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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
正典の謎
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青いガーネットの正体

 ホームズシリーズの短編『青いガーネット』では、青色のガーネットという宝石が出てきます。


 そのため、シャーロキアンの間では青色のガーネットの正体が議論されていますが、(いま)だに定説はありません。




【『青いガーネット』】

 そもそも、短編『青いガーネット』についてネタバレをせずに説明をしましょう。


 この事件の発生は1887年12月27日であり、クリスマスのために書かれたも短編になります。内容もクリスマス色があり、ガチョウが鍵を握っています。


 ちなみに、クリスマスに七面鳥を食べるという習慣(しゅうかん)はヴィクトリア朝のイギリス(つまり当時のイギリス)の富裕(ふゆう)層が食べ始めたことが発祥(はっしょう)ですが、一般家庭ではガチョウを食べていました。


 この小説の冒頭でのホームズの推理は傑作(ぞろ)いの短編集『シャーロック・ホームズの冒険』の中でもひときわ目立ちます。


 帽子を見ただけで持ち主についてズバズバと推理していく部分は楽しく読め、犯人を突き止める仮定でのホームズの推理や駆け引きも読んでいて飽きません。これがこの作品が人気の理由の一つでしょう。


 ただ、この作品はホームズの推理が必ずしも的を()ているわけではない良い例です。ホームズは帽子が大きいことから持ち主は脳が大きく頭が良いと推理しています。




【ガーネットとは】

 ガーネット、和名は『ざくろ石』である宝石です。ガーネットには白、黄、(オレンジ)、赤、緑、(むらさき)、茶、黒などの色は存在します。


 しかし、青色のガーネットは天然物では今に至るまで発見されず、人工的な青色のガーネットも当時はありませんでした。




【人工的な青いガーネット】

 宝石の色は微妙な成分の差で変わります。そのため、現在では人工的に青色のガーネットを生み出すことが出来ます。


 ガーネットに微量のコバルトを加えると、鮮やかな青いガーネットになります。コバルトは(どう)に変えても青いガーネットにはなりますが、天然のガーネットにコバルトや銅は入らないので、天然産の青いガーネットはまだ発見されていません。


 また、『ツーボライト』や『ウバロバイド』と名付けられた緑色のガーネットが見つかっています。南極でもバナジウムも含む緑色のガーネットが発見されており、それぞれ天然産です。


 また、光りで色が変わるアレキサンドライトのようなベキリーブルーガーネットというものがあります。これは見方によっては青くも見えるそうです。


 他にも、光りで七色の(にじ)色に変わるレインボー・ガーネットというものもあります。




【作中での青いガーネットの特徴】

 二万ポンド、つまり約十万ドルの価値があり、アモイ川で二十年程度前に発見されています。


 色が青という以外は、一般的なガーネットの特徴と同じであり、空豆(そらまめ)より少し小さいくらいの大きさで、四十グレーンの炭素の結晶。ガラスがバターのように切り裂けます。


 ガーネットは炭素の結晶ではないので、青いガーネットを四十グレーンの炭素の結晶だと書いたのはドイルの誤りだと言われています。


 このことについて平賀三郎さんは『ホームズなんでも事典』にて『ホームズは「わずか40グレーンの炭素の結晶」と説明し、ダイヤモンドと混同しているが、これは女性に宝石など(おく)ったことがないので、それほど詳しくなかったからだろう。』と言っています。


 ちなみに、二万ポンドを前述した換金表で現在の日本円になおすと、約10億6千万円になります。つまり、青いガーネットはそれくらいの価値ということです。実感は()きましたでしょうか?




【青いガーネットの正体】

 青いガーネットの正体に定説はなく、様々な説があります。


 正体をサファイア、緑色のガーネットなどにする説や、ホームズが『四十グレーンの()()()()()』と言っていることからブルーダイヤモンドではないかとする説もあります。


 ですが作中で青いガーネットはガラスをバターのように切り裂けると書かれていて、これを信じるならばダイヤモンドはガラスに傷を付けることは出来ないのでブルーダイヤモンド説は一蹴(いっしゅう)出来ます。


 本頁を書くにあたって参考にした『青いガーネットの秘密』という本があります。筆者は奥山(おくやま)康子(やすこ)さんという女性の方で、理学博士らしいです。つまり、化学とかに通暁(つうぎょう)したプロです。


 この奥山さんは『青いガーネットの秘密』で、青いガーネットの正体について自説を述べています。


 それによると、アモイという地名はあっても川はなく、宝石は取れませんが、アモイを経由したのならアモイ川で発見された宝石だと伝わってしまうことはあり得るらしい。


 また、カーバンクルはガーネットの古い呼び名で、丸くカボション・カットに磨き上げられたサファイア(特にスター・サファイア)をブルー・カボションと呼ぶそうで、そのブルー・カボションがブルー・カーバンクルとされたならば青いガーネットの正体はブルー・カボションかもしれないとのこと。


 なるほど、ちょっと横文字が多すぎて頭に入りません。


 しかもブルー・カボションなどコランダム系サファイアなら天然鉱物でダイヤモンドに次ぐ硬さなので、ガラスをバターのように切れてもおかしくないそうです。


 また、現在の研究レベルからすると、青いガーネットは()()()()()()()()()()()()()()()だという解釈も出来るようです。


 鉱物(こうぶつ)知識が未発達の時代なので、他の青い宝石を青いガーネットだと誤認していた可能性もあります。


 一方で日暮雅通さんは、この世には存在しない『青いガーネット』だから不思議であり、常識などから逸脱(いつだつ)したことが起きるのがミステリーの魅力だと語っています。


 これには同感です。謎は謎のままが一番の場合もあります。


 ドイルは青いガーネットが存在しないからこそ作中に登場させて、青いガーネットの希少(きしょう)価値がどれほどのものかを暗に読者にアピールしていたのかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] >この世には存在しない『青いガーネット』 『青いバラ』みたいなものかもしれませんね。 遺伝子組み換えや、交配技術の発達で、紫色ではなく青により近いバラが作られてきましたが、青いガーネットも人…
[良い点] 毎回、緻密な考察と読みやすい文体で、楽しませていただいております。 [一言] 「青いガーネット」は、私はジュブナイル版のホームズの「青いルビー」という邦題で初めて触れました。そのため、大人…
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