81.戸惑い
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(疲れた……)
リヴィは膝をついて荒い呼吸を整えた。木刀は床に転がっている。そして、目の前にはエミリオが仰向けで転がっていた。
「もう……終わろうよ」
あれから1刻半が経ち、試合は17試合目が終わった所だった。
全試合リヴィの勝利である。だが流石に後半は疲れが出始め、何度かエミリオの攻撃も当たっている。
野次馬はとっくに居なくなり、見ているのはイーサン、セルジュ、ドニ、テオだけである。セルジュは最初こそ止めようとしたが、リヴィの腕の良さを目の当たりにし、中盤からは特に止めようとはしなかった。
「い、嫌だ……勝ちたい……クソッ……坊ちゃんのクセに……」
「もう終わりにしろ、正直飽きた」
「うぅ……」
エミリオは目に涙を浮かべ、悔しそうにしている。
1度負ける事も考えたが、そうなると一生何かと言われる気がして、負けない事にした。
「リヴィ、大丈夫か?」
セルジュが近寄り手を差し伸べる。リヴィはその手を取って立ち上がった。
「うん、兄さんありがとう」
目を見てにっこり笑うと、再び目を背けられた。
(……なんだろう。やっぱり私、何かしたのかな……)
じっとセルジュを見ていると、急に彼は「ああああああああ!!!!!!」と大声を出して頭を掻きむしった。
驚き呆然としていると、頭を鷲掴みされぐしゃぐしゃに髪の毛を掻き乱された。
「や、やめて!!」
やがてセルジュは満足したように、ふんっと鼻を鳴らした。リヴィは不満気に髪を整える。
「もう! 何するの!」
「うるさい、馬鹿な弟め。こっちにはこっちの事情があるっつーの!」
「知らないよそんなの!」
むくれていると、セルジュが「ほら、恋人が来たぞ」と耳元で囁いた。振り向けばライアンがこちらに来ていた。
「リヴィ、どうしたのその痣」
疲弊し、エミリオの攻撃を受けてしまった時、腕に数カ所痣が出来た。
「ちょっと、エミリオと木刀で決闘したの」
「え!? なんかうるさいと思ったらそんな事を!?」
「20回くらい戦ったけど全勝だったよ!」
本来なら抱き着きたい所だが、我慢してふふっと笑った。褒めてもらえるかと思ったが、そんな様子は無く、ライアンは未だに横たわっているエミリオを睨み付けた。
エミリオはずっと空を見ていた。イーサンに傍で「今度俺が鍛えてやるよ」と慰められている。
「さて、もう終わりだ――あ、船長達帰って来たな……早くねーか?」
船縁に手を置いて、セルジュは言った。予定ではまだ王都に居るはずである。
リヴィは風の剣を手に取り、腰に着けた。
紋章付きの馬車が止まり、従僕ジャンが荷物を取り出す。御者が扉を開けると、レオナールとヴァルが出てきた。降りて来たレオナールは怒っているように見え、ヴァルは何とも言えない顔をしている。
「あんれ……喧嘩したのかな」
セルジュがそう言うと、イーサンが「げっ、マジかよ」と顔をしかめて言った。
「船長機嫌悪いっぽいな」
ジャンが船に乗り、荷物を船長室へと運んだ。続いてレオナールとヴァルが船に乗る。2人が船長室へと入ると、ジャンは甲板下へと降りて行った。
「従僕の人どうしたんだ?」
彼は荷物を運べば直ぐに船を降りる。
甲板下へと行くのは珍しい。
少しするとルネと共に上がってきたので、ルネを呼びに行ったのだと分かった。ジャンはルネに一礼して船を降りると、ルネが船長室に入った。
数秒後――。
「『なるほど』じゃ――」
レオナールの怒鳴り声が聞こえた。最初の部分しか何を言っているのか分からなかった。その後もずっと怒鳴っている。喉が潰れてしまうのではと心配になる程だった。
ある程度時間が経つと、落ち着いたのか怒鳴り声は聞こえなくなり、3人は船長室から出てきた。
1番近くに居た船員と何かを話し、船員は此方を指差した。すると、レオナールを先頭にヴァルとルネも後をついて行く。
「リヴィ、俺の後ろに隠れて」
ライアンがそう言ったので後ろに移動した。エミリオは慌てて起き上がった。
レオナールは皆の前で立ち止まり、じっとライアンとその後ろを見据えた。そして、自身を落ち着けるかのように、ゆっくりと息を吸って吐いた。
「リヴィ」
その台詞に驚き、戸惑う。
いつもの話し方だった。
何かの間違いであって欲しいと願った。
「ここはリヴィが居るべき場所ではない。言っている意味は分かるな」
その願いも虚しく終わる。リヴィは隠れるのを止め、ライアンの隣に立った。俯き、顔を見る事は出来ない。
「来なさい」
レオナールは踵を返し、船長室へと戻って行った。イーサンもエミリオも、ドニとテオもキョトンとしている。セルジュだけは察した。
ヴァルとルネの顔は、残念そうな顔をしていた。
「行きたくない……」
蚊の鳴くような声で呟いた。そっと背中にライアンの手が触れた。
「一緒に行こうか」
リヴィはゆっくりと頷いた。2人は船長室へと向かうと、ヴァルとルネは溜息を吐いて2人の後を着いて行く。
取り残されたセルジュ以外の皆は、何が起こったのか分からない。セルジュだけが悲しげな表情を浮かべた。




