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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズの論文
28/53

職業が手の形に及ぼす影響

【正典での描写】

 ホームズは職業が手の形に及ぼす影響について、論文を書いています。これはスレート職人、水夫、コルク切り工、植字工、織物工、ダイヤモンド研磨(けんま)工の手の形を研究して論文にまとめたものです。長編『四つの署名』によると、それぞれの職業の人物の手を絵にして説明しているようです。

 この論文は簡単に言うと、手の形だけで職業を見分ける研究のようなものになります。

 この論文の内容は、作者のドイルは言及していませんが、短編『赤髪組合』でホームズが推理したことが例題に適しています。

 ホームズは『赤髪組合』で赤髪の依頼者ウィルスンの手を見て、左手より右手の方が一回り大きいことから手先の労働をしていたと推理しています。実際にウィルスンは船大工で身を立てた人物でした。

 また、短編『美しき自転車乗り』では依頼人であるヴァイオレット・スミスの手を丁寧に見て、音楽家だとホームズは見抜きました。スミスの指先はヘラ状となっていて、ホームズはこのことからタイプライターを打つ職業だと推理します。しかし顔に精神性があることからタイプライターではなく音楽家だと推理し、見事にスミスは音楽教師でした。

 他にも、短編『グロリア・スコット号』でトレバー老人の手のタコを見て、採掘(さいくつ)をかなり経験しているとホームズが見抜きます。実際にトレバー老人は金鉱(きんこう)で財産を成しました。

 当時は力仕事が多く、何年もその仕事をしていると手の特定の部分が発達したり変形したりしたようです。

 短編『踊る人形』では、ワトスンの左手の親指と人差し指の間にあるくぼみにチョークが付いていたことから、ホームズはワトスンがビリヤードをしていたと考えます。というのも、ワトスンはビリヤードをする時にキューを安定させるためにチョークを付けるようです。

 また、これは手の変化ではなく袖口(そでぐち)ですが、短編『花婿失踪事件』では依頼人の袖口に二本の筋の跡がついていました。そこからホームズは、タイプライターを使うときに袖口をテーブルに押しつけるからタイピストだと推理しています。

 ただ、この推理については、オルガン奏者(そうしゃ)も同様の跡が残るため、音楽を趣味(しゅみ)とするホームズなのに痛恨(つうこん)のミスです。ただ、幸いにも、依頼人がタイピストだということは的中していました。



【アルフォンス・ベルティヨン】

 ホームズは『四つの署名』で、論文『職業が手の形に及ぼす影響』が科学的捜査や犯人の前科などを調べるのに役に立つと言っています。これはおそらく、ドイルはアルフォンス・ベルティヨンの方法を真似たものだと考えられます。

 アルフォンス・ベルティヨンの名前は長編『バスカヴィル家の犬』で登場します。モーティマー博士はホームズの前で、ベルティヨンを『ヨーロッパ第一の探偵』と言っています。つまりホームズがベルティヨンより格下だと言われたということです。

 このベルティヨンは実在した人物です。このベルティヨンは、当時革新的なことをしました。それは、ホームズが論文でやったようなことです。

 19世紀末に警察が犯人特定に用いることになったのが、一般化し始めた写真でした。人の姿をそのまま保存にするには、似顔絵を描くより有用です。

 しかし、写真データが膨大(ぼうだい)になることは止められず、しかも写真データは容疑者のアルファベット順に並べられていたようです。名前から写真には辿(たど)り着けても、写真から名前までには辿り着くのは至難です。

 ベルティヨンは警視庁で働いていて、写真の整理を進める内に、人体の特徴を分類して文字化すれば、写真に写る人物の身体的特徴から個人を特定出来ると考えました。

 そのベルティヨンがまとめた『口述ポートレート』には、測定(そくてい)された人体の全体や部位を正規分布(ぶんぷ)に従って大・中・小に分類した、個人的特徴の記述や写真が載っているようです。

 容疑者の背の高さや頭の大きさ、耳の大きさなどを絞り込んで、ほくろやあざ、傷などの個人的特徴から特定しました。この方法はヨーロッパ全土に広まりました。

 このベルティヨンの方法を真似て手に重点を置いたのが、論文『職業が手の形に及ぼす影響』だと思います。この論文はベルティヨンの方法の劣化(れっか)版なのでしょうか。

 ただベルティヨンの方法と決定的に違うのは、ホームズの論文は手の形から()()()()()()()ということです。ベルティヨンの方法は体の特徴から特定の人物を(しぼ)り込みますが、ホームズの論文の場合は手の特徴から職業を見分けて、その職種(しょくしゅ)の人物の中から絞り込んでいくというものです。

 ベルティヨンの方法に比べ、ホームズの考えた方法だと写真を必要とせずに職業が絞り込めます。

 スレート職人、水夫、コルク切り工、植字工、織物工、ダイヤモンド研磨工の七つの職業に限定的ですが、ホームズの論文も画期(かっき)的なものです。他にも耳に関する論文も書いていて、この論文と併用(へいよう)することで真価(しんか)を発揮することでしょう。

 本作の『正典の謎』の章の『「赤髪組合」の謎』で述べたように、『顔のパーツから性格や能力が判定出来るという考えが常識としてヨーロッパに定着』していた時代に、ベルティヨンは素晴らしい方法を思いつきました。いずれにせよ、ベルティヨンもホームズも立派な探偵だということです。

 明日は『耳に関する論文』を投稿します。

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