79.子犬の試練
ライアンはシャワーを浴び、ベッドへと腰かけ、今日のデートを思い返した。
リヴィは愛情表現が少ないように思えた。今は男だから、というのも有るだろうが、それでも少し不安になった。
抱き締めることを途中で拒否され、大人気なかったが拗ねてしまった。その結果、リヴィからの愛情表現がなければ、もう自分からはしないと決めた。
そんな時に限って、リヴィは口元にキスをしてきた。
(あれはずるい……)
甘えてくる時は甘えてくるが、そうでない時は割り切っているように見える。
(猫……いや、子猫か……)
レオナールが獅子と例えられることから、リヴィは子獅子や子猫などと言われる。だがライアンにはリヴィが本当に子猫のように思えた。
ふっと笑い、リヴィがいるであろう隣の部屋を見やった。すると、部屋の扉を叩く音が聞こえる。開ければ両腕をさすっているリヴィが立っていた。
「ん? どうしたの?」
「その……」
ライアンは首を傾げた。
「寒くて……だから……抱き締めてくれない?」
可愛すぎるリヴィに思考が停止する。
「うん。おいで」
気付けばそう口走っており、リヴィを招き入れた。
***
中に入ったリヴィは 両腕をさすって小さく震えてた。ライアンの部屋も隙間風が吹いていた。
「リヴィ、こっち」
ライアンはベッドの掛け布団をめくり、そこに座った。そして、壁にもたれるようにして座り、足を開く。
「うん」
リヴィもベッドの上へと上がり、ライアンの隣に座る。肩を寄せてライアンにくっついた。
「そこじゃないよ」
「え?」
ライアンは自身の足の間を指さし、「おいで」という。
「え、でも――」
「いいからおいで」
半ば強引に腕を引っ張り、リヴィを足の間へと移動させる。掛け布団を上まで引っ張り上げ、リヴィを後ろから抱き締めた。
「暖かいでしょ」
「うん。ありがとう」
氷がゆっくりと溶けるような感覚だった。寒かった体はライアンの体温によって温まる。背中全面に湯たんぽをくっつけられている気分だ。
リヴィはライアンにもたれた。人間湯たんぽとして利用してしまった事は悪いと思うが、こうやって一緒に居られるのは幸せである。
ライアンは後ろからリヴィの髪にキスをした。リヴィはそれに気付いてライアンの方を振り向くと、彼は微笑んでいた。
互いにじっと見つ合うと唇を軽く重ねた。
「ふふっ」
本当はずっと甘えたかった。今回は店員が入ってくる事もない。存分に甘えてみようかと、ほんの少し向きを変えて、ライアンに抱きついた。
ライアンは頭を撫でようと右手を上げたが、ピタリと止まる。
「リヴィ……サラシは……?」
「んー? シャワー浴びる時に取って、濡れてたから干してる」
ライアンは黙り、動かなくなった。そんな彼をじっと見つめ、首を傾げた。
「ねぇ、リヴィ」
「なぁに?」
「誘ってるの?」
「え?」
「態とじゃないんだよね、リヴィのことだから……でもさ、もう正直誘ってるようにしか見えないよ」
「え? ――んっ」
啄むように、そして優しく包み込むように、リヴィにキスをする。
唇が離れ、額をくっつけた。
「キスで……我慢……しなくちゃ……な……」
少し辛そうな表情で、ライアンはリヴィの頬に触れた。
「我慢?」
「そう。あのね、リヴィ。俺を信頼してくれてるのは分かる。でも無防備に来られると、辛い時もあるよ」
「辛い?」
「そう。襲いたくなる」
「え……でも、ライアンはそんなことしないでしょ」
「一昨日の事思い出してもそう言える?」
「あれは、からかってたんでしょ?」
「そうだけど! でも、あれだって結構……いやもうほんと1歩手前で……」
そう言って口篭り、再び口を開く。
「とにかく! 俺は確かに耐えられる! けど、他の人にしちゃ駄目だよ!」
「う、うん」
必死にそう言うライアンを見て、とりあえず返事をした。
「このまま……抱き着いててもいいの?」
「……それはいいよ。むしろ……いや、いいや」
良かった、と思っているとライアンは頭を撫でてくれた。それが嬉しく、ライアンの胸に頭を擦り付ける。
そして、サラシの話をした事により、大事なことを思い出した。
(明日、サラシどうしよう!)
思考を巡らせ、ある1つの結果に辿り着いた。
「ねぇ、明日なんだけど」
「ん?」
「サラシ、私上手く巻けないの。だからライアンが目を瞑って巻いてね」
「え!?」
「一昨日言ってたでしょ。サラシ巻いてあげるって。それって巻けるって事だよね? だから明日巻いてね。でも目は閉じてて!! 見たら嫌いになるから!」
再びライアンは固まったが「わ、分かった」と答えた。
「ありがとう」
すると、ライアンは何かをブツブツと呟いている。耳を澄ますと「大丈夫、大丈夫、俺なら大丈夫」と呪文のように唱えていた。
「あと今日、添い寝してね」
「……へ?」
「寒いもん。部屋。暖炉も無いし」
「2部屋取ったのに!?」
「ルネおじ様には内緒にしてあげる」
そう微笑んで唇に軽くキスをした。
***
(ぐっすり眠っちゃって……)
夜、ライアンはリヴィを暖めるため、抱き締めるようにして横になった。
添い寝をする事は嬉しいが、自分の理性が壊れてしまうのでは無いかと不安もあった。
(可愛い……)
だがそんな不安はすぐに消え去った。リヴィの可愛らしい寝顔を見ていたいと思ったのだ。
(俺はリヴィを護る騎士だ。何があっても……リヴィが幸せで居られるように……)
「ううん……」
身動ぎ、彼女の毛布がズレてしまった。それを直して、リヴィの頬に触れる。
「リヴィ、俺の全て。これからも……ずっと――」
ライアンはリヴィの唇にキスをした。




