技師の親指はなぜ切れたのか
短編『技師の親指』では、ハザリーという技師が両手で窓枠にぶら下がっている時に、左手の親指を包丁でスターク大佐に切り落とされます。
しかし、指の位置的に親指だけが切り落とされることはなく、他の指にも傷が付くはずです。
この謎について日暮雅通さんは言及していました。
ドイルが、この絵は私の描くホームズそのものだ、と言ったと伝えられる、シドニー・パジェットのホームズの挿絵があります。
パジェットは『技師の親指』の挿絵で、ハザリーが片手で窓枠にぶら下がっているように描いています。
しかし作中では『両手でぶら下がった』などと書かれていて、挿絵は信じずに話しを進めましょう。
ただし日暮さんは、ハザリーが力尽きたか武器を避けようとして片手になった可能性もあると付け加えています。
窓敷居に浅く指をかけてぶら下がる場合は親指が真っ直ぐ伸びるのが自然なので、武器が振り下ろされたら他の指も傷付きます。
ですが、窓敷居の幅が広ければ手の平と親指が平らな部分に置かれるので親指のみを切断することが可能になります。
このような可能性は海外のシャーロキアンなどが言っているようです。
日暮さんはまず、スターク大佐がハザリーの頭を狙って確実に殺そうとしていて、パジェットの挿絵のようにハザリーの頭が下がっていると仮定し、スターク大佐は半円を描いて身を乗り出すように頭を狙います。
これが失敗し、窓枠の外側に武器が当たれば、左手の親指だけ切り落とされるのではないか、という自説を述べています。
下に絵を描きました。ご参考までに。
つまり、左手の親指だけが切り落とされる可能性は十分にある、ということです。
ちなみに、ハザリーの親指を切り落としたのは包丁ですが、作中には『butcher's cleaver』とあります。
直訳で『肉屋の包丁』であり、振り下ろせば指の骨程度なら簡単に切れます。
また、技師の親指がスターク大佐なる人物に切られたかどうか怪しいことから、ハザリーの言っていることはでっちあげだとも言われています。
その説には親指の件以外にも根拠があり、血だらけだったハザリーの服にワトスンは疑問を抱かなかったことや、水圧機からハザリーは脱出したのですがそんなことが可能かということなどが挙げられます。
しかもこの事件は未解決であり、現場からも何も見つかりませんでした。
また、事件発生は1889年夏(ベアリング・グールドの説だと9月7日~9月8日)で、『技師の親指』の発表はストランド・マガジン1892年3月です。
その間にも事件は未解決のままでして、ホームズがここまで事件解決にてこずるでしょうか?
ホームズがその後に『技師の親指』事件の捜査をしなかった可能性もありますが、あのホームズが真相に辿り着けないわけがないのです!
ただ、ハザリーがでっちあげた事件ならば、ホームズが解決出来ないのにも納得がいきます。もしかするとですが、そういうことなのかもしれません。
実際はどうかわかりませんが、ここまで根拠があるとハザリーでっちあげ説の方が濃厚です。
私はホームズをリスペクトしているので、ハザリーでっちあげ説を支持します。そうしたらホームズが事件の真相に辿り着けなかった、という汚点がなくなりますからね(笑)。
その考えに則ると、ハザリーはなぜ事件をでっちあげたのか、ということになります。
そのことに言及している文献は持っていないのでわかりませんが、親指を切ってまで事件をでっちあげていることになるので相当のことがあったのでしょう。
ランプが潰されて現場は火事になっていますが、ランプが潰れて出火という原因も現実的ではありません。
もしかすると、捨てたかった何かを燃やすために火事を起こし、出火の原因も偽装して親指の切ったのかもしれません(笑)。
今日のちょうど130年前である1891年5月4日に、ホームズはバリツによってモリアーティ教授を倒しましたよ!