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名探偵を丸裸! シャーロック・ホームズ大事典  作者: 髙橋朔也 編著
ホームズの概要
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ホームズの食事

【ガソジン】

 これは有名な話しですが、ホームズはベーカー街221Bに『ガソジン』なる自家製炭酸水製造機を使って、訪ねてきた依頼人や刑事に振る舞いました。


 ガソジンはひょうたんの形をしていて、フランス式は球と球の間に蛇口(じゃぐち)があります。イギリス式はひょうたんの頂点に蛇口があり、ホームズの映像作品の多くがイギリス式ガソジンを使います。


 炭酸水を作る仕組みはシンプルで、密閉(みっぺい)された容器に水を入れて二酸化炭素を溶かし込むんです。


 上の球に酒石(しゅせき)酸と炭酸水素ナトリウムを入れて二酸化炭素を大量に発生させ、上の球に二酸化炭素が満ちると下の球に二酸化炭素が移ります。


 下の球に水などの炭酸にしたい飲料を入れていれば、二酸化炭素が溶け込んで炭酸となります。その炭酸水は蛇口をひねると、二酸化炭素(の圧力)に押し出されて蛇口から(あふ)れ出します。仕組みを簡単に絵にしました。下にあります。


挿絵(By みてみん)


 水を押し出すほど二酸化炭素の圧力はすごく強いです。その圧力でガラス製のガソジンが壊れないように、もっとも丈夫なひょうたん型になりました。ですが、それでもたびたび壊れたようです。


 ホームズはウイスキーのソーダ割り(現在のハイボール)を好んで飲んでいたので、ガソジンを愛用しました。


 短編『ボヘミアの醜聞』には『部屋の隅のウイスキーやソーダ水のサイフォンのある場所を指した。』とあり、短編『マザリンの宝石』で、ホームズはガソジンが昔の場所にあるとワトスンに言っています。


 『ボヘミアの醜聞』は1887年で、『マザリンの宝石』は1903年に起こっており、間は16年ほどです。16年もガソジンを置く場所が変わっていないということは、常備しているということでしょう。


 この点からも、ホームズがガソジンを愛用していることがわかります。




【ワイン通】

 ホームズはワイン通であり、フランス産の赤ワインのクラレットやボーヌも飲みましたが、白ワインのモンラシェを好んだようです。


 短編『最後の挨拶』では、ドイツの大物スパイであるフォン・ボルクを捕まえて、オーストリア皇帝の特別な酒蔵にあった貴重なワインのインペリアル・トカイで祝杯を上げました。




【ホームズはコーヒー党か紅茶党か】

 ホームズは朝食にコーヒー、事件の推理の時もパイプを吸ってコーヒーを飲んでいました。


 一晩で大きなポット二杯分のコーヒーも飲んでおり、イギリス人としては珍しくコーヒーが好きでした(イギリス人は紅茶)。


 参考文献の一つである『名探偵シャーロック・ホームズ事典』にはホームズはコーヒー党とはっきり書かれていますが、事実とは多少異なるようです。


 『名探偵シャーロック・ホームズ事典』はくもん出版の本なので、ある程度は子供向けに作られているからなのかもしれません。


 実際はホームズは紅茶も飲みました。そのため、シャーロキアンの間ではホームズは紅茶党かコーヒー党かという議論がされるようです。


 このことについて、日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員でシャーロキアンである(はやし)庄宏(まさひろ)さんは『ベーカー街では[ホームズは:引用者注]ワトスンともども、朝にコーヒーを飲み、夕方には紅茶をとる習慣(しゅうかん)だった。2人とも出先ではコーヒーも紅茶もとっている。こうしたことから考えると、ホームズとワトスンはコーヒーも紅茶もどちらも(たしな)み、「時刻」と「場所」によって使い分けていたということになりそうである。』と言っています。


 また、短編『まだらの紐』では、朝早く来た依頼人にコーヒーを飲ませて眠気覚ましに、短編『ウィステリア荘』では濃いコーヒーを飲ませて正気に戻させている描写があります。


 このことから林さんは、一晩で大きなポット二杯分のコーヒーを飲んだホームズはただコーヒーが好きで飲んでいるのではなく思考の覚醒(かくせい)作用を期待して飲んだのではないかと言っています。




