73.面倒な奴
銀色の髪の男は、レオナールとアリュマージュ侯爵を交互に睨み付けた。
彼の傍には2人程、オーの貴族がいる。その2人がレオナールとアリュマージュ侯爵の会話を彼に話したのだろう。
瑠璃の瞳には似つかわしくない炎が灯っていた。
「人身売買など恥を知れ!!!!」
レオナールとアリュマージュ侯爵は、互いにうんざりする様な顔を見せた。
「面倒な奴が来たぞ。後はカルム伯爵と話をしてくれ」
「はいはい」
「『面倒な奴』だと!?」
銀色の髪の男はギリギリと奥歯を噛みながら、中心のテーブルへと向かい、席に着く。
「私からしたら貴様達が面倒な奴だ!!」
男がそう言うと、レオナールは小馬鹿にする様に鼻を鳴らす。
「貴様達がやっている事は、人として最低な事なんだぞ!」
「何の話か全く分からん。分かりますか? アリュマージュ侯爵」
「いいや全く、ラファル侯爵。フルーブ侯爵の勘違いでは?」
「巫山戯るのも大概にしろ! 奴隷売買など、倫理に反している!」
「労働力の供給だ。買ったオーナーが求める労働を、買われた側がする。それだけの話だ。何か問題が?」
「大ありだ!」
「では聞くが、私がやっている事は違法か?」
そう言われ、銀色の髪の男――フルーブ侯爵は、下唇を噛んだ。レオナールがやっている事、奴隷売買――いや、労働力の供給は特に禁止にされていない。
「自分の考えた勝手な正義を押し付けるのはやめろ、フルーブ侯爵」
「……ラファル侯爵、では聞くが、15、16歳の女の子を奴隷にする話をして、その子が可哀想だと思わないのか? 話の内容から、ただの奴隷ではない。性奴隷だ。オリヴィア嬢と年が近い子なんだぞ!」
「……別に?」
「何だと」
「関係が無い。ヴェストリ出身ならまだしも、赤の他人の女がどうなろうと知った事では無い」
身内とそうでない者はきっかり分ける。
それがヴァンの貴族である。リヴィと年齢が近かろうが、そんな事は何の関係もなかった。
「貴様はやはり、オリヴィア嬢の事を何とも思ってないのだな」
「お前は一体何を言っているんだ?」
「レオナール、貴様には人の血が通っていないと言っている」
「エルキュール、お前の脳は凝り固まっている。もっとよく考えろ。そのカチカチの脳ミソを使ってな」
レオナールがそう言うと、ヴァンの貴族とフゥの貴族は小馬鹿にする様にオーの貴族を笑う。そんな2つの貴族達をオーの貴族は軽蔑していた。
ソルの貴族は我関せずで、中心に座っている土の大槌管理者は欠伸をしながら頬杖を付き、2人のやり取りを見ていた。
「ボードゥワン・ディアマンテ・パラン=シエル・エクリプス国王陛下が参られます」
一斉に入口に視線が集まった。扉が開き、80代の老人が真っ白に輝く宮廷服を身に纏い、車椅子に座っていた。薄い頭の上には、重そうな王冠を被っている。
付き添いの人物が、車椅子を押し進める。その後ろには、王笏が入った豪華絢爛な箱を持った男が立っていた。更にその後ろに、仰々しい装飾の小型ナイフをそれぞれクッションに載せた4人が立っていた。
会場にいる貴族達は、全員立ち上がりお辞儀をした。
「では、待たせたね。始めましょうかね。他の者は座りたまえ。私も立ちたくなってしまうよ」
フォフォっと笑う。これは彼なりのジョークなのだが、誰も笑っていなかった。
「毎回言うけども、少し笑ってくれても良いのにね。まぁ良いけどね」
国王がそう言うと、魔具管理者以外の貴族が座る。次に国王の後ろに居た小型のナイフを持った4人の男が、魔具管理者の前へと移動しナイフを差し出した。
管理者達はナイフを受け取る。
レオナールはナイフを右手で持ち、左手の人差し指を小さく傷付けた。じわりと滲み出て来た血を確認すると、当主の証である指輪にその血を付ける。
ナイフを返すと絹のハンカチを渡され、男は去った。
指輪は血を吸収する。
4人は右手を胸に当てた。
「ウルリシュ・ソル・カノンが末裔、ベアトリス・ソル・カノンがここに」
「ベルタルダ・オー・フルーブが末裔、エルキュール・オー・フルーブがここに」
「エアリエル・ヴァン・ラファルが末裔、レオナール・ヴァン・ラファルがここに」
「エファイストス・フゥ・アリュマージュが末裔、ゴドフロア・フゥ・アリュマージュがここに」
指輪に嵌められた石が輝いた。
「うんうん、分かっていたけど偽物じゃないね。わざわざ遠い所からご苦労」
国王がそう言うと、王笏が入った箱を持った男が、国王の横へと立ち、跪いて箱を開ける。
「では次は私だね」
国王はその王笏を手に取った。杖先には夜空のように輝く石がはめ込まれ、柄には【アゾット】と書かれている。
これは1000年以上前に、パランケルスが精霊王から授けられた杖だ。
「毎回思うんだけど、私は血つけなくていいの? 私が偽物という可能性も……あー、ハイハイ。いいんですね。知りませんよ偽物でも」
国王は手に傷をつけ、血をつけたりはしなかった。疑う事が失礼であり、ましてや傷を付けるなど以ての外だからだ。
「えー、コホン。パランケルス・シエル・エクリプスの名のもとに、我々は平等であり友人である。いいね? ではこれより、虹霓会議を始めましょうかね」
そう簡単に挨拶をし、4人が座ると会議は始まるのだった。




