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81.戸惑い

***


(疲れた……)


 リヴィは膝をついて荒い呼吸を整えた。木刀は床に転がっている。そして、目の前にはエミリオが仰向けで転がっていた。


「もう……終わろうよ」


 あれから1刻半が経ち、試合は17試合目が終わった所だった。


 全試合リヴィの勝利である。だが流石に後半は疲れが出始め、何度かエミリオの攻撃も当たっている。


 野次馬はとっくに居なくなり、見ているのはイーサン、セルジュ、ドニ、テオだけである。セルジュは最初こそ止めようとしたが、リヴィの腕の良さを目の当たりにし、中盤からは特に止めようとはしなかった。


「い、嫌だ……勝ちたい……クソッ……坊ちゃんのクセに……」

「もう終わりにしろ、正直飽きた」

「うぅ……」

 

 エミリオは目に涙を浮かべ、悔しそうにしている。

 1度負ける事も考えたが、そうなると一生何かと言われる気がして、負けない事にした。


「リヴィ、大丈夫か?」


 セルジュが近寄り手を差し伸べる。リヴィはその手を取って立ち上がった。


「うん、兄さんありがとう」


 目を見てにっこり笑うと、再び目を背けられた。


(……なんだろう。やっぱり私、何かしたのかな……)


 じっとセルジュを見ていると、急に彼は「ああああああああ!!!!!!」と大声を出して頭を掻きむしった。

 驚き呆然としていると、頭を鷲掴みされぐしゃぐしゃに髪の毛を掻き乱された。


「や、やめて!!」


 やがてセルジュは満足したように、ふんっと鼻を鳴らした。リヴィは不満気に髪を整える。


「もう! 何するの!」

「うるさい、馬鹿な弟め。こっちにはこっちの事情があるっつーの!」

「知らないよそんなの!」


 むくれていると、セルジュが「ほら、恋人が来たぞ」と耳元で囁いた。振り向けばライアンがこちらに来ていた。


「リヴィ、どうしたのその痣」


 疲弊し、エミリオの攻撃を受けてしまった時、腕に数カ所痣が出来た。


「ちょっと、エミリオと木刀で決闘したの」

「え!? なんかうるさいと思ったらそんな事を!?」


「20回くらい戦ったけど全勝だったよ!」


 本来なら抱き着きたい所だが、我慢してふふっと笑った。褒めてもらえるかと思ったが、そんな様子は無く、ライアンは未だに横たわっているエミリオを睨み付けた。


 エミリオはずっと空を見ていた。イーサンに傍で「今度俺が鍛えてやるよ」と慰められている。


「さて、もう終わりだ――あ、船長達帰って来たな……早くねーか?」


 船縁に手を置いて、セルジュは言った。予定ではまだ王都に居るはずである。


 リヴィは風の剣(シルフィード)を手に取り、腰に着けた。


 紋章付きの馬車が止まり、従僕(フットマン)ジャンが荷物を取り出す。御者が扉を開けると、レオナールとヴァルが出てきた。降りて来たレオナールは怒っているように見え、ヴァルは何とも言えない顔をしている。


「あんれ……喧嘩したのかな」


 セルジュがそう言うと、イーサンが「げっ、マジかよ」と顔をしかめて言った。


「船長機嫌悪いっぽいな」


 ジャンが船に乗り、荷物を船長室へと運んだ。続いてレオナールとヴァルが船に乗る。2人が船長室へと入ると、ジャンは甲板下へと降りて行った。


従僕(フットマン)の人どうしたんだ?」


 彼は荷物を運べば直ぐに船を降りる。

 甲板下へと行くのは珍しい。


 少しするとルネと共に上がってきたので、ルネを呼びに行ったのだと分かった。ジャンはルネに一礼して船を降りると、ルネが船長室に入った。


 数秒後――。


「『なるほど』じゃ――」


 レオナールの怒鳴り声が聞こえた。最初の部分しか何を言っているのか分からなかった。その後もずっと怒鳴っている。喉が潰れてしまうのではと心配になる程だった。

 ある程度時間が経つと、落ち着いたのか怒鳴り声は聞こえなくなり、3人は船長室から出てきた。


 1番近くに居た船員と何かを話し、船員は此方を指差した。すると、レオナールを先頭にヴァルとルネも後をついて行く。

 

「リヴィ、俺の後ろに隠れて」


 ライアンがそう言ったので後ろに移動した。エミリオは慌てて起き上がった。


 レオナールは皆の前で立ち止まり、じっとライアンとその後ろを見据えた。そして、自身を落ち着けるかのように、ゆっくりと息を吸って吐いた。


「リヴィ」


 その台詞に驚き、戸惑う。

 いつもの話し方だった。

 何かの間違いであって欲しいと願った。


「ここはリヴィが居るべき場所ではない。言っている意味は分かるな」


 その願いも虚しく終わる。リヴィは隠れるのを止め、ライアンの隣に立った。俯き、顔を見る事は出来ない。


「来なさい」


 レオナールは踵を返し、船長室へと戻って行った。イーサンもエミリオも、ドニとテオもキョトンとしている。セルジュだけは察した。

 ヴァルとルネの顔は、残念そうな顔をしていた。


「行きたくない……」


 蚊の鳴くような声で呟いた。そっと背中にライアンの手が触れた。


「一緒に行こうか」


 リヴィはゆっくりと頷いた。2人は船長室へと向かうと、ヴァルとルネは溜息を吐いて2人の後を着いて行く。


 取り残されたセルジュ以外の皆は、何が起こったのか分からない。セルジュだけが悲しげな表情を浮かべた。

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