【好物】

 ワインやコーヒー、紅茶などをホームズは好んで飲みました。そしてちゃんと、ホームズの好きな食べ物も存在します。


 それがローストビーフです。本頁で後述しますが、当時はローストビーフはそれほど豪華な食べ物ではありませんでした。


 ローストビーフは、正典で登場している『シンプスン料理店』の看板メニュー的なものです。シンプスン料理店は実在していて、その後ローストビーフはイギリスを代表するものとなりました。


 短編『瀕死の探偵』で断食(だんじき)をしていたホームズは、断食を終えるとワトスンをシンプスン料理店に誘っています。その理由は、ホームズは栄養のあるローストビーフを口にしたかったからです。




【朝食】

 短編『海軍条約文書事件』ではハドスン夫人の出す料理を、バラエティには欠けるが朝食の工夫に関してはスコットランド女性顔負けだと評しています。


 それほど、ハドスン夫人の料理が美味しかったのでしょう。その時のハドスン夫人が作った朝食はチキンのカレー料理とハムエッグ、紅茶とコーヒーです。興奮した依頼人には気付け薬としてブランデーが出されました。




【夕食】

 短編『花嫁失踪事件』では、ヤマシギが二対でキジが一羽、フォアグラのパイが一皿、蜘蛛の巣がはられた古酒が夕食でした。


 当時は牛、羊、豚よりヤマシギやキジの方が格上だとされていたようで、蜘蛛の巣のある古酒は酒蔵で保存されていた年代物のワインです。


 つまり、かなり豪華な夕食でした。その理由は、ざっくり言うと客人を招いていたからです。




粗食(そしょく)

 客人を招いている場合は、ホームズは豪華な料理にしました。しかし、客人などいない場合はそれほど豪華な料理を食べていません。


 事件があると、自分の作ったサンドウィッチをポケットに入れて出掛けたり、事件に熱中しすぎて食事を忘れることもあります。


 長編『バスカヴィル家の犬』では、ダートムアの荒野の岩屋で、ホームズはパンや牛肉の缶詰、桃の缶詰などを食べていた痕跡(こんせき)がありました。


 短編『黄いろい顔』では、ホームズの食事はひどく粗末なのが()()だと記されています。


 客人のいない場合のホームズの朝食は、ベーコン・エッグや(かた)()で卵などの卵料理、トーストなどを食べました。コーヒーも飲んでいます。




牡蠣(かき)

 長編『四つの署名』で、事件が終わりを(むか)えようとしていて上機嫌だったホームズは自ら牡蠣やライチョウを調理してワトスンや『四つの署名』事件を担当しているアセルニー・ジョーンズ警部に振る舞いました。食後はポートワインを飲んでいます。


 短編『瀕死の探偵』では、ホームズは海の底が牡蠣でいっぱいならないかと心配しています。


 また、欧米での『oyster(オイスター)』は日本語の『牡蠣』より意味が広いらしく、日本では牡蠣と呼ばないものまで欧米では牡蠣と呼んでいるようです。




【アセルニー・ジョーンズ警部】

 さて、本来の目的から()れる話し、つまり余談をしましょう。


 短編『赤髪組合』では、ピーター・ジョーンズという刑事が登場します。このピーター・ジョーンズは前述したアセルニー・ジョーンズと同一人物だと言われています。


 その根拠(こんきょ)は、ピーター・ジョーンズとアセルニー・ジョーンズの外見的特徴は同じで、『赤髪組合』ではピーター・ジョーンズは『四つの署名』事件について言及もしているからです。


 このことについて、マーティン・デイキンやリチャード・ランセリン・グリーンも、文脈の流れからするにピーター・ジョーンズとアセルニー・ジョーンズは同一人物だと言っています。


 グリーンはこのことについて、ワトスンが誤記した原因は『ピーター・ジョーンズ』という名前のデパートが1877年にスローン・スクウェアの西側で開業したからではないかと言っています。


 ジャック・トレイシーは、ジョーンズ警部は『ピーター・アセルニー=ジョーンズ』という複合姓(ダブルネーム)になりますが、複合姓は上流階級がすることなのでおかしいと言っているようです。


 複合姓とは、簡単に言うと『ピーター』が下の名前で『アセルニー=ジョーンズ』が上の名前だということです。これはホームズを生み出したドイルも同じで、ドイルの上の名前は『コナン・ドイル』です。


 現に、ドイルの娘の一人であるジーンさんは『ジーン・コナン・ドイル』となります(正式には『ジーン・コナン=ドイル』という表記ですが、本作では基本的にそういうのは省きます)。ドイルの複合姓については『前書き』の頁で少し触れています。

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