番外編 ライアンの幸せ
白百合号を降りた後、妖精のフォークでリヴィの『お疲れ様会』をした。ラウラが腕をふるって料理を作り、美味しかった。
日が暮れ、『お疲れ様会』は終わり、場所はラファル邸へと移る。
「今日泊まっていくんだよね? 学校明後日からなの?」
「いや、少し前に始まってる。伯父さんからは2年生の最初、遅くなるの許可貰ったみたいだし。明日は週末だから休みってだけ」
「ふーん。授業出遅れちゃったね」
「まー何とかなるよ」
「留年しかけたのに?」
「うっ……それはもういいの」
今はラファル邸の裏庭で、2人は散歩をしていた。オデット、サロメ、そしてラウラは、応接室でお茶を楽しんでいる。
夜の裏庭は、昼間とは全く別物だった。所々、花の形や動物の形に彫刻された光源石が置いてあり、青白く光っている。この庭は、リヴィの祖母リリアーヌが手がけた庭だ。
「留年したら、結婚遅くなるから気を付けてね」
「うん。もう大丈夫。リヴィが『別れる』なんて言わなければね」
ライアンはリヴィの手を取って歩いた。
「成績落ちる前は首席だったんでしょ。なら2年生でもなって。卒業も」
「頑張る」
「セドリックには負けないで」
「ははっ。相変わらず嫌いだね」
「意地悪なんだもん。ライアンだって嫌いでしょ」
いとこのセドリックとは、父親同士の仲が悪いのと同じで、息子同士も仲が悪かった。集まりでセドリックは、よくリヴィに意地悪をした――と言っても、幼い時だけだが。
それは好き故になのだが、リヴィにその想いは伝わっていない。リヴィに意地悪をする度、助けていたのはライアンである。
「兄さんとは違う意地悪。嫌い」
セルジュの話が出て眉をひそめる。そして、不満に思っていたある事を思い出した。
「ねぇ、なんでセルジュさんに髪紐縫ったの?」
「んー? 私がダメにしちゃったから。どうにかしないとって思って。なかなか良い考えだったでしょ」
リヴィとセルジュの最後の会話は聞いていた。最後だからと、色々と我慢していたが、どうしてもあの髪紐だけは納得出来なかった。
「そんなわざわざ作らなくても、買えば良かったんじゃないの」
「買えないでしょ。船の上なんだから」
(まぁ、そうなんだけどさ)
分かっている。
だが嫌だった。
『お疲れ様会』でもセルジュの話が出た。
リヴィの母オデットはセルジュの事を褒めており、リヴィにセルジュの昔話をした。それに便乗するように、リヴィもセルジュのことを楽しげに話したのだ。
それが気に入らず酒を飲み、気付けば「飲みすぎよ」と母サロメに止められていた。
(わざわざ作る? お金渡すだけで良かったんじゃないの)
「わざわざ作る? お金渡すだけで良かったんじゃないの」
(俺には手作りで何かくれた事ないのに)
「俺には手作りで何かくれた事ないのに」
(俺なんかより、セルジュさんを好きなんじゃ――)
「俺なんかより、セルジュさんを好きなんじゃ――」
「さっきから何言ってるの?」
リヴィの呆れた声がする。
「へ?」
「兄さんのことは好きだけど、ライアンとは違うよ。本当にお兄ちゃんって感じなんだよ」
(あ……れ?)
