表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/89

84.お別れ前

「はぁ!? 船降りる??」

「うん……」


 太陽が照りつける中、上甲板をエミリオとデッキブラシで掃除をしている。フェイスベールはレオナールに発覚した為、もう着けていなかった。


 明日にはジャード港に着く。

 その為、その事を周りに告げなければならなかった。


「馬鹿じゃねーの? やっぱ坊ちゃんだわ。この船に乗りたい奴なんて、いっぱいいるんだぞ。就職倍率高いのに、それお前、コネで何とかしといて辞めたい!?」


「別にコネって訳じゃ――」

「嘘つけ坊ちゃん。もう分かってんだよ。お前のパパが無称号の貴族でも、ヴァンの貴族に金積めば頼めんだろ。知ってんだからな」


 ヴァンの貴族は他の精霊称号の貴族と比べ、あまり良い印象をもたれていない。


『金になるなら何でも商売にし、金を出せば何でもする』


 そういった印象であり、それは間違っていなかった。だがそのお陰で、どの貴族よりも裕福だった。


「コ、コネだとしても、お金払ってないもん」

「はぁ? そんな訳ないだろ! ほんと馬鹿だな。親に乗ってみたいってわがまま言ったんだろ。そんでちょっと乗ってみたら、案外辛くて辞めたくなったんだろ」

「違う! 僕だって乗ってたいよ」

「なら頑張って乗れよ!」


「家の事情が――」

「嘘つけ。坊ちゃんには、重労働すぎたんだろ」

「違う!」

「そうだ!」

「違う!!」

「そうだ!!」

「ちがっ――」


「ちゃんとやれ!!!! 馬鹿ども!!!!」


 2人はイーサンに怒鳴られた。


「また騒ぎやがって。いい加減にしろ!」

「ですけど……」


「何だ」

「リヴィが辞めるらしくてそれで……」


「辞める?」


 イーサンは目を見開き、驚いている。


「へぇー、意外。久し振りに外れたな」

「何がですか?」

「長年やってるとな、辞める奴と辞めない奴、って分かるんだ。リヴィは辞めない奴だと思ってた」

「家の事情がありまして……」


「あー、なら仕方ないな。じゃあ外れたのは無しってことで」


 イーサンは笑い、「セルジュが悲しむな」と言う。


「はい……それは、申し訳ないなと。せっかくいろいろ教えてくれたのに、辞めたら無駄になりますし……」


「それもあるけど、どっちかって言うと、居なくなって悲しむって感じだな。あいつ、お前の事可愛がってたろ」

「……ですかね」

「ああ。あんな可愛がってんの初めてかもな」


 イーサンは次にエミリオを見て、「お前も悲しいだろ」と言う。


「はぁ!? そんな訳ないじゃないですか!!」

「そうか? 友達が居なくなるんだぞ」

「友達じゃないです!!」

「何だよ。お前なりに引き留めたくて、騒いでたんじゃないのか?」

「違います!!」


「あーはいはい。あ、ここの掃除終わったら、リヴィはもういい。ルネさんのとこ戻れ。それから、戻るついでにセルジュ呼んできてくれ」

「了解」

「ちょっとイーサンさん! 訂正して下さい! こいつとは本当に友達じゃ――」


 うるさいエミリオを無視し、リヴィは再びデッキブラシをかけた。




***


 上甲板の掃除は終わった。そして今は、休憩中のセルジュを探していた。


 いつもの場所で寝ていると思い、そこに向かう。案の定、セルジュは寝ており、彼のハンモックに近付いた。いつもポニーテールにしている髪は下ろされている。


 肩より少し長い髪は顔にかかり、寝息を立てる度、1部が揺れていた。


 セルジュの事を起こす為、肩に触れようとすると右腕を捕まれた。彼はうっすらと目を開け「どーした?」と聞く。


「イーサンさんが呼んでる。休憩、終わりなんだと思う。それと……その……言いたいことが……」


 世話になっていた分、「辞める」とは言いずらかった。


「やっぱ後で――」

「今言え」


 セルジュは上半身を起こし、髪を耳にかける。


「あ……うん。あのね、僕、この仕事辞めないといけなくて、次のジャードで降りるの。兄さんにはいっぱいお世話になったのに……ごめんなさい」


 俯いて謝った。セルジュはひと言、「そうか」と言う。


(呆れてる……? そうだよね……)


