交換比率と洋銀と日本銀貨の含有率の差を利用して、蓄財に励んだのではないか、というものです。確かに当時はそういう金儲けが日本であったと、私は記憶しています。
話しを戻しまして、短編『赤髪組合』では犯人の両耳にピアスの穴が開いていたことから、ホームズは犯人を特定しました。
短編『フランシス・カーファクス姫の失踪』では、左耳がギザギサか千切れていたようになっていたという耳の特徴が、『赤髪組合』同様に人物の特定に用いられました。
耳に関する論文が書かれたのが1888年で、『赤髪組合』事件は1887年に起こっていました。『フランシス・カーファクス姫の失踪』事件は1902年に発生していて、耳に関する論文は少なくとも二回(『ボール箱』と『フランシス・カーファクス姫の失踪』)は事件解決に役立てられています。『赤髪組合』事件で、論文のテーマを得ることが出来たのでしょうか。
明日は『百六十種類の暗号記法の分析』を投稿します。