頭の中で考えていたことは、声に出てしまっていたようだ。
「だからもう、そんなこと言わないで」
リヴィは少し怒っているようだった。ライアンはリヴィと向かい合い、両手を取って立ち止まった。
「分かった。怒らないで」
「怒ってないよ。ただ……もう少し私のことも信頼して欲しいなって思って」
「うん。ごめんね」
「……ライアンって、たまに変に自信無くなるよね」
「それはリヴィのせいだよ」
「どうして?」
「愛情表現少ないんだよリヴィ。いつも俺ばっかじゃん。甘える時は甘えてくれるけど、少ないし……たまに冷たい」
リヴィは眉をひそめる。彼女なりにいっぱい甘えているつもりなのだろう。
「結構甘えてるけどな」
考えるように彼女はそう言う。
(ああ、これは直らないやつだ……)
『もっと甘えて欲しい』という、ライアンの要望は通りそうにない。
(それならやっぱり――)
ライアンはリヴィの手の甲にキスをした。リヴィは戸惑い、「どうしたの?」と聞いてくる。そんな彼女を抱き寄せて今度は額にキスをした。
「リヴィが甘えてくれないなら、やっぱ俺からしないとなって」
「え?」
ライアンはリヴィの顎を掬い、唇を重ねた。ゆっくりと唇を離し、微笑む。
「誰にも邪魔されないって幸せだぁ」
リヴィの頭に頬ずりをした。何より、これから毎週末はラファル邸に来ても良いのだ。彼女と堂々と出掛けることも出来るだろう。
少し大変だが、苦ではない。
(どこに出掛けようかな……2人っきりになれる所で、リヴィにあんなことをしてみたり――)
「ねぇ、ライアン」
「へ?」
リヴィから突然呼ばれる。変なことを考えているのがバレたのか、とドキッとした。
「さっきの話しなんだけど」
「さっきの?」
「うん。ライアンに手作りの物あげてないって話し」
良からぬ妄想がバレた訳では無いらしい。その事にほっとし、「ああ、うん。どうしたの?」と聞く。
「あのね、兄さんの髪紐を作る時、ライアンにも何か作ろうかなって考えたんだよ」
「へ?」
「それでね、作ったの」
ライアンは抱きしめることをやめた。リヴィはポケットの中に手を入れて、ある物を取り出した。
「布の……ブレスレット?」
「うん。これも元はフェイスベールだった。布を裂いて、編んだの」
リヴィはライアンの左手を取り、手首に巻いた。ライアンはそれをじっと見つめる。
――嬉しくて仕方がなかった。
何を言えばいいのか、声が出なかった。
「嫌だった?」
なにも言わない自分を見て、彼女はそう言ったのだろう。
「嫌? ……そんな訳ない。ないんだよリヴィ」
リヴィを力強く抱き締める。リヴィは「んぐっ」と声を出した。
「凄く凄く嬉しい!! 学校に行っても、ずっとリヴィが傍にいるみたいだろ!! 見れば常に思い出せるし、落ち込んでも元気が出るし、何があっても我慢できる。何より手作りっていうのが――」
「ラ、ライアン、苦しっ」
「あ、ごめん」
ライアンは力を緩めた。
「とにかく嬉しい、本当に」
「兄さんとちょっとしたペアっぽいでしょ。兄弟アクセサリーみたいな」
「んんん? それは……うーん」
「出来れば、前みたいに仲良くなって欲しい。その想いも込めてる」
セルジュのことは、前ほど好きではなくなった。だが、あの『お幸せに』という言葉は、リヴィを諦めたという意味だと受け取っている。
そう思えば、また以前のように好きになれるような気がした。
リヴィは不安そうに此方を見る。ライアンは安心させるように笑い、「分かった」と頷いた。
「リヴィ」
「ん?」
「愛してる」
そう言うと、リヴィは「私も」と嬉しそうに笑う。そんな彼女の唇に再びキスをして、笑い合い、幸せをかみ締めた。
***
「あの子達、ここから丸見えって分かってるのかしら?」
裏庭の様子を3人の夫人達が見守る。外は暗いが、光源石の彫刻の近くにいる2人の事はよく見えた。
「お2人とも素敵ですね。ライアンくんはリヴィちゃんのこと、大好きって感じで」
ラウラはうっとりと2人を見ていた。
「リヴィのこと大好きな子だとは思ってたけど、あんなにデレデレになるのね、うちの息子は」
「若いわー。リヴィも幸せそうで何より」
ふふっと笑い紅茶を飲む。3人とも2人の幸せを祈った。
すみません。レオナールの番外編もあります。
次はレオナールの番外編です。
その次はセルジュです。




