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62.人喰い人魚

 ――上甲板。


 舟艇はもう用意されていた。船員が重い足取りの死刑囚を蹴り上げながら、ここに連れて乗せている。


「リヴィ!」


 急いでライアンが走ってきた。何故か慌てているようだった。


「乗るって聞いた。大丈夫なの?」


 本当はもっと近くで手を握りながら言いたい。だが近くに他の船員がいる手前、それは出来ない。


「大丈夫」


 微笑んだが、ライアンは笑っていなかった。


「でも、何かあったら――」

「何も心配しないで。新人は見てるだけなんだって」

「そう……なんだ」


 ライアンがほっとするのと同時に「リヴィ! 早くしろ!」とイーサンから言われた。


「じゃあ行ってくる」


 そのまま舟艇に乗った。


 ライアンは「自分も乗りたい」という言葉は飲み込んだ。ただでさえ新人が2人乗るのだ。もう1人乗るのは迷惑だと思ったからだ。

 そして自分の立場上、言えば乗せるしかないだろう。


「大丈夫かな……」


 そうポツリと呟くと「大丈夫なんじゃねーの」と声が聞こえた。


「セルジュさん」

「心配し過ぎの嫉妬しすぎ」

「別に――」

「まぁ、そんだけリヴィが好きって事は分かっけどよー。俺にそんな嫉妬しなくていーだろーよ。男は恋愛対象外」

「知ってます」

「いやしかし、ライアンが男もいけるとは思わなかったけどな」


 それに対して何も答えず俯いた。セルジュはそんなライアンを訝しげに見ていた。


「セルジュ!! 早くしろって!!」


 セルジュが舟艇に乗ると出発し、靄の中を進んで行った。ライアンはずっとその舟艇を見ていると「駄目だ。心配で眠れねぇ」とヴァルが隣にやって来た。


 何故休憩しないのか、と不思議そうにレオナールは見ていた。




***


「いいか、お前ら2人は俺らがやる事を目に焼き付けとけよ。次からはやるからな」

「「了解」」


 リヴィとエミリオは、船の後方に2人で座る。死刑囚は震えながら座っていた。他にはセルジュとイーサン、そして左眼に眼帯をしている船員が乗っていた。イーサンが死刑囚の首元に船刀を当て、他2人は船を漕いでいた。


 耳栓はもう既にしていた。くぐもってはいるが、声は聞こえた。


「セルジュ、耳栓してるか?」

「ハイハイしてますー。ホントこのやり取り飽きねーな」


 セルジュはウンザリするように答えた。


「何度思い出しても笑えるからな」

「何の話ですか?」

「こいつな、昔、耳栓取って魅了されて死にかけたんだ。笑うだろ」


 イーサンも他の船員も、当時を思い出して軽く笑った。笑っていないのはセルジュと死刑囚だけだった。


「そろそろだと思うんだけどな……あぁ、ほらな」


 舟艇の周りの海が白みを帯び光っていた。死刑囚の表情は恍惚の表情を浮かべ、舟艇から身を乗り出していた。セルジュは死刑囚の腕の拘束を解いた。


(あれ……? 歌が聞こえてる……?)


 人魚の時のように歌詞の無い歌だった。人魚と違うのは、美しいのだが怖さがあるような歌声だった。人魚はもっと明るい歌声だったが、今聞こえる歌声は怪談舞台で流れてきそうな歌声だった。


 ――だがやはり美しい。


(なんだ。やっぱり聞こえちゃうじゃん……それとも魔法にかからないってだけ? うーん?)


 死刑囚とは違い、特に何ともならないリヴィを見て、エミリオは眉をひそめ首を傾げた。


 水面に目から上だけ出した頭が現れる。1つ2つでは無く、リヴィが数えると7つ見えた。死刑囚は落ちそうな程に身を乗り出し、人喰い人魚(セイレーン)を求める様に両手を伸ばした。


 人喰い人魚(セイレーン)は近づいて、死刑囚の手を取り微笑みながら歌う。


 美しかった。だが人魚と違い、歯が全て鮫のように尖り、爪は鋭く長かった。


 人喰い人魚(セイレーン)は、死刑囚の首に腕を回して唇にキスをした。そしてそのまま海へと引きずり込み、彼は浮かび上がる事は無かった。


「よし。ニコ、頼んだ」


 イーサンが合図をすると、眼帯の船員が先程の死刑囚と同じ様に両手を伸ばす。魅了された振りをしているのだ。


 ニコのいる舟艇の左側に彼女達は近づき、彼の首に腕を回す。そして、唇を重ねようとした時、イーサンとセルジュが人喰い人魚(セイレーン)の首に縄をかけた。

 その瞬間、黒板に爪を立てて引っ掻いた様な悲鳴を上げて、暴れた。


 不快で仕方がない。


 ニコは急いで腕から逃れ、立ち上がる。人喰い人魚(セイレーン)は仲間を助けようと、爪で引っ掻いて攻撃してくる。そいつ等を船刀で斬りつけた。


 縄は引っ張れば引っ張る程、締まる様な仕組みになっており、人喰い人魚(セイレーン)が暴れる程締まっていった。

 人喰い人魚(セイレーン)の上半身が舟艇に乗り、セルジュが手錠をかけた。


「うわぁ。凄いなぁ」


 誰に話し掛けた訳では無いのだが、この状況であれば聞いているのはエミリオだけだ。だが、エミリオからの返事は無い。


 ――無視である。


(いや……別に良いんだけど、ちょっとくらい相づちうってくれても――)


 そう思い右隣を見ると、エミリオは人喰い人魚(セイレーン)と口付けをしていた。


 何故そうなったのか分からず混乱し、固まった。

 彼の手元には何故か耳栓があった。


(え……えぇっ!? 耳栓取ったの!?!?)


 慌ててエミリオの襟首を掴み、落ちていた耳栓を拾った。


「エミリオ!! 何してるの!!!!」


 リヴィが大声を上げ、3人は気付いた。


「エミリオ!?」


 イーサンがエミリオを掴もうとしたが、人喰い人魚(セイレーン)は一気にエミリオを海へと引きずり込み、リヴィもエミリオの服を掴んだまま一緒に海へと入っていった。

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