 せっかく教えていた新人が、1カ月程で仕事を辞めたら、呆れるのも無理はない。教えていた時間、自身の仕事も出来ない。その上、辞められてしまえば、その時間が無駄になるのだ。


 いたたまれなくなり、リヴィは「じゃあ」と言って立ち去ろうとした。

 だがそれは出来なかった。セルジュがリヴィを、左腕で胸に引き寄せたからだ。


「頑張ったな」


(え……?)


 そう言って頭を優しく撫でた。


「大変だったろー。船の仕事は」

「え、あ、うん。でも楽しかった」

「そーか」


 セルジュはふっと笑う。優しく此方を見つめるセルジュは、いつもと違う気がした。


「兄さんがなんか優しい」

「馬鹿か。俺はいつも優しかったろーよ」


 セルジュとの事を思い返すが、優しかった記憶よりも、意地悪された時の記憶の方が多かった。


「うーんー……」

「記憶力わりーな」

「そんなことないもん!」


 リヴィがそう言うと、セルジュは笑いながらハンモックを下り、背伸びをした。頭を掻きながら欠伸をし、ズボンのポケットに手を入れた。


「さて、行かねーと。イーサンは遅刻したらうるせーからな……あれ……?」


 セルジュは、ズボンのポケットを探るように動かしたあと、床をじっと見つめていた。

 

「どうしたの?」

「髪紐が見つからねー」


 床を目を凝らして、髪紐を探す。リヴィも探そうかと足を動かした時だった。


「「あ……」」


 リヴィの靴の下に、髪紐が落ちていた。ジトッとした目で、セルジュはリヴィを見つめていた。


「ご、ごめんなさい」


 リヴィは慌てて髪紐を拾うと、紐の端を踏んでいたようで、プツッと切れてしまった。


「ご、ご、ご、ごめんなさい!!」


 切れているだけでなく、かなり汚れてしまっている。


「はぁ……まぁ、長いこと使ってたしな。寿命だったんだろ」

「換えの髪紐は?」

「持ってねーから、今度買う」


「うっ……弁償――」

「いーから、気にすんな。それに、髪切るかもしれねーし」

「そうなの? 何で?」

「まー……気分転換?」

「気分転換? ……失恋したとか?」


 冗談交じりにそう言うと、セルジュはリヴィの両頬を強めに摘んだ。


「いっ痛い」

「んなわけねーだろ。ほんと生意気な奴だな」


 セルジュはリヴィ頬を摘むのを止めた。じんわりと痛む頬を、リヴィは摩る。


「じゃあ行くわ」


 セルジュは中甲板を出ていった。リヴィはちぎれた髪紐を見つめ、肩を落とす。


「最後の最後で、悪いことしちゃったな……」


 ここに捨てるのは忍びないので、医務室へと持ち帰る。


 医務室には誰も居ない。

 ルネは、趣味部屋で楽しんでいる。リヴィがオリヴィアだと発覚してからは、八つ当たりの為に籠ることが多くなった。

 ベッドの上には、折りたたまれたフェイスベールがあった。それを手に取り、忘れないうちに荷物入れに入れた。


(仕事終わったこと、ルネおじ様に言わないと……)


 リヴィが医務室を出て、牢屋部屋を通ろうとすると、3つ子が帆を縫っていた。


(縫うの大変そうだなー)


 だがある事を思い付き、ふと立ち止まる。そして、3つ子にある事をお願いすることにした。


「すみません、裁縫道具貸してくれませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